記録117_裏道
「ほれ、ここだぜ」
《隼鬼》に連れられた先は、一面に白い花の咲いた花畑であった。
「ねぇ…もしかして舐められてたりする?そこまでバカでもないんだけど?」
「あぁ?もしかして知らんのか?にわかめ」
「おい?黙れ?」
《隼鬼》は真っ白な花畑をまさぐり、一輪の花を見つける。
一面の白い花の中、その一輪のみ、他の白い花に埋もれて咲いていた。
「なんか、それだけ色違くね?」
「あぁ、巷じゃ『裏道』って評判のバグ技……いや、仕様だ」
白い花の中に一輪だけ咲いていたその花は微妙に灰色掛かっており、よくよく見なければわからないような色の違いである。
「ネットの裏情報サイトじゃ常識なんだぜ?この『裏道』から通れるエリアには経験値稼ぎにちょうどいいモンスターが馬鹿みたいにいるからな。違法サイトで“アカウント再発行権”を買ってサブアカウントのレベル上げに使うやつがほとんどだがな」
「ハァ!?アカウント再発行権!?違法とはいえ、そんなもん売られてんのかよ……」
《霊卓》はそういった裏事情に疎いため、激しく驚愕して頭を抱えた。
「そういや、《潜伏者》も《ドクター》から、『倒されても、もう一回ログインできるって言われた』って、ウォーマーで話してた気がするんだが、それと関係は?」
《食龍》が尋ねる。
「おう、よく知ってんな。その元《四天王》の《ドクター》が違法サイトで売ってるんだよ。なんでも天才ハッカーらしいからな」
「くっそあの野郎……。違法サイトだからってそんなもんまで売ってやがんのか…」
「ん?知り合いか?まぁ、元四天王だから面識があってもおかしくはないけどよ………」
少し《隼鬼》が不思議がると、《霊卓》の補足説明が入る。
「今さ、その《ドクター》が生み出したチート連中と対立中なんだよ。《コロッシウム》でもそいつらと戦ってさぁ………」
「師匠!私そんなチート連中と戦って勝ったんですよ!だからいい加減アイアンクロー離してくれませんかぁ!?」
「そりゃ無理だ」
《隼鬼》が片手で握っている《風姫》の頭からミシミシと音がして《風姫》の絶叫が聞こえる。
「とりあえず、だ。この花を摘めばその《ガーデンコール》の『裏世界』に行ける。話はそれからだ」
「そこに行くと、《真実の敵》と会えるって?」
「そーそー。黙ってついてくりゃいいんだよ。俺だって倒せなくて困ってるんだ。嘘を付く理由なんぞ何もない」
そう言いながら《隼鬼》は灰色がかった花を摘む。
その瞬間、《隼鬼》ピクセル状になって消滅した。
(アイアンクローで握られていた《風姫》も同時に消滅した。)
「………ねぇ《霊卓》、ほんとに大丈夫だと思う?」
「まぁ、ここで死んでもリスポーンできるんだ。行って損はないだろ」
《霊卓》と同じ場所をまさぐれば、全く同じ色合いの花が再び見つかった。
「あーこれか。慣れれば見つけやすいもんだな」
いとも簡単に見つけては、その花を摘み、《霊卓》もまたピクセル状になって消滅する。
「本当に大丈夫かなぁ……?」
「いざとなったら逃げる一択ですよ。さっき言い直してましたが、これは《バグ技》に見える、ただの仕様です。運営が即死トラップを仕掛けてるかことはないでしょう」
「まぁ、冷静な《カタクリフト》が言うなら入るけどさ……?」
そう戸惑いながらも《裏道》を摘み、消滅する。
残るは《カタクリフト》のみなのだが………。
「このまっさらな花畑の中、気配を消してあの人たちに気づかれなかったことは賞賛しておこうか」
振り返れば、そこには数人のプレイヤー。
全員、能力を複数持っている。
「読みが当たったね。あんなあからさまに、《スターロウ》を経由して情報を渡しているのに、それを野放しにするわけがない」
「へぇ?俺たちがどう言う魂胆だったかわかってるって言いてぇのか?」
リーダー風の男が問いかける。
「もちろんだとも。《スターロウ》のアバターの主導権を奪い、情報を提供。それに食いついた俺たちが、《スターロウ》を助けるために各惑星に行って《真実の敵》を見つけさせ、倒させる。最後に、俺たちが《真実の敵》討伐後の弱ってる隙に攻撃、眠ってる《睡魔》も奪うも倒すも自由自在ってとこだ」
「ほぉ?大体合ってるな。《錬金翁》の入れ知恵か?」
「いやぁ、お婆ちゃんの知恵袋ならぬ、お爺ちゃんの知恵袋だったね、あれは。名推理だった」
《錬金翁》の推理シーンを明確に思い出しながら快活に笑い、頭を掻く。
「で?《ガーデンコール》の《裏世界》以外はPvP禁止ゾーンだぞ?《裏世界》に着いた後にカミングアウトすればよかったものを、なぜ今このタイミングで俺たちに言う?」
「《裏世界》はまだ未明な部分が多い。俺視点からだと《裏世界》に何があるのかっているのはまだわかってないから、ここで手を打つ必要があるんだよな」
そういいながら、《カタクリフト》は構える。
「おいおい。さっきも言ったがよぉ、ここはPvP禁止エリアだぜ?」
嘲笑するリーダーに、《カタクリフト》は一つ問う。
「時に、攻撃とはどのようなものかな?」
「あ?攻撃は攻撃だろうが。相手のHPが減れば、それは攻撃だよ」
「なら、落下ダメージは、攻撃か?」
「それはぁ……いや、ちがうな」
その時には、薄々勘付いている人間も多かっただろう。
しかし、時はもうすでに遅かった。
「ひっ、ひいぃっ!!」
数人のうちの一人が逃げるように走り出す。
が。
「!?うごぉ!?なんだ、これ。段差……?」
逃げたやつは盛大に引っかかって転んだ。
「そこにあるのは、《霊卓》の《ポルターガイスト》で固定した花が咲き乱れてるよ」
「なるほど、《霊卓》!彼が気づいてないはずがなかったか。迂闊だったな。…………っ!!」
そう言ってられるのも束の間。
《カタクリフト》は、《ポルターガイスト》で固められた花に沿うように《機械化》で作った帯を張り巡らせ、一気に狭めることによって全員を捕まえた。
《機械化》はその内にいるチーターたちを締め付ける。
「待て、お前まさか………」
「ここで真上に投げると、『裏道』わかりやすくなるから、おぉ…….っらぁ!」
《カタクリフト》は縛り上げたチーターを、抵抗も意に介さずぶん投げた。
「ま、待て。これは、死、ちょ。いや、ああぁぁぁぁ!!!!」
その声はだんだんと遠くなり、次第にグチャッという音が聞こえた。
その音を確認した後に、《カタクリフト》は『裏道』の花を摘んだ。




