記録111_《睡魔》の眠り
「…ねぇ、どうすればいいの?これから」
「俺たちだって考えてるさ…」
救援要請を受けてやって来た《睡魔》、《食龍》、《スナイパー》、《カタクリフト》、《錬金翁》。
《集眼》は、能力発現の予兆があり下手には動けず。
《霊卓》は、《錬金翁》のアバターでマニュアル操作の《錬金術》を使った反動が脳に来てダウン中だ。
《風姫》は、万一の為にその二人の護衛についている。
各々、船の運転席に座って微動だにしない《スターロウ》を眺めている。
「まずいな……。確かに、こいつを人質に取られると、今立ててる隠し能力掃討大作戦の根幹の部分が狂うからな」
「そんな作戦なんも知らされてないんだけど」
「知らせてないからね、そりゃ」
《睡魔》は質問にドライに返すだけ返して頭を悩ませる。
そこで、思い出したように一つ、《睡魔》は問い詰められた。
「そういやお前、寝てるのか?」
それは、今まで《錬金翁》が年上として《睡魔》を見ていたからの発言だ。
「何を親みたいなことを……」
「そういや確かに。アンタ、丸々12時間寝ても寝足りない体質だったでしょ?」
彼、《睡魔》の体質である『ロングスリーパー』。
彼はその中でも長い方で、最大睡眠時間は約15時間だ。
ゆうに、一日の8分の5である。
彼のプレイヤーネーム、《睡魔》は学校の授業で寝過ぎたが故についたあだ名であったが、授業を寝るのもこれが理由だ。
通常の学生生活では、彼の睡眠をカバーすることはできない。
彼の意識は日々消耗され続け、週末の休日は睡眠で1日が終わるのが日常。
そんな中、学校の帰りから夕飯までの時間のみを駆使して《メビウス》で頂点に輝き、寝てはいるものの学校の授業に置いてかれないように復習も欠かさない。
それが、《メビウス》創設者『臣長 英二』の息子、大天才『臣長 真人』なのだ。
そんな彼だからこそ、そのような作戦を精密に考える時間はそうそう取れない。
彼の1日の大部分を占める、睡眠時間を削らない限りは。
「おい、真人。直近24時間、何時間寝た?答えろ」
「そうだぞー、無理はダメだぞー、はんたいはんたーい」
「えーっと…、午前4時寝、午前8時起き」
「4時間だぁ!?ただでさえ普通の人よりくそ長ぇ睡眠時間なくせに、普通の人間でもキツイ寝方をするな!」
「これワンチャン一回瞬きしたら堕ちるんじゃね?」
「兄貴ぃ、無理しないでくださいね?」
「《睡魔》、そのまま、倒れて、起き上がらなければ、いいのに」
「こら、舞。なんでそんなにずっと毒舌なのよ」
「ぶう、巨城のトラップでの恨み……」
わらわらと《睡魔》に近づいてあれやこれやと揉まれていく。
「や、やめ。俺、限界!」
流石の《睡魔》にも堪えたか、ギブアップを宣言しながら息を整える。
「てか、俺がそんなにやわに見えるか?これから俺は《隼鬼》に「厄介なやつ寄越すな」ってのと「ポーションありがとう」ってお礼参りに行かなきゃならねぇんだ」
「じゃあお前、コイツよく見てみろや」
「おぉん?どれじゃい」
《錬金翁》に見せられたのは小さな銀細工。
こんなものを見せて何をしようかと思っているのかと考えながらも、目をすぼめて眺める。
そう、目をすぼめて。
「……すぅ、すぅ………」
「よし、上手くいったな」
《錬金翁》が持っていた銀細工は、本当にただの銀細工だ。
細かい彫刻なんて一つも彫られていない。
しかし、彼の目的はこの銀細工を見せるためではなく、《睡魔》の目をできる限り薄くさせて目を閉じさせようという作戦であった。
この安易な作戦に、寝不足で頭の働いていない《睡魔》はまんまとかかって、《睡魔》は呆気なく眠ってしまったわけだ。
「よし、これで1日ぐらいは目を覚さないはずだ。その間に、俺たちは《隼鬼》へのお礼参りと《スターロウ》の意識の奪還だ。準備はいいなー?」
「兄貴の負担を無くすためッスね、頑張りましょう!」
「ねぇ、《食龍》。そんな、兄貴とか、言う、キャラ、だっけ?」
「あー、なんか違和感あると思ったらそれか。直して直して。タメ語が一番落ち着く」
かくして、誰も予想だにしなかった、奴らとの戦いが幕を開ける。




