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記録108_解放






 必中であったはずの銃弾は《錬金翁》の頬を掠めて彼方へと消える。


 そこには虚しく、拳銃を持った《咎人》と鉄球を持った《錬金翁》が残っていた。



「……なぜ、作れる?お前は、精密な《錬金術》の操作には、まだ不慣れなはずだろうが……っ!!」



 怒りを顔に歪め、心底嫌そうに吐き捨てる。




 その言葉に、彼はこう言った。





「あんな若いやつを、人殺しにはできないよ」


「……連蔵、か」





 これな、《霊卓》のアバターを使っている最中の連蔵が思いついた、策だ。



 今、現実(リアル)の地理的には、連蔵のメートル隣には早昌がプレイしている。



 なら、《咎人》が懺悔のようなことを喋っている間で、急いで使っている端末を交換して再びプレイヤーを元に戻したのだ。





 連蔵本人も、早昌も、もはやそれが“最善”ではないことに気がついていた。



 思いつく策どれもが“次善策”に過ぎず、最良の結果はすでに取りこぼている。




 だが、これでなければならないと言うのを決定付けたのは、しっかりとした『理性』だ。



 その『理性』によって、高校生の踏み越えてはいけないラインに気づき。


 大人として責任を取ろうという、残酷なエゴも生まれた。






 そのエゴさえ無ければ、相手に恨まれながら死んでいくことも無かったのに。


 その責任への執着さえなければ、こんなずる賢く、相手を騙して相手を殺すことなんて思いつかなかったのに。





 今の《咎人》の気持ちにもなってみろ。



 早昌が扱う《錬金翁》ならば、最後に一矢報いて終われるかもしれない、と。


 勝利の光明が見えてきて、これならば勝てると思った瞬間に、その光明をさえぎるように現れた、連蔵の“責任感”。




 高校生に殺しをさせたくないと言う勝手な理由で、瞬時に手元に作り上げた剣を振り上げる。




「お前からしてみれば、これはただのズルかもしれない。お前からしてみれば、ただの尊厳の破壊かもしれない。それでも、俺は一人の大人として、ゲームを介してとは言え、高校生に殺しはさせない」





 その詭弁に、《咎人》は少し目を瞑って黙りこくる。




 そして、顔を見上げてこう言った。






「それも含めた戦略だ。それに、《錬金翁》のログアウトを狙った俺たちが言える立場でもないからな。しょうがない、だろ」



 それを言った瞬間、彼の肩を剣が通り過ぎる。




 大きく切り裂かれた腹からは血が吹き出し、そのまま《咎人》地面に倒れ伏した。







「無事ですか?《錬金翁》()()




 《カタクリフト》と《風姫》がやってくる。


 それに答えようとするも、緊張状態からチカラが抜けて《錬金翁》も崩れるように仰向けになった。



「!?大丈夫ですか!?」


「…………ぁ、」



 倒れたまま答えることもできず、仕方なく、真上を指差した。




 上空では、このコロシアムに張られていた結界が崩れていった。


 きっと《咎人》か《愚聖者》が張ったであろう、巨大な通行不能の結界だ。



 《内壊針華》の餌食とならず、コロシアム内で息を潜めていた剣闘奴隷たちがコロシアム外へと顔を出して、外へと出ていっている様子も見える。






「……これは……」



「お前の勝ちだ、《錬金翁》」





 首を横に倒せば、帰ってきた《睡魔》達がいた。






「これで、《コロッシウム》は攻略完了だよ」



 バラバラに崩れてゆく結界の中、一つの惑星で起きた戦いは、ひとまず幕を閉じることになった。


 敵方の、僅かな犠牲によって。









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