記録106_《咎人》&《愚聖者》
「あのー、早くありません?《愚聖者》やられるの。まだ二つに分かれて戦い始めてからちょっとしか経ってないじゃん?」
「チッ、使えねぇなぁ。所詮隠し能力だけの初心者か」
《咎人》は悪態を吐きながら、新たな《罪》の発動条件を増やしている。
「……『宣言』がないと、いささかやりにくいな」
俺の行動を見越して《罪》の条件を変えてくるから、いつ条件が変わって、いつ俺がそれを破って、いつ『必中の糸』が出されたのか。
今、それらが全て曖昧な状況に立たされている。
「やはり、プレイヤーとしてのレベルは《愚聖者》よりも高いみたいだな」
「確かに俺ぁアイツとよく行動を共にしていたかもしれねぇが、アイツと同等と思われんのはちょいと癪だな」
《咎人》の右腕の裾から鎖が伸びて、《錬金翁》の左腕を掴むが、《錬金翁》は皮膚の表面の気体を薄い膜にしてそれを外す。
攻撃も、それなりに道筋を立て、計画性のある組み合わせ方をしている。
なるほど、技術としては、プロゲーマーと同等だな。
「……惜しい。なんでお前は、そっち側にいる」
「なんでって……名前を見てわからねぇか?」
「…名前……なるほど」
閃いたように《錬金翁》の姿をした早昌が視線を落とす。
「………罪、か」
「そうさ、俺は…………」
ただの罪人なんだ。
〉〉〉
《愚聖者》とは、現実でも知り合いで、仲も良かった。
アイツは礼儀正しく、『聖者』というよりは『正義のヒーロー』がお似合いだった。
決して崇高な信仰心や平和への志があったわけではなく、ただ底なしに、優しさを持ち合わせることができる人間だったんだ。
だが……だからこそ。
ここまでついてくるのは、やり過ぎだったんだ。
俺が初めて罪を犯したのは、高三だったか。
勉強を理由にして、今まで仲が良かった女友達を拒絶してしまったんだ。
これに関しては、今でも後悔してるし、やり直したい。
それは、他の理由がなくても、そうだ。
次は、大学でやったことだ。
大学で明らかな違反行為を発見して、密告した。
《愚聖者》……いや、反田 聖也と一緒にいたから、そういうのに敏感になってたんだろう。
恨みを買う行為だとはわかっていたが、友人である聖也と告発した。
聖也は、それが正しいと思っているからやっていたんだ。
しかし、これは人を追い込むきっかけとなった。
結果的にこれは、俺たちが犯した罪と加算されていった。
次は大学を卒業した後の就職先で、深い事情のある女性とお付き合いし始めたこと。
この付き合っていた女性が、俺の人生を大きく狂わせようとしていたんだ。
あと、最後に犯した罪は、自分たちが『正義側の人間だ』と思っていたことだ。
それらの罪が積み重なり、俺たちは隠し能力派に着くことになった。
詳しく言うと……そうだな。
俺が付き合った女性が、実は大学で違反行為をしていた野郎に調教されたただのペットで。
その女性を介して、もはや俺たちになんの関係も無い高校生の頃友達だった女子が、俺たちが密告した野郎達に喰われたってだけの話だ。
その様を、俺宛てに送られたってだけの話。
あぁ、そういえば、これも罪に含まれるのかもしれない。
「それを見ておきながら、肝心な時に助けることができなかった罪」
「それを見て、後悔や懺悔以外の感情が芽生えてしまった罪」
「それが全て、裏では《ドクター》によって計算され尽くしていた悲劇であった事を見抜けなかった罪」
《咎人》と言う名前を付けたのは、過去の失敗、しがらみに囚われ、何をするにもそれを引きずり、結果的に何事も為さない人間であると思ったからだ。
《愚聖者》も僕が名付けた。
俺の『罪』に巻き込んだせいでちょっとした精神障害になり、何かしらの役職をつけてやらないとそれに成りきれないから。
《愚》であるのは俺だが、聖也がそれを打ち消してくれる《聖者》であることを、俺は信じていたから、俺はこの名をつけた。
結果、今回の件で《愚聖者》はすぐに殺されてしまったが、俺はそこまで怒りなどの激情を抱くことはなかった。
なんだ。
俺も、こんなくだらない罪で壊れてしまったのか。
〉〉〉
「俺はもう壊れてるんだ。なんの関係もない女と野郎のせいでな。《愚聖者》も、居なくなったのは悲しいが、こころの中では『しょうがない』で決着が着いちまう……」
本来ならば、もっと前に死んでいるべき人間だったのかもしれない。
それを、今までズルズルと引きずってきたツケが、ここで回ってきたんだ。
しょうがない。
しょうがないとは、思ってるんだが………。
「それで引き下がれるほど、俺も、《愚聖者》も、後悔するような人生送ってきてねぇんだよ」
「………なんの話だ?」
「たとえ、本当に俺が悪かったのだとしても。たった一つの告発で俺達の人生の意味がなくなったとしても。その行動に間違いを覚えたことはない……」
瞳には覚悟を据え、顔からはこれから来る運命を受け止めている。
そんな奴に、俺は問いた。
「…………もう、振り返る気はないんだな?」
「なぜ、俺が振り返れると思ったんだ?」
「お前が犯したと言う罪は、全てお前以外の環境の問題もあったんじゃ無いのか!?やり直そうとは、思わないのか?」
「………《メビウス》には珍しい、まともな人間の意見をどうもありがとう。《錬金翁》なら絶対に言わない言葉だな」
ゆっくりと、《咎人》は構えを取る。
《愚聖者》、愚かな善人。
友人と正義を掲げ、反撃に耐えられず精神を壊し、聖者に成り切らなければ生活できなくなった男。
そして、
《咎人》、囚われた人間。
過去に自身の周りで起こった不幸全ての自責の念を抱え込み、友人ともども狂ってしまった男。
運命共同体のように同じ路を辿った、悲しき二人の男たちの名である。
《咎人》の過去編書こうと思ったら、考えてた過去とすごいズレて、なんだか難解で意味不明な出自になりました。
作者、焦りました。
ご容赦ください………




