記録104_《錬金翁》の救世主
「ど……どう言うことですか!?《錬金翁》さんが…連蔵さん……?ではないって!!」
《風姫》が問う。
《風姫》はまだ出会って間もないため、《錬金翁》の本明を知らない。
しかし、その異常さは理解できた。
基本、《メビウス》はゲーム機を装着した人物の網膜などの個人情報を参照してログインする。
それなのに、《錬金翁》が元々とは違う人物でログインできていると言うのは、普通はありえない状態だ。
それが実現できるのは、《ドクター》並のハッキング技術を持った“何者か”か、なんらかのウイルスによるもの。
しかし《錬金翁》が今、それらのウイルスに引っかかるはずもなく、隠し能力派閥が知らないことから、《ドクター》の仕業ではないことがわかる。
ならば、今ログインしているのは何者で、どうやってログインしたのか………。
「わからないか?」
その声が聞こえたのは、観客席。
その声を上げたのは、《霊卓》その人であった。
「さっき言ったろ、アイツ。すげぇカッコいい奴が助けにきてくれたぁ〜、ってな。その時、できることがあるだろ?」
「まさかおまえぇ………」
《咎人》は気づいたようだ。
この、何の変哲もないトリックに。
「別に何のこともない、その連蔵、本人にログインしてもらったに決まってるだろ。なぁ?《錬金翁》、もとい早昌よぉ?」
《霊卓》、いや《霊卓》でログインしている誰かが言った。
「つまり、《錬金翁》本人を襲った奴らを、《霊卓》本人が現場に向かって片付ける。そして、《霊卓》と《錬金翁》がログインした後に機器自体を交換した……」
《愚聖者》が理解の追いつかないような戸惑いを浮かべて呟く。
「よくわかってるじゃねぇか。蓮蔵自身は《罪》の攻撃を見切ることができなかったが、俺ならばできた。だから、《咎人》を完封するために俺がきたんだ」
《錬金翁》のガワを被った早昌が説明する。
だから、急に《錬金翁》に《罪》の必中の糸の先読みができるようになったり、《法則の破壊者》を使わなくなったのだ。
《法則の破壊者》は、蓮蔵が自身の脳で独自に作り出した最強の物質なため、早昌には扱えなかった。
「だから、《カタクリフト》さんは急に砕けた口調になったわけですね……」
「《錬金翁》さんは年上だし《四天王》だけど、コイツはタメで常連だからな。雰囲気が変わってなんかそんな感じがしたわ」
《カタクリフト》は上位ランカー達との関わりが深い方だ。
惑星に居た頃から武器の作成スピードと最高度の品質が保たれていて、最も信頼できるソースの一つだったからだ。
「よし、俺は慣れない能力でかなり頭を使う。だから、敵は《カタクリフト》と《風姫》で頼む!《罪》の対処は勝手に俺がやる!」
「「了解!!」」
そう言った瞬間、《機械化》の《全自動モード》を使った《カタクリフト》と、刀を抜いた《風姫》が走り出す。
その直後、背後から激怒した声が聞こえてくる。
「……随分とコケにしてくれるじゃねぇかぁ……。俺が勝てば《霊卓》が、お前が勝てば《錬金翁》がどれほど能力頼りで戦ってきたかわかるからいいけどなぁ」
「とか言いながら、負けた時はスゲェ悔しがるんだろうなぁ。目に見えてるぜ?《咎人》さんよぉ?」
「ほざけ、クソガキぃ…っ!!」
その一方で、《愚聖者》は落ち着いていた。
「《咎人》は怒りっぽいですからね。我慢しろと言う方が無理でしょうが、私は違う」
《カタクリフト》と《風姫》が、走った勢いで双方から刀と《全自動モード》の槍で攻撃されるが……。
キイイィィィィ!!!
急停止して後退する。
「……チッ。そういえばコイツは『平常と異常を逆転させる』能力だったな。厄介だ……」
今、《愚聖者》が撒いたのはただの砂だ。
砂ならば、刀や槍を使う上で無視していいものだ。
それが、『平常』。
しかし、砂が舞う中武器を振るう行動を『異常』とした。
そうすることによって、彼にとって、舞った砂は鉄壁と同じなのだ。
「小細工が……っ!」
「それも戦略の内、ですよ?」




