プロローグ
惑星ウォーマー。
戦闘民族のような頭が脳筋の奴らしか来ない惑星だ。
この惑星は、戦い、勝ち進み、奪い取る。
ただ、それだけのために、ここに来る奴らが大半だ。
今日も、この惑星は戦いで溢れていた。
一部を除いて。
あるクラン、《ヒュプノス・アメーバ》の拠点。
そこではボスの《アメーバ》とその部下達が下品に騒いでいる。
「うぇっへーい!今日も無駄に裕福のイキッた雑魚共が惑星に来るからたんまり稼げますねぇ!《アメーバ》さん!」
「上等な装備、大金の山、死体の数々!いいねぇ!王にでもなったみてぇで心地がいいぜ!」
「もうここらじゃ敵なしじゃあないですか!?」
「もう《アメーバ》さんに勝てるやつなんて世界に10人といねぇぜ!!」
「……じゃあ、手合わせ願えるかな?その世界の上位10人入る実力、興味があってさ」
どこからともなく、若い男の声が聞こえる。
「あぁ見せてやらぁ。おらちゃったこっち来いや……?」
その刹那、一番西側の部下の首が切れると同時に、一人の鎧の男が姿を現した。
「え?」
ビシャーーン!
と、大きな音を立てて首から下が倒れる。
部下と言っても、それなりの実力がある精鋭が集まっているようなクランだ。
ボスの《アメーバ》と実力が近い奴も少なくない。
安い狂人なら2人がかりで倒せるほどである。
そんな奴を登場と同時に瞬殺。
そんな惨劇が目の前で起きたならば、その鎧男の実力は火を見るより明らかと言えよう。
鎧男の装備は装飾の付いた騎士鎧に二つの黒い片手剣。
見た感じだと、それくらいしか無かった。
「待て待て待て待て!話し合おう!分かり合えるんじゃないか?もうちょっと模擬的な試合でもいいじゃねえか」
「おっと、残念だなぁ、世界ランク10位に近いやつなんて、この惑星じゃそんなに会えないんだから。やらせてくれよ」
「ならよぉ……」
ザッ!
クランのメンバー全員で取り囲む。
「こいつら全員も追加だ。お前ら、行けぇぇ!!骨すら残すな!!チクショウがぁ!」
こういった場面に慣れているのか、クランのメンバーが連携し、次々と襲い掛かってくる。
「イキってる雑魚ほど、弱い奴はいないんだ。知ってる?」
おもむろに左手の片手剣を振るうと、周りのメンバーが全員、腹から両断され倒れた。
「なっ、てめええぇぇぇ!!!」
「正当防衛に入ってるよな?これ。あ〜、さっきのやつまだもうちょっと早く首取れたかもなぁ」
変な軌道で彼は移動する。
移動している姿は見えない。
いや、というよりも俺たちが存在していない時に移動したと言われた方がスッキリするような動きだ。
彼は相変わらず変なことしか言わず、クランの奴らは全員恐怖して後ずさる者ばかりだ。
「えっと?クランリーダーさん?今さっき、俺に敵対するように、全員追加って言ったよな?言ったならさぁ……?」
「皆殺し。ということで戦って構わんよなぁ…?」
その瞬間に、前線のメンバーは背中を向けて逃げ出す。
「敵に背中を向けるのは、オススメできない、よっ!」
しかし、一人と余さず逃げ出した全員の首があっさりと飛ぶ。
「テメェら自分の命を惜しまずに行けぇ!人海戦術だ!!死んでもいいやつを前に出せ!!」
怯んだはいたが、怯んでもリーダーである《アメーバ》に倒されるため、仕方なく鎧男へと挑んでいく。
しかし……。
「能力、『スリラー』派生、《ビリー・ジーン》、発動!」
その瞬間、辺り一帯の時間がスローになった。
「これね、最近使えるようになった能力。時間の流れを操作できてね。まず、いつもの時間の流れる速度を1倍とすると、俺は2倍にも0.5倍にもできるんだ。大体操れるのは現実世界で1分程度なんだけど、その間にどこまでも使える。そうどこまでも、つまりね・・・」
どんどんとスローになっていき、次第に、止まっていった。
「これが、0。時間停止状態。そして、僕はこれ以上いけるんだ。0から、−1倍。そう、時間逆行ってやつだ」
周りの全員が、人海戦術の隊形になる前までの行動を逆再生のように繰り返して動く。。
「そして、この中で唯一動けるのは、俺ただ一人だ。そろそろ時間かな、《ビリー・ジーン》、解除」
その瞬間、動き始める。
動いたのは、首だ。
人海戦術の隊形を成していた者たちの全員の首が飛んだ。
「はあぁ〜あ、やっぱイキってる雑魚しかいなかったなぁ、このクラン」
「調子に乗ってんじゃねぇ!世界ランカーの俺が相手だよ」
クランのリーダー、《アメーバ》が動き出した。
「さっきから聞いてりゃ、皆殺しだの雑魚だのよぉ?世界ランカーの俺に勝てるわけねぇだろうがぁ!」
「あ、本当に世界ランカーだったんだぁ!すごいすごい!あぁ、でも、ここで僕に会っちゃったのが運の尽きってやつかな?」
「あ?」
「だって、僕、世界1位とったことあるしね」
「あ、あぁ?」
「能力『スリラー』も、その時に貰った能力と、他の能力を組み合わせて、そこからさらに能力錬成、能力強化で、さらには自分の好きなスキル作るって言うチケットを上位ランカーの友達から使わないからって理由で数枚恵んでもらって、それでも成功率10%切ってた入手率だったからね。マジで、こんなに多様性のある能力ないよ?マジ」
「は、あぁ…?冗談だろーがぁ、あり得ねぇ。ゆ、許してくれよ!俺が、勝手してたのがわるかったからよぉ………」
だが、
「この惑星はさ、」
「ゔえぇ?」
「自由なプレイスタイルが主流の、広範囲自由PvPマップなんだわ」
「・・・ぁ」
「だからまぁ、殺さない義理はないよね」
しっかりと、首が跳ね飛ばされた。
「風紀回復!よしよし!この惑星の平和は、世界ランカー元1位!そして世界ランカートップ10の戦闘系最強の《睡魔》さんが守って行くぞう!」
〉)〉
「はー、スッキリした」
ある薄暗い汚部屋にデスク、PC、キーボード、そして、隣にはVRゴーグルと、ランニングマシンもどきのようなものがある。
そこで、ランニングマシンもどきから降りて、VRゴーグルを外す。
高校生ほどの男子が、そこにはいた。
「マジであの惑星害悪出すぎだろ。こっちは昔みたいな戦争ゲーみたいに楽しいやつ待ってんのに」
そんなことを言いながらベッドに近づく。
「もうそろそろ、寝るかなぁ。今から寝ないと学校に間に合わないよ」
そんなことを呟きながら、ベッドに倒れ込む。
その時には彼はもはや夢の中にいた。
現在時刻、20時48分である。