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1フィートの災厄  作者: 奥雪 一寸
1フィートの災厄
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第二七話 迷宮

 拘束されていたため、当然のように武器やオーブを取り上げられていたコチョウだったが、ダークハートの深淵に挑むにあたり、必須になることは分かり切っていた為か、すんなりとアリオスティーンから返却された。オーブを登録する為の術の知識、ならびに、その為の設備ともに、アーケインスケープ内にあり、コチョウは、自分の復活地点として、あてがわれた自室のベッドを登録しておいた。オーブは部屋の中の、フェアリーでなければ入れないほどの隙間に隠しておいた。少なくともアリオスティーンがコチョウの迷宮の探索の妨害になるようなことをしでかすとは思えなかったが、配下まではその限りではない。念の為の用心は必要だった。

 そして、アリオスティーンから学術的価値のみしかないような物品の回収の為のアイテムを借りると(アリオスティーンが用意したそのアイテムは、大きめのアメジストを中心に、六角形を描くように小粒の水晶があしらわれた金の腕輪で、コチョウが受け取るとフェアリーサイズに縮んだあたり、間違いなく魔法の品だった。コチョウは試しに、一回身に着けてから外してみたが、少なくとも呪われてはいないようだった)、コチョウはすぐに迷宮へと飛んだ。

 飛んだ先は、地下一階の、やや広めの空間だ。壁や天井、床は一部岩盤で、一部が剥き出しの土だった。まるで廃坑のような景観だった。

 明かりはない。コチョウは照明呪文を唱え、周囲を照らした。あちこちから獣の唸り声が聞こえてきていて、不意打ちを避ける為にも、見通しは必要だった。

 周囲を見回す。通路は一方にしかなく、街へと続く道もない。どうやら、入り口に飛んだという訳でもなさそうだった。足元にはうっすらと光の魔法陣が見える。退路が断たれているということもなさそうだった。

 早速探索を始める。そして、三〇分もすると、地下一層だけでも相当の広さがあることをコチョウは勘づき始めた。その三〇分の間に、コチョウは、何度もモンスターと遭遇したが、オーガやヘルハウンド程度のレベルの強さのモンスターばかりで、やや肩透かしを食らったような気分になったものだ。この程度の相手であればブレスと直接攻撃だけで十分始末できる。罠の知識については中級以上の心得を奪うことができておらず、治癒魔法の知識についても拙いレベルで、不安が全くない訳ではなかったが、実際の所、まったく危なげなく、探索を進めることができた。流石に最表層階だけあって、目ぼしい宝物も見当たらない。コチョウはひたすら降りていく道を探した。

 道中は長いが、呪文や超能力に頼る必要もなく、目に見えた消耗はない。もっとも疲労と無縁という訳にはいかない為、コチョウは無理をせず、休憩を挟みながら進んだ。戦闘となれば手を緩めず大胆に容赦なく。探索は蛮勇に走らずに、慎重に慎重を重ねて。冒険の鉄則だ。状況は一瞬で変わる。気の緩み、迷いがあれば、死ぬときはあっという間なのだから。

 結局、地下一層はほとんど苦労なく階下へ続く道を見つけることができた。階段でなくスロープだった。手強い敵もおらず、幾つかの罠や仕掛け扉などもあったが、コチョウを梃子摺らせる程面倒なものはなかった。

 地下二層、地下三層、地下四層。

 探索は順調に進んだ。とはいえ、この辺りはまだ表層階で、過去に多くのパーティーによって踏み荒らされた階層に過ぎない。迷宮内の雰囲気は、地下一層同様の廃坑のような景色が続き、代わり映えもない。第四層の最奥に、番人よろしく、巨大なミノタウロスと、それを援護するように遠巻きに明らかに邪教の徒と分かる神官や魔術師といった一団が待ち構えていたが、それすらコチョウにとってみれば壊れた玩具のようなものだった。ミノタウロスの首を刎ね、その首を魔術師の一人に投げつけて詠唱を妨害しつつ、神官を先に、魔術師二人を続けざまに、それぞれを一撃で首を刎ねただけで勝利した。邪教の神官とはいえ、神官には変わりない。解毒呪文である、ディトクスィフィケーションの呪文の知識を持っていたのは儲けものといえた。

 地下五層。漸く迷宮内の景色が一変した。

 そこまでは土や岩盤の自然の洞窟のような形式が続いていたが、ここへきて、急に人工的な迷路になった。石組の壁には半分浮き出た柱まで等間隔に並んでおり、雰囲気は地下砦か古い地下神殿かといった様子だった。松明が壁に掛けられ、そこまでの階層と比べ、むしろ明るい。

 この階層の探索中、コチョウは初めて他の冒険者に出くわした。彼等は六人で探索を行っているようで、フェアリーが単独で迷路を飛び回っていることに面食らったようだった。

 男性二人、女四人という、女性の多いパーティーだった。しかも、女性四人のうち、三人が、戦士二人に聖騎士一人といった具合に、直接攻撃を得意とする職業であることも印象的だった。逆に、男達は魔術師と超能力者という、どちらというと遠隔攻撃を得意とする職業だった。残る一人は、盗賊のようだ。流石にダークハートの深淵に挑むパーティーだけあって、皆、装備は万全だった。また、全員エルフである、という点も目を引いた。

「パーティーと逸れたのかしら?」

 見るからに聖騎士、と分かる女エルフがリーダーのようで、コチョウに気付くと声をかけてきた。清廉を絵にかいたような白い鎧が眩しく、どこか迷宮に不釣り合いな雰囲気を感じさせた。正直、コチョウからすれば、もっともお近づきになりたくないタイプだ。

 戦意のない笑顔を浮かべる女性に対し。

 コチョウは無言でそのパーティーをじろじろと眺めまわした。実力はそれなり。装備は整っているが、これといって珍しいものでもない。彼女の選択は、無視して通り過ぎる、だった。

「え、あ。ちょっと。一人は危険よ?」

 聖騎士の女性が言うのを。

「待て。あいつ、多分噂で聞いたことがあるヤツだ。囚われたって聞いたけど……」

 戦士のうちの一人が、それを止める声が聞こえた。思わずコチョウは舌打ちする。面倒なことになった。

「私を見たと街で言ってみろ。ろくなことにはならん。何も見なかったことにしておけ」

 コチョウは止まり、エルフ達を振り返った。

「それがお前達の為だ。いいな?」

「それでも、ここは一人で探索するには危険すぎるわ」

 聖騎士が言葉にするのを、コチョウはため息混じりで制した。

「関わってくるなら、その気が起きなくなるように、痛い目を見てもらうことになるが」

 彼女はそれでも構わなかった。探索の邪魔をするなら、好意的であろうと関係ない。皆、敵だ。

「噂通りだ。誰彼構わず噛みつきまわる、危険な狂犬だ。関わり合いにならない方がいい」

 コチョウを知っているような発言をした戦士が、聖騎士を嗜めるように言う。とはいえ、世に言う聖騎士とはとかく頑固な奴が多い。ひとの話を聞かない。聖騎士の女もその類であるようだった。

「だとしたら、放置してはいけないのではなくて?」

 そう言って、武器を構えた。右手にウォーハンマー、左手にはグリフォンの紋章付きのヒーターシールドだ。まさしく聖騎士といった装備だった。

「馬鹿の相手は疲れる」

 コチョウは零したが、その言葉とは裏腹に、反応は素早かった。一人でも戦意を見せた時点で、全員殺すべき敵だ。仕方がないと言いたげな態度で武器を構えようとした戦士二人を、まずは狙った。

「これがお前の判断の結果だ」

 聖騎士の女の背後の方まで抜け、背中越しに悠然と声をかける。既に、その一度の交差で、女戦士二人の首は床に落ちていた。装備ごと消える。一人の装備は剣と盾、もう一人は斧だった気がするが、死んだ相手のことはどうでもよかった。

 正直、六人いようが、相手にもならなかった。反応が遅れがちで、良くもまあ、ダークハートの深淵で生き残ってこられていると、コチョウは呆れるばかりだった。

 もっとも、超能力者と魔術師が、コチョウを拘束しようとそれぞれに力や術を放っただけ、この辺りの階層のモンスターよりは少しはマシだったのかもしれない。

 無論、術は空振りに終わった。術の完成をのんびり待つ程、コチョウも悠長ではない。拘束呪文は完成までに時間が掛かるのが難点だ。超能力も集中を必要とする為に若干のタイムラグが弱点になるのは、コチョウも良く知っている。コチョウはすぐに初級呪文である、フラッシュで術者共の目を眩ませて、術を妨害すると、次の術が詠唱される前に魔術師と超能力者の首も落としておいた。男達の死体も、消えた。

 コチョウの背後に盗賊が襲い掛かるが、その一撃は見え透いていた。宙返りの要領でダガーの一撃を往なし、そのまま、逆に首を刎ねた。その間、聖騎士は、呆然としたように全く動かなかった。

「半端な正義感の結果がこれだ。楽しいか?」

 コチョウは告げて、ゆっくりと聖騎士に近づく。女エルフの手に握られていた武器と盾が、床に転がった。既に戦意を失っていた。

 コチョウはその後頭部を軽く小突いた。エルフの聖騎士の首が、転がって消えた。


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