表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1フィートの災厄  作者: 奥雪 一寸
1フィートの災厄
16/200

第一六話 宣告

 幸いなことに、宝物庫で見つけた装備はすべて無事だった。流石に魔法の装備だけあって、コチョウ本人よりも頑丈らしい。死亡してから三日後、ようやく動けるようになったコチョウはアンフィスバエナに再戦する為に通風孔の先へと向かった。途中、監獄の通路に面した、囚人が復活する部屋の扉が、中からガンガン叩かれていることに気付いたが、コチョウはレントに知らせに戻ることもせず、無視をした。

 アンフィスバエナは手強かった。再戦でも攻略の糸口はまったく見つからず、コチョウは結局、巨体の突進を食らい、壁とアンフィスバエナの巨体に挟まれ、全身の骨を砕かれながら死亡した。また三日間臥せる状態に逆戻りし、

「もっと自分を大事にしなよ」

「あんた、他人を馬鹿呼ばわりする前に、自分の馬鹿さ加減をなんとかしなよ」

 そんな風に、フェリーチェルだけでなく、ジェリにも心配される始末だった。コチョウにしてみれば、これ程の屈辱はない。

 それでもコチョウはアンフィスバエナに挑んだ。三度目の挑戦では、アンフィスバエナはコチョウが門から来るということを完全に覚えていて、広間に入った瞬間、踏みつぶされた。状況は良くなるどころか、悪化していた。

 だが、そんな不毛な状況にも、転機があった。四度目の挑戦のことだ。普通に考えれば明らかに負けたといって差し支えない状況だったのだが、コチョウの諦めの悪さが、ピンチをチャンスに転じさせた。

 四度目の勝負の為に、コチョウが広間に飛び込むと、アンフィスバエナは、コチョウをひと飲みにしたのだ。コチョウは小さく、今回は噛み砕かれずに、そのままアンフィスバエナの体内に飲み込まれた。そして、内側から、彼女を飲み込んだ首の喉を裂いた。流石のアンフィスバエナも、内側は脆く、ひと裂きでその首は落ちた。

 コチョウはしかし、首から脱出はしなかった。そのまま食道を、そして、胃を通り抜け、逆の首へ向かった。彼女が期待した通り、双頭は、別々の食道を通して、同じ胃に通じていた。

 アンフィスバエナは巨大だ。その食道はコチョウにとっては飛んで移動ができる空洞も同じだった。コチョウは逆の首の食道を遡り、そちらの首も引き裂いた。やはりそちらの首も落ち、ついに、アンフィスバエナの体は横倒しに崩れた。コチョウの執念が呼び込んだ、悪運の勝利だった。

 裂いた首から脱出し、コチョウは死んだアンフィスバエナを見下ろした。残念ながら特殊な能力を経験として得ることはできなかったが、その分、彼女自身の身体能力がこれまでとは比べ物にならない程向上したことは、実感として分かる程だった。

 コチョウは試しに、入って来た門を掴み、押し上げてみた。分厚い鉄柵の門は、片手で容易に上がった。留め金で止まったことを確認すると、コチョウは門を開けたままにした。

 逆側の通路を進むと、上階へ登る梯子に続いていた。コチョウに梯子は必要ない。自前の翅で上昇して、上階に出た。そこもまた広間になっていて、大蛇がいた。頭部に、鶏冠か王冠かといった風の模様がある。バジリスクだ。弱くはないが、アンフィスバエナと比べれば、可愛いものだった。コチョウは蛇が自分に気付く前に距離を詰められる程の速度を、自分が得ていることにも満足した。明らかに身体能力は各段に上がっている。彼女はそのまま、バジリスクの首を引き裂いた。ほとんど力を入れる必要もなかった。とはいえ、コチョウは、結果のすべてが満足できたわけでもなく、身体的な問題なのか、バジリスクが持つ毒の血の力は奪うことができなかった。

 その階には、それ以外、何もなかった。広間の反対側は、やはり上階への梯子があるだけだった。

 その上階は複雑な迷路になっていたが、石壁を砕いて進むパワーが、今のコチョウにはあった。おそらく正反対の場所に向かえばいいのだろうと想像はついたが、果たして、コチョウが思った通り、真っすぐ石壁を破壊して進むと、上階への梯子が見つかった。

 さらに上がると、壁で区切られた広間のような場所に出た。壁の中央と右手に施錠されているが鍵穴のない扉があったが、右側の方の扉は、脇にあるボタンさえ押せば開くものだった。そちら側は、壁を左手に回り込むようにして、更に上の階に続く梯子に容易く辿り着くことができた。その構造から、コチョウは、どうやら何らかの迷宮を、自分が逆走しているのだと確信した。試しに梯子から正面の場所を覗くと、複数のレバーが並び、反対側の壁に閉まっている扉が見えた。仕掛けを解かなければ進めない階なのだろうと、コチョウはその階を認識した。

 仕掛けは解かず、さらに上の階に登る。その階に出ると、両脇に石像が立っている広間に出た。コチョウが昇ると、両脇の石像が動き出して襲ってきたが、今のコチョウの相手ではなく、殴り飛ばしただけで、瞬く間に石の瓦礫の山と崩れた。ストーンゴーレムだった。

 コチョウは広間の反対側を見た。

 出口だ。ついに彼女は、遺跡の出口に辿り着いた。

 一旦監獄にオーブを取りに行っても良かったが、コチョウはそうしなかった。周囲に危険が潜んでいるかもしれない。先に確かめてからでも遅くないと判断した。

 外は焼け焦げた景色が広がっている。外に出てみると、どうやら、もともとは森の中だったようだ。焼け落ちた木々が転がり、その向こうは木が切り倒されたあとらしい切り株が無数に見えた。

 切り株が並んでいる場所が気になり、コチョウは焼け落ちた森を飛んだ。そして、切り株に近づくと、無意味に伐採されたものではないことに気付いた。

 その一帯に生えていたのは、かなりの古木のようだ。巨木の何割かは焼け落ちた状態で倒れていて、その中は人工的にくり貫かれ、その穴が、まるで何かがかつて住居としていたかのように、通路や縦穴、円形の部屋のように複雑に繋がっていた。フェアリーが暮らすのに、丁度いいサイズだった。

 しかし、フェアリーは誰もいない。さらに、人為的に切り倒された古木も、木材とされた訳ではなさそうで、一ヶ所に転がされて放置されていた。切り倒された古木にも、焼け落ちた木々と同様の、複雑な穴が開いていた。まるで村落か街ひとつが人間達に破壊されたあとのようで、コチョウは何か争いがあったのだと、確信するに至った。

 そして、思い出す。

 フェリーチェルが、焼け落ちたフェアリーの王国の再建がどうのと言っていなかったかと訝しんだ。もしこれが、彼女の言っていた王国だとするのであれば、おそらく、最早再建どころの話ではないだろう。そもそも住民が誰もいない。手の施しようなどある筈もなかった。

 現実はそんなものだとしか、コチョウは感じなかったが、フェリーチェルに現実を見せるのであれば、早い方が、面倒が少ないだろうと考えた。周囲に危険もなさそうなことを確かめたコチョウは、一旦監獄へ引き返すことにした。

 監獄までの道に、もう障害はなかった。遺跡を最下層まで進むコチョウを阻むものはなかった。アンフィスバエナが復活しているなどということもなく、通風孔もコチョウはすんなりと抜けた。壊した罠が直っているということもない。

 囚人が復活する部屋の扉は開いていた。中の二人の囚人は、誰かが出したらしい。だが、看守室に辿り着くまでの道中では、コチョウは会わなかった。看守室にも、ドワーフ達はいなかった。看守室にはレントとフェリーチェルがいるだけで、ジェリもいなかった。

 コチョウは看守室に戻ると、話を聞く為に、すぐにフェリーチェルを呼んだ。フェリーチェルは食事テーブルの上で細かく切ったサラダを食べていた。食事を中断しようとしたフェリーチェルに対し、

「そのままでいい」

 コチョウは逆に自分も食事テーブルの上に降りた。レントが気を利かせてコチョウの分もサラダを用意してくれたが、コチョウは手を付けなかった。

「お前の王国の傍に、遺跡はあったか?」

 コチョウは、フェリーチェルに対し、そう切り出した。フェリーチェルは何故そんなことを聞かれるのか分からないと言った様子で、それでも、はっきりと頷いた。

「森の地下遺跡のことであれば、うん。危険なので私達の国の者は誰も入りこんだりはしなかったけれど、冒険者が入り込んでは命を落とす場所として、語り草になる程には、間違いなく」

「そうか。王国は森の木々をくり貫いた街だったか?」

 さらにコチョウが聞くと、

「うん」

 それにも、フェリーチェルが頷いた。完全に彼女の食事の手も止まった。不安そうに、コチョウを見た。

「何を見たの?」

「この上は遺跡だ。周囲は焼け落ちた森だった。その傍に何者かに切り倒された巨木も大量に見つけた。巨木には、明らかにフェアリーが住居に使っていた形跡がある。フェアリーは誰もいなかった」

 コチョウは言葉を濁すことなどしない。回りくどい言い方は、性分ではなかった。

「お前の王国は全滅しているかもしれない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ