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1フィートの災厄  作者: 奥雪 一寸
破滅の空に蝶は舞う
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最終話

 すぐに、ルナ達からのテレパシーが飛んできた。

『何だか動き出したんだけど、これなに?』

『こっちも動いてる。嫌な音してる』

『私のとこも』

『ここもそう』

『コチョウ、助けて。すごく、嫌な、感じする』

 皆が、コチョウに助けを求めてきた。

『結局入ったのか、お前等』

 コチョウが聞き返すと、

『そう。変な音が聞こえ始めたから』

 と、全員が同じ答えを返してきた。分かっている。環境管理システムが動作しているのは、環境管理とは真逆の動作の為だ。

『ほっとけば中の魔神が解放される』

 あくまで他人事のように、コチョウは告げた。

『魔神が解放されれば浮遊大陸も落ちるし、世界に生き物が住める場所はなくなる』

 それが、コマチが仕組んだ、世界の滅亡の真相だ。

『私、嫌だわ、そんなの』

『どうやったら止まる?』

『止めなきゃ』

『止めなきゃ』

『お願い、教えて』

 次々に、思念が飛んで来る。世界どうこうより、世界が滅べば自分達も死ぬ、ということを回避したいのだということも、コチョウには伝わってきた。とはいえ、

『無理だ。止まらん』

 コチョウにも、止める方法はなかった。もう一度捕らえてシステムを起動しなおすしかないだろうが、一度に五体の魔神を無力化する程の戦力は、今の時代には存在しない。

『方法があるとすれば、一か八かに賭けてみるしかないな。それでいいならやってみろ』

『何?』

 とルナに聞かれ、コチョウは投げやりに答えた。

『魔神の魂を、乗っ取れ』

『え?』

『は?』

『何で?』

『何故?』

『分からない』

『生きたいなら魔神の魂を乗っ取れ。装置の代わりに世界を支えろ。私は止めないぞ?』

 正直、それでも世界の荒廃は止まらないだろう。とはいえ、滅亡までの間の猶予は、稼げるのではないかと予測できた。

『仮の欠片とはいえお前達はスウリュウの魂を持ってる。弱ってる魔神なら乗っ取れる』

『それじゃ私達が魔神になるじゃないの!』

 ルナは言うが、

『嫌なら世界と一緒に死ね』

 としか、コチョウには答えようがなかった。実際他に方法が思いつかなかったのだ。

『他の手を打つには、時間がなさすぎる。数分で装置は止まる。そうなれば、終わりだ』

『……』

『全くの偶然だが、幸いシステムはお前達がいる五ヶ所で全部だ。あとは自分達で決めろ』

 ルナ達の意志次第で世界は死の世界に短時間で逆戻りするだろう。そうなれば、荒廃した世界でも生き抜ける者以外は全滅だ。ほとんどの生命は死に絶え、だが、それでもコチョウは生き残る。アイアンリバーの連中を助ける時間はないが、それは諦める以外になかった。間に合わないものは仕方がない。

『私、やる』

 最初に踏ん切りをつけたのは、エスプだった。

『そのあとは、コチョウ、なんとか、してくれる?』

『そうだな。影響が緩やかにさえなれば手は打てる。あとのことはなんとかするさ』

『分かったわよ! やればいいんでしょ? 死ぬよりはましよ!』

 ルナも、開き直ったように覚悟を決めたようだった。エスプが魔神を乗っ取ると決めたことから、

『エスプがやるなら』

『うん。私達も協力する』

 スペルとチャームは、コチョウがどうとかではなく、エスプの覚悟を無駄にしないことに決めたらしい。理由はそうあれ、やるというのなら、コチョウも理由はどうでも良かった。

『あとはお前だけだが、どうするチャイル』

『これで、私がやだって言ったら、面白い?』

 コチョウの問いに、チャイルも質問で返す。それに反応したのは、ルナだった。

『面白い訳ないでしょ?』

 ある意味、当然の反応だ。まったく冗談としても悪趣味だと言わんばかりに怒ったのは、皆にも伝わっただろう。

『だよねえ。なんにしても、魔神のだけど、仮じゃない魂が手に入るってことだよね?』

 だが、チャイルは呑気にそんなことを聞いた。たいしたふてぶてしさだと、コチョウも笑った。

『そうだな』

 と、答えてやる。

『なら悪いことばっかりじゃないね。いいよ』

 と、チャイルも皆に協力する意志を告げてきた。しばらく身動きが取れなくなることだということも、五人とも理解はしている。だから、改めて、コチョウにそれぞれの気持ちを伝えてきた。

『早く解放してよね。結局滅んで皆死んじゃいましたは、私、嫌よ?』

 と、ルナが。

『それはつまんないね。ちゃんとやってよ』

 チャイルも、同感だと。

『不安』

『心配』

 スペルとチャームはこんな時まで考えることが似ていた。

『信じてる、から。頑張る、ね』

 と、エスプが、コチョウを本当に信頼していることをぶつけてきた。何よりそれが、コチョウを苦笑させた。

『あてはある。私がどうとかじゃなく、警告すれば勝手に努力する奴等がいる』

 コチョウ自身、自分で対処するつもり自体はあまりなかったが、コマチの思惑通りに世界を滅ぼさせるのは面白くないのも確かだった。何もしないということは、考えていなかった。

『私のことは信用しなくていい。そういう奴等が世界にいるってことを信じておけ』

 それだけ伝えると、

『分かったわ』

『本当に頼んだからね』

『不安』

『心配』

『頑張って、ね』

 五人がそう伝えてきたのを最後に、ぷつりとテレパシーは途切れた。コチョウは眼下の浮遊大陸を見下ろし、しばらくそのまま変化が起きるかを観察していたが、浮遊大陸が落下を始めることはなかった。

「うまくいったか」

 やれやれ、と、安堵する。正直、五人がやってくれるかはコチョウも自信がなかったが、その気になってくれたことで、今すぐの最悪の事態は免れたのだ。

「さて」

 これから忙しくなる。コチョウものんびりはしていられなかった。まずは忍者達に連絡を取り、ことの次第を伝えることから始めるべきだろう。それから、もう一度、環境管理システムの技術をもっとよく調べなければならない。それを見なければ、ルナ達が自由になっても問題ない方法を考えることもできない。

 遠くの空を見る。足元に広がる浮遊大陸以外の四つは、もっと大きな浮遊大陸であることも、今のコチョウには分かる。そこには、それぞれに、過去の資料があることも、理解できていた。それを調べる時間が必要だ。

「面倒だが、まあ、だからと言って放置する気にはなれんな」

 それでも、五人がひとまずどういう状態になっているのか、一番近いエスプの所に寄ってみることにはした。

 エスプがいたのは、コチョウが今いる浮遊大陸の、環境管理システムの施設だ。コチョウは、その施設に戻り、再び扉をすり抜けて中へと侵入した。

「ふん」

 魔法装置は、完全に停止していた。円柱状の装置の一部がスライド式の回転ドアのように開き、そこから中の様子を確認することができた。小型竜の姿のままのエスプが、目を閉じて浮いている。

「エスプ」

 確認の為に、コチョウは声を掛けてみたが、返事はなかった。深い眠りに落ちているのか、それとも答える余裕がないだけなのかは分からなかった。少なくとも、エスプの目は開かなかった。

 それでも、コチョウが読み取った限りでは、エスプも一杯一杯という訳ではなさそうだった。この分であれば、年単位の我慢はできるだろうと、コチョウは理解した。とはいえ、永久にもつという訳ではない。環境管理システムが止まった世界を救うなどという途方もない話となれば、大勢が参画したとしても年単位でも足りないことは十分にあり得た。

「参ったものだな」

 コチョウは、もう一度エスプを眺めた。頼りなく、小さな竜は、静かに、ただ浮いていた。竜はゆっくりとだが、命の火を燃やしている。世界を支えるシステムとして、命を削り続けていた。

 滅亡への、カウントダウンの如くに。


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