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1フィートの災厄  作者: 奥雪 一寸
破滅の空に蝶は舞う
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第二六話

 空洞に戻ったコチョウは、一方的にシャリールに無慈悲に選択を迫った。

「去るか死ぬか選べ」

「え?」

 シャリールはその言葉の意味を理解できず、唖然とした表情を見せた。

「お前の安全がこれ以上確保できない。一緒に来れば確実に死ぬ」

 一方でコチョウは確信していた。あの妙な人型のものと対決する時が来た。

「世界は滅ぶかもしれんが、それまでどこかで隠れていろ。生き延びられたら私を探せ」

 コチョウも、シャリールが死を選ぶとは思っていない。自分から守りに行ってやるつもりはなかったが、縋りついてくるなら仕方なしに保護してやるくらいの情は感じていた。

「……分かりました」

 シャリールも、コチョウの事情に深く関わりたいという意志は見せなかった。どうせ碌なことにはならないと察しているようだった。

「それでいい。上までは忍者共に案内してもらえ。私はもう行く」

 シャリールに言いたいことだけを言い、

「お前達も不用意にこの下に入ろうとするなよ。必ず進退窮まる」

 忍者達にも警告を残してコチョウはその場を離れた。

 見上げると、コチョウ達が降りてきた穴以外にも、地上に出られる穴は幾つもありそうだった。適当に選び、コチョウは地上を目指した。

「ルナ、チャイル、スペル、チャーム、エスプ。頼みがある」

 その途中で、コチョウはそう切り出した。他人に命じることはあれど、頼む、ということはほぼないコチョウが、だ。

「スウリュウの魂を分けてやる。世界を飛んで、浮遊大陸が幾つあるかを見ておいてくれ」

『え? いいけど、何で?』

 ルナに問われ、コチョウは短く笑った。

「もし環境管理システムがあるとするなら、その周囲だけ荒廃していない可能性はある」

 そして、現実に、荒廃せずに残っている地は、世界に点在している。浮遊大陸だ。

「私の読みが正しければ、システムは浮遊大陸にある。世界の滅亡が起きるとすれば」

 と、コチョウはため息を吐いた。

「あとは、分かるな?」

『システムに、何か、起きる』

 その答えを言葉にしたのは、エスプだ。

『先に抑えておけば対処できるかもしれない』

『対処できないかも知れないけど、何もしないよりはまだ可能性が残る』

 スペルとチャームも理解できたと答えた。

『返さなくていい? いいよね?』

 スウリュウの魂を得て実体化したら、元に戻りたくないとチャイルはせがんだ。当然のことだ。コチョウはまた笑った。

「頭の中に押し込めたらお前達騒ぐだろ。そんなのは御免被る。だったらそのままでいい」

 コチョウがそのことを認めると、

『それなら断る理由はないわね!』

『分かった! 行ってくるよ! 早く、早く』

『頼まれてあげる』

『任されてあげる』

『頑張る、うん』

 五人とも、それならば喜んでやると答えた。

「よし」

 丁度、氷原の空に抜けたところだ。コチョウはスウリュウの姿に転じながら、同時に、五つの光の筋を伴って空高く昇った。

「自分が望む姿を想像しろ。それがお前達になる」

 コチョウは自主性に任せたものの。

 ルナ達が選んだ姿は、想像を絶するカオスな状況を生み出した。

「あーあ」

「何これ」

「かなり困りそう」

「すごく困りそう」

「見分け、つかない」

 全員、コチョウのコピーの姿のままだったのだ。しかも、皆一様に、コチョウに寄せすぎて、外見上まったく区別がつかない。

「お前等……」

 当のコチョウだけ、スウリュウの姿を取っているからまだ紛れていないのが、皮肉と言えた。

「誰か変えなさいよ。遠慮してよ」

 そう文句を言ったのは、たぶんルナだろう。

「そう思うならあなたが変えればいい」

「そう思うならあなたが先に変えなよ」

 二人セットで同じようなことを言い返しているのは、たぶんスペルとチャームだ。ただ、どちらがどちらなのかは全く分からない。

「いやよ! 私はコチョウになりたくてついてきたんだもの!」

 真っ先に文句を言い始めていたコチョウのコピーが言い返す。言動でルナと確定したが、たぶん位置を入れ替えたらまた分からなくなるだろう。

「お前等いい加減にしろ」

 コチョウは纏めて竜の息で吹き飛ばした。炎や冷気などは吹いていないが、竜の息で巻かれた全員が、光の粒に戻った。

「やり直せ。偽コチョウは禁止だ。私が迷惑する」

 それだけならいい。もっと現実的な問題もある。

「フェアリーの姿はやめておけ。私と違ってお前達には耐性はない」

 コチョウがフェアリーでもやってこられているのは、あくまでフェアリーのか弱さとは無縁だからだ。ルナ達がフェアリーを選べば、何処で野垂れ死にするか分かったものではなかった。

「もっと頑強なものにしておかないと、お前等、死ぬぞ」

 コチョウの指摘を受け、五人がもう一度、自分達の姿を選び直す。再び似たような姿にはなったが、今回は、見分けがつかないということはなかった。

「まあ、及第点だ」

 と、コチョウも認める。

「何だか変な感じだけど」

 答えたルナの姿は、燃え上がるような赤い鱗を持つ若い火竜の姿だった。そして、他の四人もそれぞれ、色こそ違えど、若い竜であるということは共通していた。知識が貧困な為、頑強と言われてイメージしやすかったのが竜だったのだろう。

「飛べないと不便だし。仕様がないよね」

 チャイルは、青白い鱗の氷竜。

「順当なところじゃない」

 スペルは金に近い色の光竜。

「妥当なところじゃない」

 チャームは真っ黒な鱗を持つ闇竜。

「仕方、ない」

 エスプは、青緑に近い色の鱗を持つ嵐竜。

「お前達はあくまでスウリュウの魂の欠片で、体も仮のものだ。無茶をしすぎるなよ」

 コチョウは五体の小型竜を見回し、釘をさしておいた。全滅というのは避けねばならなかったし、頼みごとをした手前、あとは知らんと突き放すつもりもなかった。

 五体の竜は頷き、それぞれに別々の方角へ散っていく。うまくやってくれるかは正直分からなかったが、コチョウが自分一人で回るよりは早い筈だった。

「さて」

 コチョウは、あの胡乱な人型のいる浮遊大陸に戻らなければならない。正体はある程度もう憶測がついていて、スウリュウの力を得た今なら勝負にもなるだろうと推測した。

 小回りではフェアリーの姿の方が勝るが、飛行速度ではスウリュウの方が遥かに速い。スウリュウの姿のまま、コチョウは浮遊大陸へ向かって引き返した。

 途中、一体の小竜に追いついた。青緑色が見える。エスプだ。

「動ける体を得た感想はどうだ?」

 と、コチョウは尋ねてみた。成り損ないとしてのエスプは宝箱に入れられていた肉の塊にすぎなかった。自分の超能力に、与えられたホムンクルスの肉体の強度がもたなかったのだ。だが、竜の空であれば、もっと安定している。仮の体とはいえ、暴走の危険性は少ない筈だった。

「風が、気持ちいい」

 エスプはそんなことを言った。目が細まる。本気でそう思っていることが表情から見て取れた。

「お前は他の四人とは違う。肉体を動かすことにも慣れない筈だ。無理はするなよ」

 何なら、不安なら他の者達と合流してもらってもいい、コチョウはそんな風に考えた。正直に言って、これでエスプ達の役目が終わる気がしていなかった。

「大丈夫。とても、快適」

 エスプはコチョウの、スウリュウの姿の周りを宙がえりし、コチョウに並んだ。

「ありがとう。ついてきて、良かった」

「その分はたらけよ?」

 コチョウは礼を言われ慣れていない。素直に受け取る態度は見せなかった。

「先に行く。お前は、よく慣らしてからにしろ。休息をとることを忘れるなよ」

 柄でもないと思いながらも、コチョウはそれでもエスプを不器用ながらに心配した。魂のなかった成り損ないだった奴だが、ある意味、姉妹のようなものだ。だからかもしれなかった。はっきりとは、どんな気の迷いだったのかは、コチョウ本人にも分からなかった。

「どんな滅亡が待ってるんだか知らんが、私以外の奴に滅ぼされるのは癪に障る」

 そう呟きながら、

「特に私より偉そうに振舞う奴は気に食わん」

 コチョウは、風を裂くように、飛んだ。


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