7.悠希と自己紹介
(皆の視線が痛い……)
何故か来た時と同じように、再び金髪イケメンに手を取られたまま移動する俺に、希の視線が突き刺さるように固定されていた。俺の左手には悠里、右手には金髪イケメンが手を繋いでいる。
ミステリー研究部のメンバーはそれぞれの世話役の青年達の後ろをついて行くだけで、誰も手を引かれてはいない。
最初は俺を見た希が「ずるいー!希も!!」と言ってもう一人の金髪の青年の手を狙ったのだが、やんわりと断られてしまっていたのだ。腕に抱きつこうとしていたが、それも見事に避けられていた。「どうしてよ!あっ!もしかして、ユウキくんがヒロインのBLの世界なんじゃ…」という一言にミステリー研究部の視線が俺に突き刺さる。しかし、何で女性の希はダメで男の俺だけ?悠里じゃなく、なんで俺??と戸惑いつつも、引っ張っても振りほどけないし、離してくれといっても言葉が通じないのか無言なので、なすすべがない。その様子を他の世話役の青年が面白がるように見ていたが、それには俺は気がつかなかった。
やはり最初の扉が並んだ場所は宿舎になるスペースなのだろう。
連れだって戻って来た俺達は、一番手前の部屋に希が入り、少しあけて怜士、その隣の部屋が晴樹。その部屋から離れた場所が俺と悠里の部屋だった。
案内されたのは最初と違う2人部屋だった。兄妹と言ったから一緒にしてくれたのだろうか。年頃の悠里と同室はどうかとも思ったが、離れ離れにされると心配で落ち着かない。悠里も同室が良いと言っているし、このままにしよう。
さっきは部屋を観察する余裕がなかったが、改めて見ても特に目に付くものもない簡素な部屋。
俺からしたらかなり大き目の寝台が二つ。こちらの人の体格的には、そこまで大きなものではないのかもしれない。四角い机と椅子が四つ。クローゼットみたいなものが一つ、大きく頑丈そうな箱が二つ置かれていた。
小さめの窓がついていたが、俺の頭の位置なので綺麗な空が見えるが外をうかがうことは出来なかった。
やはり、俺の世話役は金髪イケメンだった。悠里は銀髪の男前。金髪イケメンはカイルとだけ名乗った。銀髪男前はアルジェント。
俺はそれに対して大学友達が言っていたオタク知識を思い出し、フルネームをきっちり名乗った方がいいのか少し考える。
(確か真実の名前を知られるとやばいとかって設定もあったよな。隷属させるのに真名がいるとかなんとか。本当に異世界なのかなぁ。まだ半信半疑なんだが……。ま、向こうも名前だけの名乗りしかしてないし今回は……)
先ほどのカルマとマルドュークも名前だけである。
ミステリー研究部に、彼らの前で名前を教えているので、隠すなら苗字しかないだろう。
「俺は悠希ゆうき。呼びにくければユウでも」
ユウキと言おうとすると三文字の発音が難しいらしく、ユキとか言う音になっていた。さすがにそれは女の子の名前みたいで自分を呼ぶ名前と思えずゆっくり発音してみる。
「ユウキ?ユウ?ユウ ユウ」
ユウキの名前は諦めて、『ユウ』と教えた。何度か舌の上で転がすように「ユウ」と繰り返している。
少し低めの声と、その王子様的な見た目で、俺を見つめながら何度も自分の名前を連呼されると、少し照れ臭いような複雑な気持ちになる。
どんなに綺麗すぎる顔をしていても、骨格から違うのではと思える体躯は縦だけでなく横幅すら自分よりだいぶある。まだこちらの女性は目にしてないが、男性でこの身長である。男としてあまり考えたくなかったが、俺はこの世界の女性より小さいのでは…。
次に悠里菜ゆりなの紹介だった。
「ユリナです。ユリと呼んでください」
『ユウリ?』
「ユリナ?ユリ?ユリ」
『ユリ』
ユリの名を何度も復唱し発音を繰り返す銀髪男前。
『アル』
自分を指しながら「アル」と言っている。もっと長い名前のはずだが、俺やユリが上手く発音できていないから『アル』呼びを許してくれたようだ。
俺の世話役が『カイル』。ユリの世話役が『アル』。
片言の会話でどこまで勉強できるのか…。とりあえずは意思の疎通が図れるよう、言葉の勉強からしないといけないな。