5.悠希は異世界転移したようだ
『 』は異世界言語
「 」は日本語 です。
「きゃぁ⭐︎」
「チッ」
「あ〜あ」
希の黄色い声と、晴樹と怜士の舌打ち。
音の正体は扉だったのだろう。新たに入ってきた人物達に3人の反応は対照的だ。
これもまた顔が整った男性ばかりだったからだろう。
希はルートどうしよう、誰選ぼうとか謎言語をつぶやき、イケメン率の上昇に興奮は最高潮だ。はしたなく、物凄くはしゃいでいるのがわかる。隣の悠里と対照的で落ち着きのなさが目立っている。そして晴樹と怜士の不機嫌度上昇は、希の望む展開すぎて勇者コースの自信がなくなっているからか。
入ってきた三人のうち、一番後ろにいた青年がこちらに近寄ってくる。
近くに控えていた四人の青年の横に立つと一番背が低いのが分かる。それでも晴樹や怜士よりはだいぶ高そうではある。
青年の立ち位置と金髪美形の見た目から察するに、この人が希を案内してきた人なのだろうか。波打つ柔らかそうな髪は、金髪イケメンより色の濃い金色で、目元は凛々しいが、にこやかな笑顔の甘いマスク。
(さっき扉から出て行った人かな?とすると説明する人を呼んできたってところか)
残り二人のうち一人は、見覚えのある濃い緑色の髪。俺が意識を失う前に目の前にいた人だ。最初に出会った印象深い髪色をしているから覚えている。
そういえばあの時は皆、白い服だったなと、改めて違いを探すように緑色の髪の男を見やる。
白い服の上に袈裟に近い形の上着を着ている。袖はなく裾はとても長い。その合わせから見える白い下の服は見覚えがある。
自分達の近くにいる五人の青年たちは揃って青の上着。
そして緑の髪の人は黄色の上着。それもう一人、一緒に入ってきた茶色の髪の落ち着いた雰囲気の年配の男性は、赤色の上着である。これが一般的な服装なのか分からないがデザイン的には皆共通で、民族衣装なのか制服なのか判断がつけがたい。
上着以外も何かが違うなと記憶を呼び覚ます。
しっかり見たわけじゃないが、最初見たときは全員が長い髪を普通に下ろした髪にしか見えなかった気がする。この二人の男性達だけ両サイドで細く編んだ髪を後ろで一つに纏めるという髪型をしていた。
年齢的にも服装的にも三人の青年達とは持つ雰囲気が違う。この年配の男性二人のほうが立場が上なのだろう。
「お待たせしました」
かけられた日本語にミステリー研究部のメンバーもハッとしたように反応して、茶髪の人物に顔を向けた。
彼が説明してくれる相手なのだろうか。俺はちょっと意外な面持ちで緑の髪の人から視線をはずした。
「私はこの神殿の上級神官の一人カルマ。こちらがマルドューク様」
そう言って茶髪の人物は片手を胸に当て、紹介された緑色の髪の男性も同じように片手を胸に置き軽くお辞儀をした。
やっぱり日本語喋れる人がいたんだ。良かった。
神殿の神官というからには、神に仕える人達ということだろう。ここは宗教団体の施設なのか?上級神官だの言われてもピンとこないが、緑の髪の人のほうが上の立場なのだろう。呼び方が様つきだ。
「神殿って、神のお告げとかのパターン!?やっぱり勇者か聖女かな?!」と、正面で盛り上がっている三人はとりあえず無視しておく。
最初出会ったマルドューク様とやらは、水から出た時に一番近くにいたが、俺達を見る目には警戒の色があった。だから希達が言ってる神様からのお告げの存在とか勇者とか、ご大層な扱いとはとても思えないのだが。
カルマもミステリー研究部の声が聞こえていただろうが、俺と同じように反応することなく言葉を続ける。
「今から、みなさんの状況と今後の扱い方について説明します」
「扱い……?」
なんだか不穏な言葉に感じるのは気のせいか。
穏やかな口調だがやはり歓迎している雰囲気には見えない。カルマもマルドュークも笑みを浮かべているが、それが本心を隠して作った表情に見えるのは疑いすぎだろうか。
窓際の大きな机の傍にニ人で立っていたが、カルマはここでようやく俺達から視線をはずし、横のマルドュークの方を見る。マルドュークの方もそれに合わせ、何かを合図するように一つうなずいて見せた。
戻された視線のままカルマとマルドュークが俺達の傍まで近寄る。
すぐ横に立たれると、連れてきてくれた青年の時にも感じた飽きれるほどの身長差を見せ付けられる。ここまで揃って皆二メ-トル超えなのだから、彼らだけが特別高いのではないだろう。身長に見合った均整の取れた体の厚みはあるが、神官なんて体を鍛えなければならない職業でもないだろうし。この人達の国の平均身長が2m超えとか考えたくないし、そんな国聞いた事もない。
ここまで見下ろされて、威圧を感じさせないのは職業によって身につけたものなのか、それとも元々の人柄なのか……。
これだけ体格差があるのに勇者召喚?それはまずないな。晴樹や怜士には悪いが望みは薄いと思う。絶対にこの人達、俺達より強いぞ。
カルマとマルドュークは、残されていたソファに座り、カルマが話を続けた。
「それでは説明を始めます」
そしてカルマの口から決定的な言葉が告げられた。
「まず確認なのですが、ここがみなさんのいた世界とは違う世界だと理解されていますか?」
「「「はいっ!!」」」
「「えぇ?」」
声を揃えて元気良く返事をするミステリー研究部とは対照的に、この状況を認めたくないという気持ちが出てしまっている俺と悠里。その反応の違いを見てマルドュークの顔に微かな笑みが刻まれた。
「皆さんはこの世界の方ではありません。こちらでは皆さんのような方を迷人と呼んでいます」
「えっとぉ、迷人ってなんですかぁ?」
「神楽池に突然現れる異国の方の事を迷人と呼んでいます。現れた方はこの世界の常識を持たず、この世界の言葉を話さず、誰も知らない世界のことを話します」
カルマは言葉を切り、ミステリー研究部に視線を向けた。
カルマの話し方は、日本語を話し慣れていないのか、ゆっくりとした口調だが、落ち着いたその口調は、この異様な状況の説明をしてもらうには聞き取りやすい。
「身体的特徴は小柄で黒髪黒目と言われてましたが、それが絶対ではなかったようですね」
怜士と希の毛染めで茶色くしている髪を地毛と思ったのだろう。
「あ、これ染めてるんですよ。もともとは黒髪なんです。本当ですよ!」
「そうだったのですか。こちらでは黒髪というのは珍しいので、迷人の特徴として余計に伝わっていたようですね」
希は「やっぱり王道は双黒だったんだー」と呟き、怜士と一緒に「本当に黒髪なんですよー」としつこく訴えだす。そんな二人を勝ち誇ったような顔で見つめる晴樹。カオスだ。