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4.悠希と悠里菜の再会

 



 目の前の大きな扉が開いた。

 金髪イケメンに優しく促され部屋の中へ入っていく。

 誰かの執務室のような雰囲気の部屋には、窓際に大きな執務机が一つとその前に大きなローテーブルと広々としたロングソファ。ロングソファは2つ向かい合わせに並んでおり、それとは別に1人がけのソファが2つずつ、向かい合わせに並んでいた。その一つのロングソファに並んで座った大学生らしき3人組には、事故に遭ったことや、この謎の状況にも関わらず取り立てて変わった様子はない。むしろ凄く寛いでいる気がする。3人ともお菓子を食べながら俺の姿を見てニコニコした笑顔を向けていた。


(あれ?悠里ゆりがいない???)


 室内を見渡しても悠里ゆりの姿がない。バスにいた大学生はいるのに、肝心の悠里ゆりがいない。立ち止まりキョロキョロしだした俺に焦れたのか、金髪イケメンが「こわい ない」と言いながら俺の背に手を添えた時、再び背後の扉が開いた。


「にぃ?!」


悠里ゆり!!」


 扉が開かれると同時に掛けられた声。

 そして駆け寄ってきて腕の中に収まる体温。よかった。無事だった。元気な悠里ゆりの姿を見て、ようやく安心する事ができた。


「よかった、悠里ゆり。無事でよかった」


「にぃも…よかった……。目が覚めたらいないし、知らない外人さんがいるし、すごく大きいし……」


「そういえば怪我は…? 悠里ゆり、怪我はないか?!」


「うん、大丈夫。にぃは?」


「俺は……大丈夫…だ」


 あれ?頭打ったりしたよな?体もしこたま打ちつけた。少なくとも打撲はあるはずだが、痛みはない。アザくらいはあるだろうが、後で確認するか。今は悠里ゆりが無事だった、それで良しとしよう。細かい事は後だ。


 悠里ゆりと2人、無事を喜んでいると、金髪イケメンがそっと俺の頭を撫でてきた。顔を上げると金髪イケメンが上体を低くし、優しく微笑みながら「こわい ない」と呟いていた。

 その表情に、悠里ゆりと無事に会えた事での安堵感に、俺も思わず「ありがとう」とゆるゆるの表情で答えた。そんな俺を見て、きょとん?とした顔をしたと思ったら、物凄く綺麗な笑顔を向けてきた。天使の微笑み。形容するならそれ以外ないというくらい綺麗な微笑みだった。直視した俺の目が潰れそうだ。

 背後から「きゃーっ⭐︎」という黄色い声が聞こえてきて、ようやく現状を思い出した。振り返ると、大学生3人組がキャッキャはしゃぎながら俺達を見ている事に気づき、羞恥に顔を赤めながら照れ隠しに咳払いをした。それを合図としたように、金髪イケメンが再びソファへ誘導してくれる。3人組からは「感動の再会だねぇ」「可愛かったよぅ」「仲良し兄妹いいなぁ」など揶揄われながらの移動となったが、全て無視して悠里ゆりと手を繋ぎ、金髪イケメンのエスコートで大学生3人組の対面にあるソファへと向かった。


 案内されたソファはでかかった。そりゃそうだ。ここにいる人は全員余裕の2m超え。165cmの俺より全員が確実に50cmくらいは高い。その身長に見合う大きなソファだった。

 ちらっと3人組を見ると、全員そこそこ身長があるので、リッチな大きめソファで寛いでいるくらいに見える。

 3人の前に置かれたテーブルには、お茶と食べかけのお菓子と思わしき物が鎮座している。ゆっくり寛ぎ、冷遇された様子はない。


(……とりあえず、安心……かな?)


 そんな事を考え、なかなか座らなかったのがいけなかったのか、金髪イケメンが再び俺の両脇に手を入れ、ソファの上へと持ち上げ座らされた。


「うぉうっ!」


「ひゃぁっ!」


 隣では、悠里ゆりも同じように座らされていた。ソファに座った後頭を優しくポンポンされるオプション付き。妹の前で……この完全子供扱いはやめて欲しい。俺、成人男性だよ!

 正面に座っている女性は「私もやって欲しい〜」とさらにテンションが上がっている。

 羞恥に俯いていると、オレンジ色の髪の褐色な肌の青年がお茶と菓子を置いてくれた。隣には、悠里ゆりの分であろう茶と菓子もある。

 しかしこの青年も背が高い。案内してくれた金髪イケメンと並び立つとさらに高いのがわかる。

 通じるか通じないか分からないままに、お礼を言うと口の端がわずかに上がったのが見て取れた。


「俺達は少し前にきたんだけど、言葉通じないみたいだし、何を聞いても説明って単語しか言わないし、茶と菓子があるからとりあえず寛いでたら君達が来たんだ」


「そうですか」


 目の前の大学生達も、同じことを言われて連れて来られたのだろう。


 俺が悠里ゆりと共にソファに腰掛けた時、誰かが扉を出て行った気配があった。他にも誰か来るのだろうか。

 部屋に居るのは俺と悠里ゆり、大学生らしき3人組と、自分を連れてきた金髪イケメンの青年、お茶を出してくれた褐色の肌の青年、それと赤みが強い赤茶色の髪に褐色の肌の男性、銀色の髪の色白男性のみ。

 悠里ゆりを連れてきた男性は綺麗な銀髪をしている。銀なんて初めて見たが、光の当たり具合で虹色に輝く髪をしていた。色白の肌色と見慣れない色合いの髪色につい視線が向かう。金髪イケメンは王子様のような綺麗な顔だが、この銀髪青年は男臭さを残した…聖騎士というのがしっくりくるイケメンだ。


「君達と一緒に来た人、凄い綺麗な人だね。王子様みたい」


 大学生三人組のうちの紅一点。とても素晴らしい胸を持った女性が顔を真っ赤にして金髪イケメンと銀髪の青年を交互に見つめていた。全員水に浸かったはずなのに、顔にはバッチリメイクがされている。あの事故の後に化粧品等の荷物持ち出せたのかと疑問に思ったほど。そういえば、俺のスマホは水没確定かな…。


「私達を連れてきた人も、すっごいかっこいいし。あのね、私を連れてきてくれた人も金髪美形だったんだよ。美形ばっかりで幸せすぎるぅ⭐︎」


 金髪の美人すぎるイケメン青年とは違って、褐色の肌の2人の青年は色男という表現が似合う。一目で分かる男臭い顔立ちは柔らかさとは無縁であった。オレンジ色の髪の男性も整った顔立ちだが、男前というよりイケメンという言葉が似合う。遊び慣れたお兄さんって感じだ。例えるならNo.1ホスト?

 熱っぽく語る女子大生とは対照的にその隣の男性大学生2人の表情は微妙なものになる。


「ほんと、イケメンばっかりだな。絶世の美女はいないのかな」


「まぁ、美女はこれから出会えるさ。これだけ顔面偏差値が高い人ばかりだから、女性にも期待できるよね。ところでさ、君たち兄妹だよね?いくつなの?ちなみに俺らは大学三年。ミステリー研究部ってサークルの仲間なんだ」


 高身長の明るい茶髪の男性が怜士れいじ、同じく高身長で黒髪メガネの男性が晴樹はるき、茶髪の巨乳女性がのぞみと名乗っていた。


「はじめまして。俺は悠希ゆうき、大学三年。こっちは妹の悠里菜ゆりな、中学三年生です」


「よろしくお願いします」


「え?悠希ゆうきくん同い年??ごめん、年下かと思ってた。それと、悠里菜ゆりなちゃんか、可愛いなぁ。よろしくね」


「ほんと。サラサラで綺麗な黒髪の清楚系美少女だね。それに悠希ゆうきくんと悠里菜ゆりなちゃんって顔立ち似てるし、さすが兄妹!」


「あ〜あ。こりゃ、悠里菜ゆりなちゃんがヒロイン確実かなぁ。いや、でも童顔中性顔だから、予想外のBLヒロインで悠希ゆうきくんがヒロインって線も……。あぁ〜!!私がヒロインになりたい!イケメンハーレム作りたい!!」


「は?」


「ヒロイン………? ですか???」


 ん?なんだか含みのあるような言い方だな。それに童顔中性顔って俺の事か?!ほっとけよ!!隣では悠里ゆりがヒロインという単語にきょとん?とした顔をしているし。

 それにしても、やっぱり年下と思われてたか。俺は165cm、悠里ゆりは150cm。対する三人組は男性陣は190cmくらいの高身長で、女性も170cm近くあると思われる。

 俺も悠里ゆりも背は伸びなかったからなぁ。

 それにしても、ヒロインとかイケメンハーレムとか、こいつら何言ってんだ??


「あの……ヒロインってなんですか?」


「ヒロインってのはね……。君達気づいてるかな?日本で事故に遭ったのに、この状況っておかしいでしょ?たぶんここは異世界なの。きっと異世界転移なの!異世界なら、勇者として召喚されたパターンと、聖女として召喚されたパターンのどちらかだと思うんだけどね………。周りを見るに、これは聖女パターンね。間違いないわ!」


「は?聖女???異世界???」


「そそ、あたしと一緒に来た人もかっこいい人だったし。美形の男性しか今のところ出てきてないから、これ女の子向けの異世界トリップのパターンなんだよ。説明の時に『あなたは選ばれた聖女です』とか言われちゃうのかなぁ。でも、それなら悠里菜ゆりなちゃんの確率が高いけど、私って可能性もまだあるし……あぁ!ドキドキするねぇ」


 そう言いながら、のぞみはお茶を飲みお菓子を摘んでいる。

 なるほど、ミステリー研究部か。確かに、日本の外国人施設かと思っていたが、状況がおかしい。納得がいってなかったが、異世界とは……。そして、聖女サマね。

 目の前でミステリー研究部がチートがどうのハーレムがどうのこうの話しているが、そんな呑気に構えてて大丈夫なんだろうか。チートなんて力が身についたなんて感覚ないし。


「まだ勇者召喚とかのパターンが潰れたわけじゃないし」


「そうだ。勇者・聖女・魔法使いとか、パーティ全員召喚のパターンだってあるし」


 晴樹はるきと怜士れいじがボソッと言っているが、のぞみはもう自分の世界に浸っているようで聞こえていない。イケメンのランク付をしているらしく、ずっとブツブツ言っている。


 バスで道路を走っていたのに、日本とはとても思えない明らかに見知らぬ場所と、この部屋に来るまでの出来事を思うと、ここが普通じゃない場所と認識してもおかしくない。ましてミステリー研究部のメンバーは、どう見ても異世界に憧れを持っており、知識もあるだろうから、余計にこの状況に馴染んでいるのかもしれない。


 今のところ無体な扱いをされていないし、悠里ゆりとも合流出来たから、俺は静かにしていられるだけであって、3人のように「異世界転移だ」とはしゃぐ余裕はない。

 晴樹はるき怜士れいじは何だかんだで、勇者召喚とやらに夢を持っているようで、希望に胸膨らませ、そわそわして浮かれているのは間違いない。時々、小声で「ステータスオープン」と呟く声が聞こえる。のぞみは目がハートマークになっているのではと、疑いたくなるほどにぽーっとなって側に立つカラフルな彼らに釘付けだ。「イケメンと重婚パターンもあるわね。一妻多夫制だったらサイコーだわ」なんて呟いている。

 なんだか自分一人が現実に頭を悩ませている気になってきて思わず溜息が漏れる。


(本当にここが異世界なら、もう少し自分も異世界物の本を読んで勉強しておくべきだったのかな……。とりあえず、悠里だけは守らないと…)


 俺に異世界の知識はない。異世界転移するなど普通考えないだろう。3人のようにこの状況を楽しむ余裕が持てるなら、過去に戻ってラノベを読み漁りに戻りたい。というか自分じゃなくて、異世界行きを望んでいた他の人と交代したい!と切実に願ってしまう。


 俺達を連れてきてくれた見知らぬ人間が傍にいるので、万が一監視役だった場合の事も考え、目の前の3人のようにべらべら喋る気にもなれず、俺は悠里ゆりの手を握りながらも、時間を持て余すように横に控えて立つ青年達を横目で観察する。

 部屋に入ってから四人の青年は一言もしゃべった様子はない。ただ、静かに控えている。

 片言の日本語しか喋れなかったので、俺達の話の内容が分かってはいないのだろうけど、まったく聞き取れていないのかは微妙なところだ。


(日本語がまったく分からないって感じじゃないんだよな。何か聞き耳立ててるようにも見えるし……)


 英語を習い始めた時のヒアリングのテストの風景を思い出す。聞き覚えのある単語を逃さないとばかりに、皆真剣に耳を傾けていたあの雰囲気である。部屋に入る前に紙を見ずに言われた台詞といい、日本語で説明できる人がいる以上、まったく日本語と無縁ってわけではないだろう。


(そういえば、まったく聞き覚えのない言葉が母国語みたいなのに、何で日本語知ってるんだろう。何故、俺達が日本人って知ってるんだ?やっぱりここは異世界じゃなくて日本の外国人施設なんじゃないか?)


 ここが外国人施設とかで外見的特長と日本という場所から、日本人と認識されるのは分かる。でもここが異世界としたらそんな判断基準は生まれないだろう。ミステリー研究部のメンバーは異世界と認識したようだが、日本の外国人施設や、日本を知っている遠い外国に移動してしまったとかのほうが異世界に移動よりありえるかもしれない。


(日本にある外国の秘密結社……なんてあるわけないよな)


 でもまぁ、夢落ちの次の候補として、異世界転移も面白いし有りかもしれないと自嘲気味に納得しかけたところで、ド派手な緑頭の人を思い出す。


(あの髪色、毛染めでも無理だよな。ちらっと見ただけだけど、サラサラで綺麗な髪だった。ここにいる赤髪や銀髪も綺麗だ。染髪はもっと傷みそうだし……いや、まだカツラだったという線も)


 俺は起きてから同じところで思考が停滞しているのを自覚する。ほとんどここが知らない世界だと認めているのだが、どこかで否定したい気持ちが消えきらないのである。うーんと唸って、気を落ち着かせるためにお茶に手を伸ばした。

 見た目は薄いオレンジがかった色合いで、紅茶にしては色が薄い。匂いは何かの花のような匂いがする。目の前の3人はすでに口をつけており、害がある飲み物には見えないのでそのまま口にしてみる。


(ハーブティーって感じかな?)


 ほとんど白湯に感じられる口当たりにわずかに感じる味。コーヒー派のため紅茶やハーブティは馴染みがないが、一回だけ飲んだ事のあるハーブティーの味を思い出す。


「大丈夫。悠里ゆりも飲んでごらん。ハーブティーのような味だ」


 俺をじっと見つめる悠里ゆりの視線に気づいた。「知らない人から貰ったものを無闇に口にしない」という約束を守ってだんだろうな。

 家具全てが大きく巨人のための配置だからか、悠里はカップを取るのも大変そうだ。悠里の分のカップを取り手渡した。

 喉も渇いていたのだろう。俺がカップを渡すと「ありがとう」と言いお茶を飲み始めた。

「やっぱり可愛いな」という怜士と晴樹、横に控えて立つ4人の青年達が、この俺達のやり取りを微笑ましく見つめている事に俺はまったく気づいていなかった。


 個人的にはストレートティーは好きだが、ハーブやフルーツを混ぜたもの、ハーブだけのお茶は風味や味があまり好みではなかった。

 旨くはないが飲めないほどでもない。香りはいいのだが、味を求めて二口目を飲むか、微妙に考えさせられる味である。喉はそこまで乾いてなかったので、そっとカップをテーブルに戻すと、パタンと大きめな音が聞こえ俺は視線を向けた。



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