3.悠希の寝起きに金髪イケメンは眩しすぎる
『 』は異世界言語
「 」は日本語 です。
「…………………んっ…」
微かに目を開けたとたん、俺は思わず目を閉じた。
「まぶ……し……」
その声がきこえたのかわからないが、瞼の向こうに感じていた眩しい明かりが、ふっと翳った気配がした。
ゆっくりと意識が浮上して、肌に触れるシーツの、サラサラとした感触を手に感じる。いつの間に眠ったのか……そう思いながら、明かりが落ち着いた室内で、俺はふたたび目をそっと開けた。目を開けて最初に目に入った見慣れぬ天井に疑問は浮かぶが、すぐに記憶が蘇った。
事故の事も思い出し、夢だと思いたい自分がいるが、妙に冷静に頭が働きだしていた。カラフルな集団も、そして突然意識を失った事も…。
(?! 悠里……!!!)
意識が途切れる前に悠里の状況を確認出来なかった。すぐそばにいたはずなのに。
どれだけ気を失ってたのかは分からないが、事故の後、意識を失い、ここに運び込まれたという流れに違いない。
慌てて視線を天井から部屋全体へと移せば、8畳くらいの広さのシンプルな部屋に自分以外の人がいるのがすぐ分かった。
大きめのベッドのすぐ横、日を遮るように、また俺を伺うように立つ相手の顔に見覚えはない。
驚いた顔で俺の事を見つめているが、俺も驚きのあまり目をパチパチとしてしまう。
(おぉ……金髪ストレートロング……)
記憶の中にあるカラフルな髪色の集団の仲間だろうか。赤髪や緑髪などインパクトのある髪色を見た後では目の前にいる人の金髪が凄く自然に馴染み深く映る。外国人かな…?そんな事を考えながら、そのまま視線を向けていると、そっと一歩近寄ってきた。
サラサラの金髪を長く伸ばし後ろで一つに纏めている。年齢は20代中頃といったところだろうか。白色の肌に青い瞳。ハッキリとした顔立ちで見事なシンメトリーの顔は男らしい顔なのに綺麗という言葉しか出てこない。そして、デカい。
綺麗な顔立ちに少し困ったような微笑みを讃えながらこっちを見つめる男性の柔らかい雰囲気のせいか、不思議と警戒心が湧かなかった。
「おきる する」
明らかに外人という外見の相手から発せられた言葉は、たどたどしいものの日本語に聞こえた。一生懸命片言で話すその姿に好感が湧いた。しかし、
(日本語喋れないのかな?ここはどこの外国人施設なんだ??)
家から墓までの間に外国人しかいない施設があるなんて聞いた事がない。それに、事故があった後、普通は警察や病院なんじゃ……。この部屋、どう考えても病室じゃないし。
そこまで考えていて、ハッとした。
「そうだ!悠里!悠里は……妹はどこにいますか?!」
俺の言葉に、男は再び困ったような微笑みを浮かべながら首を傾げる。
「おきる いく する」
再び片言の日本語を話し、俺の目の前にすっと差し出してきた手は、荒れているわけではないが骨ばった作りの体格に見合った大きな手だった。その手に無意識に尻をずらしてベッドの端に逃げようと体が動いてしまったためか、男の手は差し出されたまま止まった。
それにしても……美形に微笑みながら手を差し出されるとか女の子が喜びそうだなという思考は生まれたが、男である俺には喜び勇んでその手をとる選択肢はない。というよりも、美形にキュンキュンしている場合ではない!
「あのっ…悠里はーーー 」
「おきる いく する」
半身を起こしたまま「ゆり」と叫び続けベッドから動かない俺をどう思ったのか、ドアを指差しながら再び同じ言葉が掛けられた。
「あ、あの……」
悠里について聞きたい。なのに目の前の相手は同じ言葉を繰り返すだけ。焦った様子の俺を見て相手は困ったように微笑みを浮かべながら首を傾げた。
「っっ!」
次の瞬間には、ひょいっとばかりに俺の両脇に手を入れて体を簡単に持ち上げ、重さを感じさせない手つきで軽く優しく床に下ろし頭を撫でてきた。
「何を――っ」
成人男性の俺にこれはないだろう。
目の前のイケメン男性の予想外の行動に赤面し声を荒げかけたが、相手は「だいじょぶ」と言いながら足元の靴を指し示す。
あまりにも、こちらの話を聞かないマイペースな相手に思わず言葉を飲み込み、そこでようやく俺は自分の服装がそのままであることに気がついた。
(あれ?さっき水の中に落ちて、ずぶ濡れだったよな?)
事故の後、そのまま寝かされていたにしては、服はもちろん靴も濡れたような感触はまったくない。乾くほどに時間がたっていたとはいえ、そう簡単に乾くものでもないはずだが。しかもベッドで寝てたよな、俺。ベッドも濡れていない。服もベッドも乾くほど、そんなに寝ていたのだろうか?俺の体にはそんな時間がたったような感覚がない。
あれ?やはり夢落ちか?だよな。状況的に変だ。とまた思考がぐるぐる回り始めたところで、腕がクイッと引かれた。
そうだ一人じゃなかったんだと、目の前の相手を見上げーーー 本当に見上げなければならないほどの身長差で、俺の頭は相手の胸ぐらいである。自分と比較すると大人と子供のような明らかな体格差。
思わず呆然と、反り返るほど首を曲げて相手の顔を見上げ、再度引かれた手を見る。
「おきる いく せつめい」
目の前のイケメンはそういって片手で俺の手を握り、もう片方の手にはメモを持ち扉に向かう。
「あの、説明ってどういうことですか?悠里は?他の人は?ここはどこですか?」
何処に連れて行かれるかの不安もあって言葉を重ねれば、金髪イケメンは困ったように微笑むと手元のメモ紙に一瞬視線を落とした。
「おきる いく せつめい」
メモ紙に視線を向けたまま喋られる。
見慣れない文字が五~六行程度書かれているメモらしき紙を見ながら同じ単語を繰り返している。相手の様子と言葉から想像するに、手元の紙にはきっと相手の国の文字で日本語の音だけが書かれているのだろう。書かれている単語をそのまま読み上げているという感じが近い。つまり、俺が言ってる事も理解できていない。
(これは日本語を理解してないってことか。でも、今から行く場所に言葉が分かる人もいるって事?その人が説明をしてくれるのかな?)
言葉が分かる人が別にいるのに、分からない相手に問答しても意味はない。悠里の事は気になるが、自分が手荒に扱われていない以上、悠里も無事な気がしてくる。
言葉が分からないのならと、相手の顔を見て俺が頷いて見せれば通じたのか、ホッとした表情を見せて手を引いたまま扉を開けた。
一歩出ると白を基調とした清潔感ある廊下が続く。やはり、何かの施設か病院なんだろうか。個人宅とは思えない作りと広さに思わずキョロキョロと観察してしまう。
似たような扉が並んでいるので、全部俺がいたような個室になっているのかもしれない。やっぱり病院なのかな?しばらく進み、階段を上がりまた進み、また階段を上がり、そして曲がりと、いささか帰り道が不安になるほど進む頃になると扉の間隔が明らかに大きくなる。それに合わせて柱や扉自体も立派なものへと変わっていく。
想像以上に規模が大きい施設。何処まで連れて行くんだと思い始めた頃、ようやく一つの扉の前で金髪イケメンは足を止めた。
視線を感じて見上げれば、金髪イケメンは女神と勘違いしそうな見惚れるような微笑を浮かべて俺を見ていた。
繋いでいた手がようやく離されたと思ったら、その手はそのまま俺の頭に。
何故か頭をなでられる。
「こわい ない」
今度は何も見ずに、俺に視線をあわせたまま言う。
(怖くないって言いたいのかな?あれ、やっぱり子供扱いされてる?)
素直についてきた事を褒めるかのような、母のような慈愛に満ちた手つきに疑念が湧く。もしかして手を握られていたのも、逃亡防止とかではなく、迷子にならないようにとかいう意味合いだったのだろうか。
金髪イケメンは、もう一度微笑みを向けてから、扉をノックした。
『****。********』
何か声を掛けているが、まったく聞き覚えのない言葉。
中から返答らしき声がかかると、ゆっくり扉が開けられた。
サブタイトルを少しだけ修正しました。






