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2.悠希とバスからの脱出

『  』は異世界言語

「  」は日本語   です。

 




 バシャン!!!


 大きな水音に、一瞬垣間見えた水しぶきと、激しい衝撃。腕の中に必死に閉じ込めた妹から短い呻き声が聞こえる。視界の端には見覚えのある三人の服が見えた気がした。


「うっ!!」


 一瞬意識を失った。

 衝撃は収まったが、徐々に沈んでいく感覚に慌てて周りを見渡した。車内に入り込んでくる大量の水。すぐにバスが水の中に沈んでいっているのがわかった。橋から川へ落ちたのか……?そんな疑問も、腕の中の妹が身動ぎする感覚で霧散した。

 人の騒ぐ声に振り向くと、大学生達がよろけながらもバスから脱出している姿が見える。


「……にぃ」


 妹の声にハッとする。


悠里ゆり、バスからでるぞ。動けそうか?」


「うん。大丈夫」


 妹を離し割れた窓から出ようとした時、運転手がまだ残っているのに気づいた。


悠里ゆりは先に逃げろ」


「?! やだ!!」


 半泣き状態の妹を置き、運転手の元へ急ぐ。


「大丈夫ですか?!」


 声をかけ、運転手の肩に手をかけた時、ぐらりと運転手の体が揺れ重力に従うように倒れた。

 倒れた衝撃に呻き声をあげることもなく、目を向き涎を垂らし…………既に、亡くなっていた。


「にぃ!早く!」


 必死に叫ぶ妹の声にハッとなり、慌てて戻る。死んでしまっているのなら、仕方ない。このまま置き去りにするのは忍びないが、生きている可愛い妹が優先だ。


「ガラスに気をつけろよ」


 スーツの上着を窓枠にかけ、ガラスで体が傷つかないように注意しながら、妹を先にバスから出し、後を追うように窓から水の中にその身を投じた。

 バスが沈む際の水流が発生するかと思ったが、落ちた場所はさほど水深がなかったようだ。激しい水流はうまれなかった。それでも、165cmの俺には深い。水面も激しく揺れている。顔を出して息を整えながら周りを見ると、泳ぎが得意ではない上に制服姿で必死に泳いでいる妹の姿が見えた。その奥から、事故の音を聞きつけたのか誰かがこちらに向かって来ているのが見える。

 水を吸った服が重い。必死に泳ぎ、妹のそばに行き、なんとか岸まで辿り着いた。

 妹の体を岸へあげ、そのまま倒れ込む。事故による体の痛みにくわえ、なけなしの体力を奪われ、力尽きたように蹲ったまま荒い息が収まらない。


『******』


 聞きなれない言葉に、ハッと意識が戻される。

 人が近づいてこようとしていたのを思い出し見ると、すぐ傍まで数人の男達が来ていた事に気づく。


(……え?どこだ?ここは……?それに、不思議な音…)


 目の前は色彩と音で溢れていた。空の青と葉の緑と土と幹の茶色。可憐な花は薄桃色をはじめたくさんの色が咲き乱れ、吸い寄せられるような鮮やかさだった。

 葉の裏に潜む虫の気配とそれを狙う野鳥の鋭い目。草花の囁きに走り回る小動物、走り寄る人間の色とりどりの髪の色。そして、降り注ぐ太陽の光。日本の風景とは明らかに違う。


 何よりも俺に近づいて来た男は明らかに日本人ではない。

 近くにいる男達はどう見ても2m以上ある巨漢。体の作りが全体的にしっかりしている。白い衣装に身を包んだ金髪と紫髪と赤髪と緑髪とーーー カラフルな色彩の男達。黒髪が1人もいない。

 全員長髪。だからといって女性的ではないのに明らかに美麗という表現が似合う顔立ち。ハッキリとした作りの華やかな顔立ちの男達の集団。

 一番近くに寄ってきている男や、ほとんどの男は白人に見えるが、後ろに褐色の肌の男も見える。


(凄いな……こんなカラフルな髪色の集団、初めて見た)


 俺が見慣れてないだけでカラフルな色彩の髪色の人は日本にもいるだろう。日本の染髪技術は素晴らしいからな。ただ、それが集団でいた。その慣れない色彩に奇異な印象を受けるが、その整った顔にはカラフルな髪色が恐ろしく似合っていた。

 格好はどこかで見たような白っぽいシンプルな衣装を着ているが、どう見ても見慣れた洋服って感じのデザインではない。有名ゲーム『FF』の白魔道士の服装というか…ゆったりとしたAライン型のフレアロングパーカーワンピと言えば良いのか…ささやかに刺繍が入っていたが、それが唯一の飾りだ。


 相手も警戒しているのか、今のところ一人だけかなり近くまで来ているが、立ち止まったまま動く気配はない。といっても一番前に来ている男は本当に俺の目の前にいて、手が届きそうなほど近くに寄っていたのだが。


(って、そいや俺、他の人の確認してない!)


 自分より先にバスから出て行った人達は無事なのか?!妹は?!近づいていた男達のカラフルな姿に目を奪われ、大事な確認を怠っていた事を遅まきながら思い出し、俺は慌てて様子を見るためバッと体を動かした。


『***!』


 その瞬間、頭に激痛が走る。あぁ、事故で頭をしこたま打ちつけたからな。

 こちらが動いた事で相手も反応したのか、一瞬で詰め寄られ相手の大きな手の平が俺の肩に触れたと思った瞬間、俺の意識は闇に閉ざされた。


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