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朝食

「ローズおはよー」

「おはようリリィ! ねえ、さっき大きい音がしたけど何かあった?」


 一階のドアを開けてすぐ、ローズが声を掛けてきた。カウンター向こうのキッチンから、魔法で食器やティーセットなどがふよふよと浮き漂っている。


 それらを彼女が杖で一振りすれば、カウンターに隣接したダイニングテーブルにカシャン、と小さな音を立てておかれた。その上に目玉焼き、ベーコン、ブレッドがぽんと現れる。ティーセットはひとりでに紅茶を注ぎ始めた。


 私はそれらを横目に口を開いた。


「実はベッドから落ちちゃって」


 下まで聞こえたという大きな音の正体を正直に言えば、ローズは腰ほどまである赤いロングヘアを揺らし、鈴のような声で軽やかに笑う。


「リリィ、子供みたい。でもよく眠れたならよかった」


 よく眠れた、のだろうか。


 就寝は日付が変わって何時間もしてからようやくだったし、悪夢のせいで頭はズキズキしている。けれどローズに心配をかけるのも気が引けて、私は曖昧に微笑むだけにした。


 私の仕事は、この世界の時空の歪みを直すことだった。「だった」というのは、その職をもう既に引退しているからで、それに伴い取得していた「上級魔女」の資格も返納している。


 この世界は歪んでいる。

 比喩ではなく、物理的に。

 空間基準点を観測するたびに、日ごと、時空間にひずみが生じているのがわかっている。その原因を突き止め、丁寧に補修し、世界を再構築していく……それが私が半年前まで生業としていたものだった。


 今は、ローズが営む雑貨屋に居候しながら、一階奥の部屋で花を育てたり薬草を街の薬屋に卸している。


 ……収入はあまりない。貯金は幾らか余裕があるからと始めた“道楽”のせいで、もはや老後より老後らしい生活を送っている。



       〇



「ねぇ、今日隣町のピーターのところに買い付けに行ってきてくれない?」


 四人掛けのテーブルで、私たちは向かい合いながら朝食を摂っていた。ブレッドにたっぷりのバターを塗りながら、目の前の親友は溜息を吐く。どうせ大した仕事も舞い込んでいないので、私は二つ返事で頷いた。


「暇だし良いよ。なあに、今日はお店で手が離せなさそうなの?」

「ええ、実は昨日お店を閉める直前に予約が入っちゃって。なるべく急いで納品してくれって。今日一日は店にこもろうかと思ってるの」

「商売繁盛ってのも大変なんだ?」

「嬉しい悲鳴だけどね」


 ふうん、そんなもんなんだ。と己の経営手腕のなさを棚に上げて、呑気に首肯する。忙しそうで大変だなあ、と鷹揚に続ければ、ローズが少しムッとしたようだ。


「あのねリリィ。あなたって有名だし賢いんだから、本気出せば今の何倍も人気店になれるはずなのよ。深く聞くつもりはないけれど、いつまでも貯金を崩す生活って訳にもいかないでしょうし」

「貯金なら十分あるわよ。家賃も生活費も滞りなく払ってるでしょ」

「それはそうだけど」


 まあ気に障ったなら謝るわよ、と紅茶に口づける。わずかに柑橘の香りがするアールグレイは、私とローズのお気に入りだった。


「……それで、ピーターのところの買い付けにはいつ行けばいい?」

「急ぎじゃないからいつでも。ついでに街でのんびりしてきたらいいわ」

「そう?」


 ならお言葉に甘えて街でもぶらりと散策しようかな、と思う。

 頷いた私に、ローズはにっこり微笑んだ。


「せっかく今日、かわいいお洋服着てるんだしね!」


改行とか長さとか、「ちょうどいい」を探す難しさを感じています……

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