クレーム
場所が変わり、警察署内。
「ーー責任者を出せ!!」
今にも殴りかかりそうなほど、すごい剣幕で、そう女は繰り返している。
カツカツカツ。
遠くからヒールのような足音が聞こえてくる。
「ーーお客様、すみません。どのようなご用件ですか?」
やり手感を出しているその婦人警官は言った。しかし、警察署で「お客様」と呼ばれる事には少し抵抗があった。
「だから、責任者を出せ!って言ってるのがわからないのか?」
女は凄まじく感情的な顔で、大声を張り上げる。
「お話を私が聞きますので」
若そうに見えるが40過ぎくらいだろうか?
貫禄のある婦人警官が言った。
ーーもーこの際、誰でもいい。
影はおとなしく婦人警官についていく。
向かった先は、取調室のようだ。
「私は中村と言います。あなたは?」
「花邑楓と言います」
(ほんとは影の方なんだけど、影は存在しないから、楓と言っておこう)
影はそう思った。
先程までの剣幕がなくなり、普通に自己紹介を始めた。
「今日はどのようなご用件ですか?」
中村と言う刑事に聞かれ、ケータイでインターネットのページを開いた。
「これを見てください」
楓と名前を偽っている影は、問題のページを見せた。
「あなた方が不確かな情報で、私を容疑者扱いするから、私はネットで晒され、無言電話や、嫌がらせなどを受け続けています。この責任を一体どのようにとるおつもりですか?」
「それは申し訳なく思います。しかし、匿名の電話があり、事実確認をしたまでですのでーー」
「そちらには責任はないとおっしゃる訳ですね?」
「そうですね」
中村という刑事は、キッパリとそう言った。
「わかりました。それでは、、」
たまたま警察署の前を、楓が歩いていた時だった。
警察官から追い出されるようにして、影が警察署から出てきた。
「ーー影?」
影はその声のする方を見る。
「ーー楓、何してんだよ?こんなところで?」
影はどうやらご機嫌ななめの様で、口調が荒い。
「影こそ何してんのよ?警察署から出てくるなんてーー」
「ちょっと文句を言いに来たんだ。あいつら警察がちゃんと調べてないから、楓は被害被ってるんだろ?」
無言電話に、ピンポンダッシュ。
そんな嫌がらせは、受けなくて良かったはずなんだ。なのに話も聞かないなんてーー。
感極まったのか?影はそう言ったところで、涙を流した。
そんな姿を見ながら、影の肩にそっと手を置くと楓は言った。
蚊の鳴くような小さな声で。
「ーー影、ありがとう」