強盗犯
「主任」
ドアを開けながら、若い刑事が呼んだ。
「なんだ??どーした?」
「先日の電話の件ですが、人物像がどーも違う様な気がするんですよね?名前を挙げられた五人を周囲から調べてはいるんですが、そーゆー事をする 人物ではなさそうな気がするんですが」
「そっか。何も出ず、か」
主任と呼ばれた男は、ふーっとタバコの煙を吐きだした。
「確か今、来てるんだよな?ーーその犯人とされているうちの一人。花邑楓という人物が?」
「はい」
「少し揺さぶってみるか?」
「そのほーがいーと思います」
「そーするか」
主任は自ら取調室へ行き、花邑楓の取調に参加するようだ。
「ーーーあなたの事を調べさせて頂きました」
主任と呼ばれる年配の男は語りかけるようにそう言った。
「ーー何を、ですか?」
主任は無言のまま上着のポケットの中から写真を取り出す。
「あなたが探しているこの女ですがね、、双子の姉妹など存在しないんですよ?」
刑事は煙草に火を付けた。
白い煙を吐き出しながら、続けて言う。
「ーーで、あなたは一体何者なんですか?そして、彼女は一体??」
刑事の目が確実に私をとらえる。
その目は一瞬たりとも反らされる事なく、ずっと私を見つめている。
少し恐怖を感じるような、冷たい眼差しでーーー。
※
「ーー先程から言っているように、私は花邑楓です。そして、彼女は私の双子の妹です」
写真に手を添える手に力が入った。
「ーー話を変えましょう」
刑事は、先ほど火を付けたタバコの火を消す。
「数日前ですがね、警察署館内に一本の電話があったんですよ!その内容っていうのがね。ーー先日起きたある事件についての通報なんですよ」
「ーー事件って??」
「その事件って言うのがね、強盗事件なんだがねー?何か知らないかね??」
「ーー強盗??」
女は表情を変えて言った。
「強盗だかなんだか分からないけど、警察沙汰になるような事件、起こしてないし」
今私の発言はどう写るだろう?
裁判の前に、必死に無罪を訴えているようなそんな気分だ。
しかし、彼らの目にどう写っているのだろうか??
やってしまった事実を隠す為の必死さに見えるだろうか?それとも、やってない事を訴える為の必死さに見えるのだろうか?
事実、私は楓の分身であり、楓がその時に何をしていたのかは、わからない。彼ら、警察の人間が言う様な事をしていたのかも知れないが、私には本当に身に覚えのない事だった。
ーー主任。
若い刑事が主任と呼ばれる上司のその耳元で、何かを囁いている。
「ーーうん、うん、分かった!」
若い刑事から視線をずらすと、主任は私の方に向き直る。
「これを見てもらえますか?」
そう差し出されたのは、一枚の写真だった。
そこに写し出された人物は、間違いなく私だった。しかし、私にはこんな覚えはない。だが、私には分かる。間違いなくそれは楓だった。
主任と呼ばれる男は鋭い目つきでこちらを睨むように見つめた。
「ーーこれはあなたですよね?」
「ーーはい。そうです」
もう認めるしかない状況だ。
詳しい事は何もわからない。だが、私は今、楓を守るために存在しているのだから。
「ーーこの写真はどこで?」
私は聞いた。
「先日起きた強盗事件の犯人の一人をビデオから写真に写したものですよ!」
ーー強盗事件??
まるで意味がわからない。
それに楓が関わっているから、今行方が分からないのだろうか?
それともこれは、誰かが楓に罪を着せようとして作られた写真だとでも言うのだろうか?
いや、それはないだろう。
刑事が言っているのだ。
あの楓が強盗事件なんてものに関わるとは、とても思えないが。
探しだして直接、楓に問いただすしかないだろう。