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◇◇


 新人執事クロードには他人よりもはるかに優れた生まれつきの能力がある。

 それは『耳』だ。

 ちょっと離れたところのひそひそ話も、壁一枚向こう側の会話も、彼の耳にはしっかりと入ってくる。


 彼が執事になってから1ヶ月が過ぎたこの日の夜もまた同じだった。

 

 王女シャルロットが一人で暮らす巨大な館のすぐ隣にひっそり建てられた2階建ての建物に、館で働く使用人たちは暮らしている。

 クロードの部屋は1階のリビングに面したこじんまりとした部屋だ。

 部屋の大半を占めるシングルベッドで横になったクロードは、ウトウトしながらリビングから聞こえてくる侍女たちの声に耳を傾けていた。


「はぁ、疲れたぁ」

「今日もシャルロット様のわがままは酷かったわね」


 確かにその通りだと、クロードは心の中でうなずいた。

 今日なんて、


 ――北の山から湧き出る水をくんできなさい。私のお風呂に使うから。


 と歩いて1時間以上もかかる山道を3往復もさせられた。

 おかげで太ももがパンパンだ。


「学校にも行かず、友達が一人もいなくて、ずーっと館に引きこもりっぱなし。いつ、何を言いつけられるか分からないから、ろくに休憩すら取れないわ」

「休憩時間が取れないなんて、ありえない!」


 クロードは首をひねった。

 彼がここに来る前の仕事では『休憩』という概念がなかったからだ。

 文字通り、四六時中気を張っていなくてはならず、睡眠時間も1時間取れればいい方であった。

 だから日中こき使われても、深夜から夜明け前までたっぷり寝ることができる今の状況に、クロードは何の不満もなかったのである。


「ほんとよねー。ああ、ゆっくりランチを取れたらなぁ」

「もう、メアリーったら。いつも食べることばかりなんだから!」

「ふふ。それにお腹がふくれた後にお昼寝するのも幸せなのよねぇ」

「それ、すっごい分かる! お昼寝って幸せよね!」


 恋よりもご飯が好き、と公言しているメアリー。

 「食べ物なんてお腹に入ってしまえば何でも同じ」というのが信条のクロードがこれまでは彼女に共感することはなかったが、今回は違った。

 

 昼寝か……。してみたいな。思いっきり。


「そう言えば、ここ最近のシャルロット様はマルネーヌ様の館に行くことが多いわね」

「マルネーヌ様ってソリス家の令嬢の?」

「そうそう。シャルロット様と同い年みたいよ。でも5年前だったかな。ご両親を亡くしてからは、侯爵の位を継いだ兄のお兄様と二人で暮らしているの」

「お兄様は館を留守にすることが多いのよね?」

「そうね。だからマルネーヌ様がひとりぼっちでいるに時に、シャルロット様は『様子見ようすみ』という名目で会いに行ってるのよ」

「でも本当に『様子見』だけで帰ってきちゃうんだもんなぁ。ちょっとでも長居ながいしてくれたら、その間は私たちの休憩時間になるんだけど」

「あきらめましょ。シャルロット様が『様子見』と言えば、それまでなんだから」

「あーあ、絶品ランチをのんびりと食べたいなぁ」


 なるほど。休憩時間をもらえれば、昼寝ができるのか――。

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