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◇◇


 前夜祭の始まる前に、ローズお母さまが大きな声で呼びかけた。


「皆さん! 今宵は重大な発表がありますの!」


 端から端が見えないくらい長いテーブルに豪勢な食事が並んでいる。

 各地から集められた有力貴族たちがズラリと顔をそろえていた。

 ダンスパーティーは明日の夜だけど、彼らには先に大事なことを打ち明けるみたい。


 国王であるお父さまが上座に座っている。

 お父さまと顔を合わせるのは10年以上ぶりだ。

 ずいぶんとお腹が大きくなってるし、目元が鋭く尖っている見える。

 きっと公務に忙しくしているのだろう。

 お父さまのすぐ右斜め前にはローズお母さま。そのすぐ前が私の席だ。

 ちなみにクロードの席は末席。だから私からは姿が見えないくらい遠く離れている。

 

 そして私と向かい合って座っているのは、見知らぬ男性だ。

 金髪で整った美形の顔。でもどこか冷たさを感じる……。いったいこの人が誰なんだろう?

 その答えはローズお母さまの口からすぐに出た。

 

「こちらにいらっしゃるのはグリフィン帝国の皇太子、フェリックス殿下ですわ!」

「皆の衆、よろしく」


 立ち上がったフェリックスが軽やかな調子で一礼すると、場が一気にざわついた。

 無理もない。つい最近まで血で血を洗う争いを繰り広げてきた相手の皇太子なのだから……。


「鎮まりなさい!! 話はこれからですわ!!」


 ローズお母さまの一喝で、貴族たちの口元が引き締まる。

 なんだろう? この感じ。

 すごく嫌な予感がする……。


「シャルロット。立ちなさい」

「え?」

「いいから、早く」


 有無を言わせぬローズお母さまの圧力に負けて、私は恐る恐る立ち上がった。

 何が起こるのか分からず、怖くて、顔を上げられない。

 

 そして予感は現実に変わった――。



「アッサム王国とグリフィン帝国。両国のこれからの平和と繁栄を確かなものにするため、フェリックス殿下とシャルロットの婚姻をここに発表するわ!!」



 な、なんですって……!?

 ウソ! やだ! そんなの絶対ダメ!!


 顔を上げた私は真っ先にテーブルの奥へ視線を飛ばす。

 ようやくクロードの姿が確認できた。

 けど彼は私ではなくフェリックスの方をじっと見ている。その鋭い眼光は槍のようで、思わず背筋がゾッとした。

 

 いったいどういうこと?

 このままだと私は本当に他の男性と結婚しちゃうのよ!?


 でもいくら視線を送ってもクロードは見向きもしない。

 ダメだ。今のクロードはあてにできない。だから自分でなんとかするしかない。

 貴族たちが歓声で沸く中、私はローズお母さまに詰め寄った。


「ちょっとお待ちください! 私は……!」


 ……ダメ。『私は悪魔に姿を変える運命なので、誰とも結婚なんてしません』なんて言えるはずがない。

 だって私の結婚でこんなにみんな喜んでくれてるってことは、呪いのこととか、ローズお母さまが私を亡き者にしようとしていることとか、何も知らないに決まってるもの。


 もう一度、クロードの方に目を向ける。

 彼は食事前だというのに席を立ち、部屋を後にしはじめていた。


「クロード!」


 私は懸命に声をあげたが、嵐のような歓声にかき消される。

 

「いかないで!」


 もう一度叫んだ。

 私の異変に気づいたマルネーヌがアレックスに声をかけ、アレックスが慌てた様子でクロードを追いかける。

 でもクロードの足は止まらない。

 何かに急かされているようだ。

 

「ダメ。いかないで……」


 このままクロードが遠くにいってしまいそうな気がする。

 そしてもう彼は二度と私のもとに帰ってこず、私は悪魔に姿を変える――。


「そんなの嫌……」


 ついにクロードが部屋から出ていった。

 同時にぽろりと涙のしずくがテーブルに落ちたのだった――。

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