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◇◇


 ――ソフィアお母さまの思い出が残る場所を作って欲しいの。


 私のお父さまに対する最初で最後のわがまま。

 私の産みの親で、いつも優しかったソフィアお母さまが亡くなった翌日のことだった。

 お父さまは私の願いを聞き入れてくれて、二人が出会った王都の中央広場に2つの塔からなる大きな木造の教会を建ててくれたの。

 『ソフィア慈愛教会』って名付けられたその教会は、宮殿からはかなり離れているけど、お城の最上階にあった私の部屋からなら、なんとか見ることができた。

 その部屋に閉じ込められてから、私は落ち込むたびに教会を見てはソフィアお母さまを近くに感じていたわ。

 

 初めて中に足を踏み入れる。木の床がみしりと音を立てたのが「いらっしゃい」とソフィアお母さまが言っているように思えて、つんと鼻の奥に痛みが走った。


「ここはねソフィア慈愛教会っていうの」

「そうか」


 両脇に椅子が並ぶ中、中央の身廊を二人で手をつないだまま歩いていく。

 一番奥の祭壇の前でつないだ手を離し、ひざまづいて女神像に手を合わせる。


「女神イシスか」

「ええ、よく知っているわね?」

「ああ、俺の国でも有名だったからな。触れただけで病気を治したり、悪魔の呪いを弾き飛ばしたりした神様だそうだ」

「うん。知ってる。この世にもそんな女神様がいたら私の呪いも弾き飛ばしてくれるのかな?」

「そうだな……」


 かすかに微笑む女神像がソフィアお母さまに重なっていた。

 

 ソフィアお母さま。お願いがあるの。


 心の中でそう声をかけてから、大きく息を吸う。

 私はここに来る前から決意していたことを実行に移そうとしていた。

 それは、すべてをクロードに打ち明けること。

 彼にはありのままの私を知ってほしい。

 もしそれで嫌われたり、気持ち悪がられたりしても仕方ない。

 それでも怖くてどうしようもない。自然と膝が震えていた。

 目をつむって頭を下げる。もう一度、ソフィアお母さまに心の声をかけた。

 

 どうか私に勇気を与えてください――。


 もちろん何も返事なんか返ってこない。

 けど静寂に包まれた教会の空気のおかげで、腹が決まった。

 私はゆっくりと立ち上がって、クロードに向き合った。


「ソフィアってね。私のお母さまのお名前なの」

「お母さま? ローズじゃないのか?」


 目を丸くしたクロードに対して、口元をわずかに緩めてから首を横に振る。

 

「クロード。あなたには私の秘密を聞いてほしいの」


 そう切り出した私は、自分の生い立ちから今に至るまでをつぶさに話した。

 私が話している間、クロードは驚いているような、それでいてどこか悲しんでいるような、複雑な顔をしていた。

 いずれにしても真剣に話を聞いてくれているのは間違いない。

 だから彼にすべてを打ち明けて、本当によかったと素直に思えた。


「ローズお母さまは私が悪魔に姿を変える前に、私のことを処分してしまおうと考えているんだわ」

「そんなこと絶対にさせるか」


 クロードが憤りをあらわにしているのがちょっぴり嬉しい。


「ふふ。ありがと。でもね。いずれにしたってもう私に残された時間は少ないことに変わりはないわ。だからね……。ええっとね……。もうすぐ宮殿で催されるダンスパーティーに出たいの」

「しかし宮殿には王妃がいるんだろ? むざむざ殺されにいくようなものじゃないか」

「さすがのローズお母さまでも大勢の人がいる前で王女を殺させるような真似はしないはずよ。むしろ人々の注目がダンスパーティーに集まる中、宮殿から離れたところにいる方が危ないと思うの」

「確かにな……。分かった。ならダンスパーティーに出ることにしよう。安心しろ。俺がシャルロットを守ってやるから」


 クロードが引き締まった顔つきで私を見つめる。

 まいったな……。顔を見るだけでドキドキしちゃう。

 でももう一つお願いしなくちゃいけないことがある。

 私は再び勇気を振り絞ろうと頑張って口を開いた。

 

「あのね。そのダンスパーティーでね……」


 ダメ。やっぱり言葉が出てこない……。

 『私のダンスパートナーになってほしいの』って一言だけなのに。

 ……と次の瞬間、奇跡が起こったのだった。


「だったらダンスパートナーに俺を指名してくれないか?」


 なんとクロードの方から私の言いたいことを切り出したのだ……。

 


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