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第6話 【爆炎帝】VS【最後の聖女】

「ハイトお姉様、勝負を受けて下さってありがとうございます」


 熱気渦巻くステラマーレ大闘技場。その中心でオルトリンデはローレンハイトと相対している。


「可愛い妹の頼みだもの、これくらいお安い御用だけど……一体どういう風の吹き回し? リンデが自分から『戦いたい』だなんて」


 オルトリンデは姉妹の中で最も争いを好まない性格をしている。1番好戦的なのがウィッカ、次にチトセとローレンハイト、それにアルメリア、オルトリンデと続く。


「光魔法の良さを新入生の皆さんに知って貰いたかったんです」


 そう言うとオルトリンデは新入生席の方を見つめる。見て欲しい誰かがきっとそこにいる。


「癒したり、護ったりするだけじゃない。光魔法のかっこよさを今日は伝えられたらいいなと思っているんです」


 オルトリンデの言葉で、ローレンハイトは今回のエキシビションが開催されるに至った事情をある程度察した。アンダルシア五姉妹にとって見て欲しい新入生など1人しか存在し得ないはずだからだ。


「ははぁん、なるほどね。リンデの魅力をばっちりアピールしてロイドを白組に引き込もうってわけ」


 自明の理のようなローレンハイトの予想は、しかし今回は外れていた。

 いや、そういう気持ちが全くない訳ではない。これを機にロイドが光魔法を好きになってくれればいいなという思惑も、オルトリンデの中には確かに少しは存在している。

 ──それでも。


「間接的にはそうかもしれません。私はただ可愛い弟の笑顔が見たいだけのお姉ちゃんですから。でも今日は……ベルセリア王立魔法学院に通う1人の生徒として、そして何より────1人の白組生として、ここに立っているつもりです」


 オルトリンデは手にしている錫杖を強く握り直す。


 A級装備アスクレピオス。1年間オルトリンデと共に研鑽を積んできたその杖は、オルトリンデが白組に上がった際にローレンハイトから送られた進級祝いでもあった。


(お願い……力を貸して、アスクレピオス)


 どれだけ強く握りしめてもまだ頼りない。

 目の前に立つローレンハイトの魔力はオルトリンデの1年間を軽々と否定する。

 3年生と4年生。成長期の彼女らにとって、1年という時間は絶望的なまでに大きい。


(だけど、そんなことはここに立つ前から分かっていました。ハイトお姉様が笑ってしまうくらい強いことなんて)


 それでもオルトリンデはローレンハイトに勝負を挑んだ。

 可愛い弟の頼みだからではない。私と同じ組に入って欲しいからでもない。

 ──悲しい顔で白組に入ってくる子がいるなんて……そんなに悔しいことはなかった。大好きな白組に入ってくる生徒には、笑顔でいて欲しいのだ。


 オルトリンデはローレンハイトを正面から見据える。いつもは大切なお姉様。そして今日は、倒すべき相手。


「…………」


 オルトリンデの強い視線を受けて、 ローレンハイトはレーヴァテインに魔力を通していく。現れる炎の刀身。赤組代表だけが持つことを許されたS級装備。


「そういうことなら手を抜く訳にはいかないわね。私も赤組代表としてここに立っているのだから」


 ローレンハイトは大闘技場に立ってから今初めてオルトリンデのことを『戦うべき相手』として認識した。どういう訳かは分からないが、この大切な妹は相当な覚悟を持ってこの場に立っていることが知れたからだ。

 その想いには姉として真正面から応えなければならない。


「かかってきなさい。お姉ちゃんが全力で相手してあげるわ」


 迸る姉の闘気から目を背けない。オルトリンデは生まれて初めて家族に錫杖を向けた。


「ベルセリア王立魔法学院……光魔法専攻・白組2年、オルトリンデ・アンダルシア────参ります!」


 絶望的な闘いの火蓋が今、切って落とされた。





 ローレンハイト先輩とオルトリンデ先輩がバトルするらしい。


 そんなビッグニュースを聞いても俺の心は少しもワクワクしなかった。

 昨日は息をするのも忘れて見入っていた、憧れのローレンハイト先輩のバトル。

 それが今や、どうでもいいことのように感じられた。


『ヴァン・ミストルト。光属性! Aランク!』


 先生の声が脳裏に再生される。

 昨日はよく眠れなかった。ずっとこの声が俺をひとりにしてはくれなかったからだ。教室では大丈夫だったのに、ベットの中に入った途端涙が溢れて止まらなかった。


「はぁ……」


 熱狂に包まれる教室の空気とは対称的に、俺の心は暗澹としていた。目下、浮上の予定は無い。


「ヴァン、いいかな」


 その時、声がかけられた。昨日出来た友達のロイドだ。あのローレンハイト先輩の弟だという。それに、世にも珍しい全属性の適性の持ち主。


 ……妬んだりはしない。そんなことをしても何にもならないし、俺の適性が光なのはロイドのせいじゃない。ただ、今は接しているとなんとなく気疲れしてしまう気がした。


「どうした?」


 俺は精一杯なんでもないような声を振り絞った。ロイドに心配はかけたくなかった。


「今日のエキシビションマッチ、ヴァンは観るよね?」


 目を向けると、ロイドはやけに真剣な表情で俺を見ていた。

 エキシビションマッチか。


「いや……俺はいいかな。気分じゃないんだ」


 今ローレンハイト先輩のバトルを観たら、自分が手に入らなかったものを突き付けられる気がして、多分辛くなると思う。そんな気がした。


「ヴァン、お願いがあるんだ」


「お願い?」


 その声色に、俺は少し意識を正した。真剣な声色だった。


「最前列で、今日の戦いを見て欲しい。リンデお姉ちゃんを、見て欲しいんだ」





 一言で表すなら、防戦一方。

 オルトリンデにとってこの戦いは『守る戦い』にしかなり得ない。

 ――そのはずだった。


「――――<<眩き聖十字(ホーリーレイ)>>!」


 アスクレピオスから高出力の光線が放たれる。光属性中級攻撃魔法・眩き聖十字(ホーリーレイ)。防衛・回復を主戦場とする光属性の主力()()()()である。


 中級なれど、攻撃力は十分。防御・治癒魔法に天稟の才能を見せるオルトリンデは攻撃魔法にも才覚があった。


 ローレンハイトは自らが贈った錫杖から放たれたそれを、レーヴァテインの一振りで掻き消す。


「…………」


「……ッ! <<天秤を焦がす雨(ホーリーレイン)>>!」


 ローレンハイトの頭上に数多の魔法陣が展開される。そこから無数の光弾が降り注いだ。


「これなら……!」


 オルトリンデの希望も空しく、光の矢はローレンハイトに届くことなく消滅する。

 ローレンハイトの、レーヴァテインの、魔力の前にオルトリンデの攻撃はその存在理由(レゾンデートル)を保ち続けられない。


 元々の魔力の差がある。決定的な装備の差がある。経験の差がある。

 そしてなにより――属性の差がある。


 オルトリンデがどう考えようと、光は攻撃に向いた属性ではないのだ。仮にS級装備を手にした1年後のオルトリンデが今のローレンハイトと戦ったとして、眩き聖十字(ホーリーレイ)がローレンハイトに傷をつけることはないだろう。

 個人の力量云々ではない。変えようのない一つの事実。


 それでもオルトリンデは攻め続ける。身に合わぬと知りながらも攻撃の手を止めようとはしない。

 オルトリンデの前には常に絶望がちらついていた。視界に映るそれを、決して見ない様にしながら魔力を光弾に変換していく。


「……<<正義を貫く槍(ホーリースピア)>>!」


 ほとんど逃避行に近いオルトリンデの連撃を、ローレンハイトは真正面から一つ一つ丁寧に打ち砕いていく。それは姉なりの優しさだった。


「くっ……!」


 ……あまりにも、遠すぎる。

 絶望が無視できない大きさまで膨れ上がっていく。

 何をしてもハイトお姉様には通じない。

 私には無理だったんだ。

 そんな気持ちがオルトリンデの心の中で産声を上げる。

 

『ええ、お姉ちゃんに任せて。きっとヴァン君に光魔法を好きになって貰えるわ』


 昨日ロイドに語った言葉。


 オルトリンデの瞳には涙が滲んでいた。

 このままでは弟との約束を守れない。

 このままでは、悲しみを笑顔に変えられない。


「それだけは――それだけはイヤなんです!」


 アスクレピオスがうなりを上げる。

 魔力全てを食らいつくして発動するそれは、治癒・防御魔法を得意とする【最後の聖女】オルトリンデ唯一のオリジナル攻撃魔法。


 まだ誰にも見せたことのない、オルトリンデの攻撃性。


「――――<<あなたの罪を赦しましょ(フォーリンヘヴン)う、二度と孵らぬ魂なれば(アスクレピオース)>>!」


 現れたのは、ヒトの3倍ほどの大きさをした翼の生えた機械の天使。

 終焉を告げるその天使は、自らの眼前に巨大な魔法陣を展開すると純白の希望をその大口から吐き出した。


 それは、まるで特大のレーザー。

 超音速で奔り抜ける事象の終焉がローレンハイトの世界を真白に塗り潰していく。


「…………」


 ローレンハイトはレーヴァテインに魔力を送り込む。

 チトセと戦った時とは逆。外に放出するのではなくレーヴァテインの内部へとひたすらに魔力を注ぐ。


 やがて一本の槍と化したそれを、ローレンハイトは破滅の光に向かって投擲した。


「――――<<身を焦がした炎焔地獄(レーヴァテイン)君を破壊する爆炎星(ブラストドライヴ)>>」


 ――灼熱の槍が、光を切り裂いていく。

 オルトリンデの約束は今、天使とともに音を立てて崩れ去っていった。


「……はっ……はっ」


 防御魔法を唱える魔力は残っていなかった。

 オルトリンデは立っているのも精いっぱいな様子で、朧げな視界で、自らに近づいてくるローレンハイトの姿を捉える。

 姉に貰った大切な錫杖を、差し出すように、震える手で構えた。


「ホー、リー……レ──」


 ローレンハイトにもたれ掛かるように、オルトリンデは自らの身体を手放す。それをローレンハイトは大切に、しっかりと抱き寄せた。


「よくやったわ。かっこよかったわよ、リンデ」


 ローレンハイトはオルトリンデに語りかける。煤と埃で汚れた顔が、今までで一番愛おしかった。


『勝者、ローレンハイト・アンダルシア!』


 誰も言葉を発することが出来なかった。物音ひとつさえ立てることを躊躇われた。


 奇妙な静寂に包まれたまま、始業式のエキシビジョンは幕を閉じたのだった。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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