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第5話 ロイド、あなたは私の弟子になりなさい

「全属性ーーッ!?」


 アンダルシア五姉妹は声を合わせて叫んだ。


 ここはメインロビーの談話スペース。寮が分かれているアンダルシア五姉妹が談笑するのによく利用している場所だ。


「うん……」


 ロイドは姉達に気圧され遠慮がちにそう呟いた。


「専攻はどうなるのですか?」


 アルメリアは努めて冷静にロイドに尋ねた。【水君大公】の二つ名を持つそのお姫様は、動揺を隠して自らを冷静に見せることが得意だった。


「それは好きに選んでいいって先生に言われたんだ」


 瞬間、姉達の眼光が鋭く光る。考えていることは皆同じだった。


「そーかそーか! じゃあロイドは黄組だな。アタシが面倒みてやるよ」


 チトセは強引にロイドの肩を抱き寄せると、これは決定事項だと言わんばかりに宣言した。

 しかし姉の強権は不発に終わる。アンダルシア五姉妹に『姉の言うことを聞く』といった殊勝な気持ちを持ち合わせている人間はいないのだ。


「ちょっと、勝手に決めないで下さい! ロイド君は白組に入るんです――ロイド君、お姉ちゃんが優しく教えてあげるからね」


 オルトリンデはチトセからロイドを引き離すとその大きな胸に抱き寄せた。

 クラスの誰かに見られたら殺されかねない状況だ。


「リンデお姉ちゃん……ぐるじい……」


 ロイドの顔がみるみる青くなっていく。それはこの世で最も幸せな死に方だった。


「リンデ……ロイドが死にそう……」


 ウィッカがオルトリンデの制服の袖を引っ張る。オルトリンデはしまった、という様子で慌ててロイドを解放した。


「はあ、はあ……」


「ごめんなさいロイド君! お姉ちゃんつい……」


「う、うん。だいじょうぶ」


 ウィッカは息を整えたロイドの袖を掴むと、たどたどしく勧誘活動を開始した。


「ロイド……闇魔法は、楽しい……何かを破壊するのは……気持ちがいい……」


「う、うん……」


 ロイドはウィッカの謎の迫力に首を縦に振ることしか出来なかった。


「ロイドにもきっと……分かる日が来るよ…」


 ウィッカは満足したのかロイドの袖を離す。ウィッカの価値観ではこれでロイドは黒組に入ってくれるはずだった。


「あら、ロイドさんは水魔法に興味があるのですよね?」


 アルメリアは魔導書からロイドへと視線を移した。先ほどからロイド達の会話に耳をそばだてていてちっとも魔導書の内容は頭に入っていなかったが、アルメリアは興味のない姿勢を崩すことはない。

 頭の中にあるのは『北風と太陽』という童話。周りが押すなら引いてみる。これぞ勝負の鉄則。


「興味がないと言えば嘘になるけど……」


 ロイドはどの属性にも取り立てて思い入れはない。どれにも興味があるし、何にも興味はないとも言える。


「もし青組に来るのでしたら歓迎致しますわよ」


 そう言うとアルメリアは再び魔導書に視線を落とす。本当は今にも強引に勧誘してしまいたかった。しまいたかったが、それでは他の姉達と同じだ。

 これでいい……これでいいはず……と必死に自分を納得させる。


「――ロイド、私はどうだった?」


「うん?」


 声のする方を振り向くと、そこにいたのは優しげな微笑みを湛えたローレンハイト。


「エキシビジョンの私はかっこよかったかしら?」


「うん、とてもかっこよかったよ」


 ロイドは最初は姉達が戦うことを快く思っていなかったが、終わった今では2人はとてもかっこよかったと感じていた。2人の弟であることが誇らしかった。


「そう、それなら――」


 ローレンハイトがビッとロイドを指差す。自身に満ち溢れた真っ赤な瞳がロイドを射止めて離さない。


「ロイド、あなたは私の弟子になりなさい」





「うーん……」


 翌日、ロイドは自分の席で頭を抱えていた。

 悩みの種は無論、昨日のことである。


 姉達全員に勧誘を受けてしまった。


「どうしよう……どうすれば……」


 考えても答えは出ない。出るはずもない。

 今のロイドにとっていずれかの属性に、そして姉達に、差をつけることなど不可能であった。


「選べないよ……」


 ロイドは机に突っ伏す。頭の中では5人の姉達が延々とロイドを勧誘していた。


「どうしたんだよロイド。朝からそんな疲れた顔して」


 ヴァンが席に座りながらロイドに声をかける。

 

「ヴァン。おはよう」


「おはよう。何か悩み事か?」


「そうだね、来年のことでちょっと……」


「来年? ああ、ロイドはどこに行くか選べるんだったな」


 そう言うとヴァンは少し暗い顔をする。もし自分で専攻を選べるのなら、ヴァンは喜んで赤組に進むだろう。


「……ごめん。無神経だったかも」


 ヴァンの表情に気付きロイドが申し訳なさそうにする。ロイドは自分がいかに恵まれた境遇なのか理解していないわけではなかった。


「いいさ、ロイドが悪いわけじゃない。そんな顔しないでくれ」


 ヴァンはそう言って笑うが、作り笑いなのはロイドの目からも明らかだった。


 何とかして元気づけてあげたいな。


 ロイドの胸中にはそんな思いが生まれていた。





「光魔法の魅力?」


 その日の放課後、ロイドはオルトリンデの元を訪ねていた。

 オルトリンデはロイドが白組に入る決心をしたのだと内心大喜びしたが、話を聞いてみるとどうもそんな雰囲気ではないようだった。


「うん……実はクラスの友達が……」


 ロイドはオルトリンデに事情を説明した。


 ヴァンという友達が出来たこと。

 ヴァンは赤組に入りたかったこと。

 しかし、鑑定結果が光属性だったこと。

 そしてロイドは何とかして友達を元気づけてあげたいと思っていること。


 ロイドは光属性の魅力を伝えられればヴァンも少しは前向きになれるかなと考えたのだ。


「そうね……確かに自分の希望通りの専攻組に入れる人は一握りだわ。お姉ちゃんも白組に入りたかったわけではなかったもの」


「そうなの?」


「ええ、そうよ。入学した時は青組に入りたかったの。水魔法は綺麗だし、メリアお姉様もいたから」

 

 ロイドはオルトリンデの話がとても意外だった。オルトリンデが光属性というのは何というか、とても似合っていたからだ。光属性が好きなのだと勝手に思い込んでいた。


「勿論今は光魔法が大好きよ。白組に入って良かったと思ってる。だから、入ってから好きになるってこともあると思うの」


「そうだよね……でも……」


 それをヴァンに伝えたところで彼の心には響かないだろう。入ったらきっと好きになるよだなんて、気休めにもならない。


「そもそもそのヴァン君はどうして赤組に入りたいと思っているの?」


「それは……かっこいからって言ってた……」


「かっこいい、か……じゃあ光魔法だってかっこいいってことを知って貰えばいいのね」


「リンデお姉ちゃん何か思いついたの?」


 ロイドは期待に満ちた目でオルトリンデを見つめる。田舎から1人で出てきたロイドにとって、頼れるのは5人の姉達だけだった。


「ええ、お姉ちゃんに任せて。きっとヴァン君に光魔法を好きになって貰えるわ」





「大変だ! ビッグニュース、ビッグニュース!」


 翌朝。

 新入生の1人が興奮を抑えきれない様子で教室に入ってくる。その焦りように教室にいた全員が入ってきた生徒に注目していた。


 教室中が固唾を飲んで次の言葉を待っている。

 件の生徒は息を整えると、鼻息荒く叫んだ。


「エキシビジョンマッチがもう1度開催されるらしい! さっきそこで上級生が話してるのを聞いたんだ!」


「エキシビジョンマッチ!?」

「誰と誰が戦うんだ!」

「アンダルシア姉妹は出るの!?」


 教室中がざわめきだす。ロイドも授業の準備をする手を止め、教室の入り口に視線を向けていた。


「驚くなよ……また姉妹対決だ! 戦うのは【爆炎帝】ローレンハイト先輩と――【最後の聖女】オルトリンデ先輩だ!」

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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