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第4話 鑑定式、そしてロイドの才能

 エキシビジョンの興奮冷めやらぬ中、新入生たちは教室に戻ってきていた。

 新入生200人が全員座れる広い教室である。これから1年間新入生はこの教室で一緒に授業を受け、2年生になるといずれかの属性専攻組に散っていく。ベルセリア王立魔法学院創立200年の歴史上でも例外は1件もない。


 理由は簡単で、人にはそれぞれ魔力の適性というものがあるからだ。火魔法が得意な者、水魔法が得意な者、雷魔法が得意な者……全員がいずれかの属性の適性を持っている。

 かの有名なアンダルシア五姉妹もそれぞれその属性の適性を持っていた。


 ベルセリア王立魔法学院では、入学式の日に新入生全員の適性を鑑定する。それが今から行われる鑑定式である。


「俺は何の魔法が得意なのかなあ」

「私雷だったらいいな、チトセお姉様と同じ寮に入りたい!」

「ぼ、ぼくはオルトリンデ様がいいなあ……ふひひ……」

「華奢な身体つき……あの濁った眼……僕はね、ウィッカ君には素晴らしい才能があると思うんだ」


 新入生達は鑑定式に胸を躍らせている。そこかしこで雑談が始まっていた。


 ロイドは教室のすみっこでぼーっと窓の外を眺めていた。鑑定式にあまり興味がなかったのだ。興味がなかったどころか、寧ろマイナスの感情を持っていると言っていい。

 ロイドは姉達と再会するのを目的にベルセリア王立魔法学院に入学したため、そもそも魔法にそんなに関心が無かった。特定の属性に対する憧れなどは皆無である。

 そして何より、ロイドは5人のお姉ちゃん全員が大好きだった。自分が何らかの属性の適性を持つということが、姉達の中から1人を特別にしてしまうような気がして、差がついてしまうような気がして、それを考えるとどんどん気が重くなっていくのだった。


「はあ……」


 思わずそんなため息が漏れる。未来への希望溢れる教室でロイドだけが唯一暗い顔をしているのだった。


「どうしたんだよ、暗い顔して」


 右からそんな声がかけられる。声の方を向くと、隣に座っている溌溂とした金髪の少年がロイドの顔を覗き込んでいた。


「ああ、いきなりごめんな。俺の名前はヴァン。ヴァン・ミストルトだ。お前は?」


「ボクはロイド」


「ロイドか。よろしくな」


 ヴァンは爽やかに笑うとロイドに手を差し出した。ロイドはそれをしっかりと握る。


「で、どうしてロイドはそんな暗い顔をしてるんだ? 一生に一度の鑑定式なんだぞ?」


 ヴァンは自分の番が待ちきれない、というようにシュシュッと小さくシャドーをする。


「あんまりこの属性に行きたい……っていうのが無くてね。ヴァンは?」


 ヴァンはよくぞ聞いてくれましたというように目を輝かせて言った。


「俺は断然火属性だな! やっぱり火属性が一番かっけーだろ!?」


「確かに火属性はかっこいいよね」


 ロイドは先ほどのエキシビジョンを思い出していた。レーヴァテインを振り回して戦うローレンハイトは確かに見惚れるほどかっこよかった。


「俺もいつかはレーヴァテインを手に戦いたいぜ」


 ヴァンは赤組代表になった自分を想像して打ち震えていた。新入生の中にはこのような夢を持っている者は多い。皆類まれなる才能を持った子供たちだからだ。


『次、ヴァン・ミストルト! 前へ!』


 ヴァンが教師に呼ばれる。鑑定の順番が回ってきたのだ。


「じゃあロイド、行ってくるぜ」


 ヴァンは現実に帰ってくると、緊張した様子で鑑定台に歩いていく。


 鑑定台は魔法陣が描かれているだけの簡素なものだ。しかしその魔法陣にはベルセリア王立魔法学院の技術の結晶が詰まっている。

 被鑑定者が魔法陣に手を載せると、魔法陣が光りだす。その色と光の強さで適性を測るのだ。人の魔力の本質を暴くこの仕組みは、王国内では学院しか保有していない技術である。


 ヴァンは鑑定台の前に立つと、意を決したように魔法陣へ手を叩きつける。

 魔法陣は白色の強い光を放ち始めた。

 ヴァンはその光を見ると、悔しさを瞳に滲ませた。


『ヴァン・ミストルト。光属性! Aランク!』


 おおーと周囲から声が漏れる。王国中の優秀な素質を持つ子供たちを集めたこの学院でも、Aランクはかなり珍しい。大半がCランクで、偶にBランク。Aランクは毎年数人しか現れない。


 ヴァンは周囲の驚嘆の眼差しなどどこ吹く風、放心したようにとぼとぼと席に戻ってきた。


「ヴァン……残念だったね」


 ロイドは声をかけるか迷ったが、酷い落ち込み方をしているヴァンを放ってはおけなかった。


「ああ……」


 ヴァンはロイドの声が耳に届いているのかいないのか、かろうじて相槌を打った。ヴァンの意識はここにはなく、脳裏には先ほどのエキシビジョンで華憐に戦うローレンハイトの姿があった。

 恋慕ではない。ただ純粋にかっこよかったのだ。あんな風に戦場を駆け巡ってみたかった。

 それだけに鑑定の結果が受け入れられず、ヴァンの瞳からは一筋の涙が落ちた。


「……」


 ロイドはそれに気が付いたが、今度は何も言えなかった。自分の番を待つことしか出来なかった。


『次! ロイド・アンダルシア! 前へ!』


「アンダルシア!?」

「アンダルシアってあの……?」

「チトセ様の弟ってこと!?」


 周囲がざわざわし始める。ヴァンもはっとした表情でロイドの顔を見た。


「……じゃあヴァン、行ってくるね」


 ロイドは重い足取りで鑑定台に向かった。その途中で強烈な奇異の視線に晒され続けロイドの足取りは余計に重くなる。

 鑑定台に辿り着くとロイドは無造作に手を置いた。何の感慨もない。どうなった所でロイドが喜ぶ結果は存在しないのだから。


 その瞬間。

 魔法陣は強烈に輝き始めた。漏れ出した光は天井まで届いている。


「……!」


 ロイドは目を見張った。光の強さにではない。その色に。


「虹色……!?」


 教師は何事かと頭を悩ませたが、やがて自分を納得させ宣言した。


「ロイド・アンダルシア! 全属性! Sランク!」


 ベルセリア王立魔法学院創立初期から全ての生徒を判じてきたその魔法陣は、今日初めてその身体を虹色に染めた。




「なあ、どう思う」


 チトセは誰とはなしにそう呟いた。エキシビジョンが終わって在校生は今日は解散。暇になったアンダルシア五姉妹はメインロビーの談話スペースでくだを巻いていた。


「どうって……何がですか?」


 アルメリアは主語のないチトセの呟きを丁寧に拾う。


「ロイドの鑑定式だよ。そろそろ終わってる頃だろ」


 チトセはどうせなら自分と同じ属性ならいいなと考えていた。他の姉達もそれは同じだった。


「こればかりは鑑定してみないことには何とも言えませんからね」


 アルメリアは読んでいた魔導書に目を落としながら答える。一見興味がないように見えるが、彼女も昨晩ロイドが青組に入ったら……という妄想を1時間ほど繰り広げていた。


「光だったらいいなあ。お姉ちゃん、色々教えてあげちゃうのに」


 オルトリンデは頬に手を当て、ロイドと送る未来の光組生活へトリップしていた。


「闇魔法は……さいこー……ロイドも気に入るはず……」


 ウィッカはにへへ……と怪しい笑みを浮かべる。


「ロイドは赤組に決まってるじゃない。あの真っ赤な瞳は火属性の素質がある証よ」


 ローレンハイトはそう言い切ると、ソファから立ち上がった。


「どこにいくの?」


 アルメリアはローレンハイトに尋ねた。妹にもロイドにも敬語を使うのに双子の姉にだけは使わないのはそれだけ2人の絆が深いことの証左。


「ロイドの教室。気になるから連れてくるわ」


 そう言ってローレンハイトは新入生の教室に向かって歩き出した。


「あ……ウィッカも行く……」


 そのあとをぴょこぴょことウィッカが付いていく。

 ウィッカの頭の中はロイドを自分の破壊仲間にすることで一杯だった。





 好きな所にいきなさい。


 専攻組について教師はロイドにそう告げた。


「うーん……」


 ロイドは頭を悩ませていた。これと決められなかったのは幸いだが、自分で選べというのも酷な話だった。


「なあロイド、お前ってローレンハイト先輩の弟なのか?」


 ヴァンが興味津々といった様子で訪ねている。ロイドの素性のおかげで多少気分は和らいだようだ。


「うん。今日はハイト姉さんに学院まで案内して貰ったんだ」


 その返答に、教室中がざわめきだす。誰しもがロイドとヴァンの会話に耳をそばだてていたのだ。


「ハイト姉さん!?」

「…………殺す……!」

「あいつを殺せば……オルトリンデさんは俺のママに……」

「ロイドくんと結婚したらチトセお姉様が本当のお姉様に……じゅるり」


 教室のそこかしこで邪念が生まれだす。ロイドはヴァンとの会話に集中していたため幸運にもそれに気が付くことはなかった。


「やっぱりそうなのか。Sランクってのは特別なんだな」


 ヴァンはロイドの答えに納得がいったようだった。


「あ、でも血は繋がってないから偶々だと思う」


 その言葉に教室がまたざわめきだす。


「義姉!?」

「俺……キレちまいそうだよ……」

「ウィッカ君……君は僕が護ってみせる……」


 血が繋がってないというロイドの言葉に、ヴァンはバツの悪そうな表情を浮かべる。


「悪いな、なんか微妙なこと聞いちまった」


「ううん、気にしないで。何か悲しい思い出があるわけじゃないから」


 ロイドには産みの母親の記憶は無かった。父親と、父方の祖父母が育ての親だ。


「わかった。んじゃそろそろ帰るか。ロイドはどうする?」


 新入生は全員新入生寮に入寮することになっている。帰る先は同じだった。


「そうだね。ボクも行こ――」


「ロイドー? いるかしら?」


 可憐な声が教室に響いた。皆が一斉に入り口を振り向く。


 そこに立っていたのは学園に名を轟かすアンダルシア五姉妹の次女ローレンハイト・アンダルシア。そして末女のウィッカ・アンダルシア。

 先ほどまでやいのやいのと騒いでいた新入生達はいざ実物を目の前にするとロクに言葉を発することも出来ず、教室は奇妙な静寂に包まれていた。


 ヴァンはロイドと目を合わせると行けよ、と顎で示した。


「ありがとう。じゃあまた明日教室で」


 ロイドはそういうと姉達の待つ入り口に向かった。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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