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第3話 【爆炎帝】VS【雷霆王子】

 ベルセリア王立魔法学院が誇るステラマーレ大闘技場には特殊な魔法障壁が施されていて、闘技者がどれだけ暴れようと観客に危険が及ぶことはない。

 アンダルシア姉妹の事をよく知らなかった新入生達は今、そのことを神に感謝していた。


 爆炎が大気を焦がし、雷霆が空間を切り裂いていく。

 ステラマーレ大闘技場は今この世で最も過酷なグラウンドゼロと化していた。


 ローレンハイトは自分の背丈ほどもある大剣を巧みに操ってチトセへ肉薄する。

 業炎を刃に押し留めたその大剣は、赤組代表のみが持つことを許されるS級装備レーヴァテイン。

 装備者の魔力を炎の刃に変える、世にも珍しい実体を持たない魔法剣である。


 一振りで大気を焼却し触れたもの全てを灰に変えるその切っ先を、チトセは紙一重で躱していく。


「はっ! 当たらなきゃ意味ねーぞハイト!」


 チトセは黄組最強の魔法使いであり、同時にベルセリア王立魔法学院最速の魔法使いでもあった。

 身体の一部を雷に変え、並ぶ者なしと称されるローレンハイトの猛攻を文字通り雷の速度で避け続ける。

 【雷霆王子】の二つ名は伊達でも何でもない、この世に存在する全ての言葉で最も的確にチトセを評していた。


「くっ……! 逃げ回ってばかり!」


 ローレンハイトは焦れていた。

 雷を捕らえる網がないように、この数回の剣戟でローレンハイトはチトセを捉えることは不可能だということを悟っていた。いたずらに体力だけが消耗していく。


「どうした? もう終わりか?」


「まだまだ――――よッ!!」


 ローレンハイトはレーヴァテインを思いきり地面に突き刺す。逃げ場を失った高圧の魔力は衝撃波となり地面を割りながらチトセへと襲いかかった。


「うぉっ! ……っと」


 遠距離攻撃が来るとは思っていなかったんだろう。チトセは衝撃波を掠らせながらもギリギリで範囲外へ(はし)った。


「そういうのも出来るのかよ。今のは流石にちょっと焦ったぜ」


「……それも避けちゃうわけね」


「気を張ってんだよ。流石に正面からぶつかったらハイトに分があるかもしれないからな」


「嘘ばっかり。――――まだ攻撃してもない癖に」


 そう、チトセはまだ一度も攻撃していないのだ。ローレンハイトとの戦いを楽しむかのように逃げに徹している。


「――――インドラ、使いなさいよ。それともこのままずっと鬼ごっこを続けるつもり?」 


 インドラ。それはレーヴァテインと同じく黄組代表にのみ装着が許されているS級装備。

 チトセの両手にそれが装備されていることをローレンハイトは気付いていた。


「バレてたか……ま、ハイトの言う通りだ。観てる奴らもそろそろ派手なバトルをご所望みたいだしな」


 チトセはぐるっと観客席を見渡す。観衆は2人の鍔迫り合いをみて熱狂に包まれていた。


「これを使うとさ……観てる奴らは楽しめないんだよ。()()()()()()のさ。それでちょっと遠慮してた」


 チトセが装備している手甲が雷を纏い始める。無限に放出される稲妻は手甲の表面を奔るに飽き足らず、バチバチと音を放ちながら周囲を駆け巡る。


「まあでも……いいや。今日はお前が相手だしな――――いくぜ。妹は姉には勝てねえってことを教えてやる」


「ふっ、かかってきなさ――」


 瞬間、ローレンハイトの視界からチトセが消滅する。これまで何度もチトセはローレンハイトの攻撃を避けてきたが、それをローレンハイトはギリギリ目で追えていた。それが今度は初動すら掴むことが出来なかったのである。


(マズい!)


 ローレンハイトは天性の感覚で後ろに飛んだ。頭で考えたわけではない。天稟の戦闘センスがこの場所の危険性を察知していた。


 刹那、そこに雷霆が降ってきた。


 地面が大きく抉れ、砂埃が舞う。

 やがて砂煙が晴れたその先にいたのは、1匹の雷獣。

 雷霆そのものとなったチトセが人知を超えた神速でローレンハイトに襲い掛かる。


「くっ……!」


 最早気配すら察知不可能。人間の反応速度を超越したチトセのインドラにローレンハイトは徐々に削られていく。


 ローレンハイトは堪らずレーヴァテインを地面に突き立てた。そこから放たれるのは放射状に広がる衝撃波。

 チトセが目に見えない以上、ローレンハイトに出来るのは範囲攻撃でチトセを巻き込むことだけだった。


(とはいえ……これじゃジリ貧ね)


 範囲で攻撃を仕掛けても、チトセはそれを瞬時に察知して範囲外に迸っていく。

 チトセを捕らえるには最早避けようのない攻撃を繰り出す以外にはない。


(メリアならもっとうまくやるんでしょうけどね……)


 脳裏に浮かぶのは妹の事。【水君大公】とよばれるその妹は、学園で最も優秀な頭脳を持っていると言われていた。

 生憎ローレンハイトは頭であれこれ考えるのは得意な方ではない。考えるより行動。防御より攻撃。それがローレンハイトの信条だ。


(んじゃいっちょ……デカいのやっちゃいますか!)


 ローレンハイトは踏みしめた足から爆炎を発生させ闘技場の端まで跳んだ。それはさながらロケットエンジン。ぐるっと闘技場を囲む魔法障壁を背に、両手に握り締めたレーヴァテインに意識を集中させる。


 只ならぬ気配を感じ取ったチトセは中央に姿を現した。


「――何をする気だ?」


「チトセ姉に勝つのよ」


「ほう……やってみな」


 ローレンハイトは裂帛の気合をレーヴァテインに籠める。

 レーヴァテインはその火力を増し、刃は倍ほどにまで膨れ上がっていた。


(あれは……ヤバいな。完全にアタシを殺しに来てる)


 チトセはローレンハイトの只ならぬ気迫を受けると、インドラに魔力を集中させた。インドラはその輝きを増し、漏れ出した雷の尾は天を衝かんばかりに伸びている。


 両者ともに必殺の構え。次の一撃で勝負が決まる。


「じゃあ」


「ええ」


 それは奇しくもあの時と同じ台詞で。

 2人の心のうちにあるのは圧倒的な感謝の念だった。


「――いくぞ!」

「――いくわ!」


 爆炎と雷霆が激突する。


「――――<<爛れ堕ちるは灼焔地獄(レーヴァテイン)君に恋する爆炎星(メテオブレイザー)>>!」


 ローレンハイトが天に掲げたレーヴァテインを振り下ろす。

 臨界点を超えた魔力が爆炎となり闘技場全てを焼き尽くす。


「<<天轟雷霆(インドラ)>>!」


 チトセはその爆炎に正面から突貫した。それは観衆の目に一筋の稲妻のように映った。


 果たして衝突する2つの極星。耐えられぬのは一体そのどちらか。


 ――答えは……そのどちらでもない。


 ピシピシッと音を立てて魔法障壁が罅割れていく。

 学院が誇る防衛機構は、2つの極大魔力に耐えられずあっけなくその役目を放棄した。





「――いけない! ……<<曖昧模糊(フェノメノン)な絵空事(・ヴェール)>>!」


 オルトリンデが観客席に魔法障壁を展開する。

 それは光のカーテンとなり、爆心地から吹き荒ぶ魔力の奔流を上空へ逃がしていく。


「うわわ……びっくりした……」


 ウィッカは障壁が壊れた音に驚いて隣にいたアルメリアにへばりついていた。アルメリアはその頭を優しく撫でる。


「ウィッカさん、オルトリンデさんを少しは見習ってくださいね」


 アルメリアはウィッカにそう言いつつも、頭の中では適材適所という言葉が浮かんでいた。ウィッカに出来るのは破壊だけである。


「姉さん達はどうなったの!?」


 ロイドは不安げな眼差しで闘技場を見つめる。

 魔力の衝突により発生した煙のせいで、中の様子を知ることは出来ない。


 少しすると、煙の中から話し声が聞こえてくる。


「てめえ、少しは手加減しやがれ!」


「チトセ姉こそ、年上の余裕ってものはないわけ!?」


「あーあー、全身煤まみれだよ」


「私だって制服ちょっと焦げちゃったわよ」


「そりゃ自分の炎だろ」


「自分の魔力で焼けたりするもんですか」


 きゃいきゃいと喧しい声を上げ、チトセとローレンハイトは第2ラウンドを開始していた。


 今年のエキシビジョンは、初の引き分けで幕を閉じたのだった。

 


読んで頂きありがとうございます。


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見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しい気持ちになります。

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