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第2話 入学式、そして姉妹対決

 ロイド達新入生は入学式のため大ホールに移動していた。

 1000人以上は入れそうな大きいホールに200人ほどの新入生がまばらに整列している。その誰もが王国の厳しい審査を潜り抜けた一流の才能を持った子供たちだ。


 ロイドはそんな新入生達に紛れながら正面の檀上を見つめていた。姉達の話ではアンダルシア姉妹の三女アルメリア・アンダルシアが入学式の挨拶をする予定になっていたからだ。ロイドはその時を今か今かと待っている。


 少しすると、サファイアのような青色の髪をストレートに整えた美少女が檀上に歩いてくる。ロイドはすぐにそれがアルメリアだと気付いた。


(メリアお姉様だ……!)


 アンダルシア五姉妹は新入生の間でも既に話題のようで、そこかしこでざわめきが起こる。

 登壇した少女は堂々とした態度で一礼をすると、鈴のような綺麗な声で話しだした。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私たちベルセリア王立魔法学院は皆さんのご入学を心より歓迎致しますわ」


 アルメリアは新入生の上で視線を滑らせていく。やがてロイドを見つけると、誰にもわからないくらいわずかにほほ笑んだ。


(メリアお姉様、綺麗だな……)


 アルメリアが降壇し、学園の偉い人の話が始まる。

 ロイドは話も聞かずしばらくの間ぼーっとアルメリアのことを考えていた。





 入学式を終え、ロイドはベルセリア王立魔法学院が誇る王国内最大規模の闘技場、ステラマーレ大闘技場に移動していた。

 この闘技場は伝統として組毎に席が決まっており、新入生は新入生用の区画で観戦することになるのだが、ロイドは姉達に連れられて特別席に来ていた。本来なら各組の代表しか入れない特別な区画である。


「ロイドくん、お久しぶりですね」


 アルメリアはロイドに微笑みかける。水面を閉じ込めたような柔らかな水色の瞳がロイドを真っすぐに捉えた。


「メリアお姉様、お久しぶりです。入学挨拶とっても綺麗でした」


「ふふ、ありがとうございます。壇上からもロイドくんを見つけられましたよ」


 アルメリアはそう言うと闘技場に視線を移す。そこには2人の姉達が立っていた。


 その1人は【雷霆王子】チトセ・アンダルシア。この春から5年生、雷魔法専攻『黄組』の代表である。

 「ベルセリア王立魔法学院女子生徒が選ぶ! 今冬付き合いたいイケメンランキング」3年連続1位のディフェンディングチャンピオン。ベルセリア王立魔法学院は6年制だが、向こう2年の王座防衛も確実視されている学院きってのプリンスだ。

 誤解無きよう繰り返すがアンダルシア五姉妹の()()である。

 チトセは対面に立っている赤髪の美少女を鋭い視線で睨みつける。


 一部の女子生徒なら違う意味で即死しかねないチトセの熱視線を一身に受け、どこ吹く風と超然としているのは【爆炎帝】ローレンハイト・アンダルシア。この春から4年生、火魔法専攻『赤組』の代表である。

 「ベルセリア王立魔法学院男子生徒が選ぶ! 今夏付き合いたい美少女ランキング」直近1位。飛ぶ鳥を落とす勢いのまさに学園のマドンナ。


 そんな2人が闘技場の中心で相対している。

 入学式の恒例行事である各組代表によるエキシビジョンバトルだが、今年は群を抜いて注目のカードだと言っていい。毎年のローテーションを崩してまで赤組と黄組の対決になったのはアンダルシア姉妹の注目度が成せる業だった。


「…………」


 全生徒が固唾を飲んで2人を見守っている。一挙手一投足を見逃すまいと目を皿にして全神経を闘技場の中心に注ぐ。

 このエキシビジョンバトルは黄組と赤組の今年1年の立場を左右しかねない1大イベントであり、同時に何故か皆これは男子生徒と女子生徒の代理戦争でもあるような気がしていた。

 そのどちらも自らの『推し』を必死に応援している。赤組の女子生徒、黄組の男子生徒はそのアンビバレントな感情に頭が沸騰しそうになっていた。


 ロイドはそんな闘技場に渦巻く思春期特有のドロドロした思惑などいざ知らず、闘技場正面上部に位置する特別席から心配そうに2人の姉を見守っていた。


「2人とも、怪我しないよね……」


 ロイドは無意識に呟いていた。バトルと言われてもしっくりきておらず、ロイドは2人が怪我しないかだけが心配だった。


「ロイド君、安心してね。もし怪我をしてもお姉ちゃんがすぐに治しちゃうから」


 オルトリンデはロイドを心配させまいと努めて優しい声色で言う。オルトリンデはすっかりロイド過保護体制に入っていた。


「あの2人に限ってそんな心配は必要ありませんよ。チトセさんもお姉ちゃんも、加減を分からない人ではありませんから」


 ローレンハイトの双子の妹アルメリアは不安のない表情で2人を見守っていた。

 その隣で不満そうにじたばたするのは災厄の魔女。


「う~……ウィッカも魔法ぶっ放したい……チトセもハイトも、ずるい……」


 末女のウィッカは濁った眼差しでチトセとローレンハイトをねめつけていた。

 基本的にワガママで粗暴なウィッカは、姉達に専攻組でうまくやっていけるか心配されていたが、その子供っぽさが黒組の先輩たちの庇護欲をくすぐったのか、手のかかる妹として可愛がられている。ウィッカが寮を半壊させた時も先輩たちは笑って野宿していた。そんな不思議な魅力がウィッカにはあった。





 そんな3人の姉と1人の弟が見守る闘技場の中心でチトセはローレンハイトを挑発する。


「よォく逃げずに来たなハイト。その蛮勇だけは評価してやるよ」


「ありがとう、チトセ姉。チトセ姉は今からでも女の子らしさを勉強したほうがいんじゃないかしら?」


「女の子らしさだァ?」


「今日ここで無様に負けるんですもの。今年のイケメンランキングはきっと圏外ではなくて?」


「ふふっ……言うじゃねえか」


 チトセとローレンハイトは一歩も引かず舌戦を繰り広げる。一見仲が悪そうなこの2人だが、実は姉妹の中でも特別仲がいい組み合わせだった。2人が並んで歩いている姿は全生徒の心のオアシスとなっている。


 チトセはローレンハイトのことを姉妹の中で一番気安く接することが出来る喧嘩仲間のように思っていた。

 チトセは自分の性格が男っぽいことを割と幼いことから自覚していたし、それを直すつもりも無かったが、アルメリアには何だか上手いこといなされてしまうし、オルトリンデは性格を矯正する機会を虎視眈々と狙っているし、ウィッカはチトセより狂暴だった。

 そんなわけで男っぽく雑に対応してもいい感じにノッてきてくれるローレンハイトはチトセにとって気軽に付き合える悪友のようなもので、基本的に面倒くさがりのチトセが今回のエキシビジョンのローテーション変更を受けたのも、相手がローレンハイトだったからというのが大きな理由の1つだった。


 ローレンハイトもローレンハイトで、チトセのことは唯一の姉ということもありいい意味で素の自分を出せる相手だと感じていた。

 双子の妹のアルメリアが精神的に成熟するのがとても早く、姉のローレンハイトもそれに引っ張られる形で特に反抗期もなく成長した。しかしローレンハイトは元来子供っぽいところもある性格をしていて、それを出そうにも妙に心が大人になってしまったし【爆炎帝】などという二つ名で注目されるようにもなってしまった。

 心にあるモヤモヤを発散する場所を失ってしまったローレンハイトにとって、昔から変わらず雑に接してくれるチトセはありがたかったし、唯一甘えられる存在だった。


 そんな2人が今、初めて全力でぶつかろうとしている。

 アルメリアは2人が加減するだろうと思っていたが、チトセもローレンハイトも手加減する気は一切無かった。

 別に相手を本気で倒そうと思っているわけではない。

 『全力でやっても、チトセ姉なら、ハイトなら、大丈夫だろう』という信頼がお互いの間にはあった。


「まあ……なんだ。手加減はしねえからな。怪我したらリンデに治してもらえよ」


 チトセはバツの悪そうに、しかし歓びを隠し切れないような奇妙な笑顔を作った。


「それはこちらの台詞ね。ついでにその男らしい性格もリンデに直して貰うといいわ」


 ローレンハイトも涼し気な笑みを浮かべる。内心はウキウキだったが、それを表に出さないのがローレンハイトという少女だった。


「じゃあ」


「ええ」


「……いくぞ!」

「……いくわ!」


 王国最大の姉妹喧嘩が始まった。

読んで頂きありがとうございます。


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見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しい気持ちになります。

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