CAR LOVE LETTER 「Voiceless regret」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:LEXUS IS250(GSE20)>
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
あたしはベッドに横になったまま、天井を眺める。ダウンライトがぼんやりと、部屋の中と、あたしの横で寝息を立てる男を照らす。
あたしはするりとベッドから滑り降りる。あたしの体を包む物は、何も無い。
あたしはふらつく足取りでシャワールームにたどり着くと、洗面台に吐いてしまった。
固形物は何も出てこない。出たのは水と、胃液と、あの男の体液だけだった。
鏡に映るあたしの顔は、くまが深く、肌も荒れて、酷くやつれて見えた。
体も、以前よりも痩せて貧相に見える。
あたしはタレントを目指して、一生懸命肌の手入れをしたり、ボディラインを整えるのに必死で運動したりダイエットをしたり、自分で言うのも何だけど、涙ぐましい努力をしてきたの。
あの男に触れさせる為に、そんな努力をしてきたんじゃない。
あたしは嗚咽をもらし、シャワールームにへたりこんだ。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。こんなのもう嫌。全てを、終らせたい。
あたしは、バッグの底に潜ませていた小さなナイフを引きずり出し、虚ろな表情でベッドルームに戻った。
あたしは大学で文学部に在席していた。
文学に興味なんて無い。都会の学校に行けるなら、別に学部なんてどこでもよかった。
あたしの地元はすごい田舎で、家の周りは畑と田んぼしか無くて、人口よりも牛の頭数の方が多い位。そんなだから、子供の数も少なくて、小中高とクラスメイトはみんな同じ。
高校を卒業した後は、みんなは地元に残って、農家継いだり牛の世話をしたりするって言っていたけど、あたしはそんなのは嫌だった。
あたしは小さい頃から、周囲から可愛い可愛いと言われてきて、その頃から芸能界に強い憧れを持っていた。芸能人になって、もっと脚光を浴びたかったの。
だからあたしは、親と彼の反対を押し切って、都会の大学に行く事にした。
彼とは、幼馴染みの仲。家が隣で、学校にはいつも彼と一緒に行っていた。
歳は彼の方が二つ上だったから、友達って言うよりお兄ちゃんって感じだった。
実際、彼はあたしにはすごく優しくて、あたしがワガママな事を言っても怒らずに、「しょうがないなぁ」なんて言って、いつもあたしのワガママを聞いてくれた。
あたしを女にしたのも、彼だった。
別に付き合っていたわけじゃなかったけど、きっとそうなるだろうなと思っていた。そしたら、彼の二十歳の誕生日の日に、やっぱりそうなった。
でも、彼を男にしたのもあたし。
二人ともすっごい緊張してね、彼は震える手で、あたしに触れてきたんだ。
そんな彼からは、本物の優しさを感じた。だからあたしは、彼に全てを許したのかな。
でも、関係を持ってしまってからは、お互い変に意識して、なんとなく疎遠になって行った。
彼はもう実家の農園で働いていたし、あたしは学校があったから、以前の様に一緒の時間は少なくなっていた。
そんな状況だったから、あたしが田舎を発つ時も、彼には会わず仕舞いだった。
大学に通う様になってからは、彼から電話やメールが来たり、彼の農園で採れた果物が送られて来る事もあった。
でも、都会に友達ができて、あたしに迫って来る男も何人も居て、そんなあたしには、田舎の地元と、田舎の彼の存在は、少し迷惑に感じ始めていた。
あたしの周りの友達は、男も女も都会育ちの子が多かった。
あたしはみんなに田舎者と思われたくなかったから、メイクにしてもファッションにしても、今の流行りを誰よりも先取りしようとした。
派手な子、とか陰で言われた事もあったけど、それは田舎者の素性を隠すのに必要だったし、もちろんタレントオーディションを受ける為にも必要な事だった。
だからあたしの毎月は親からの仕送りで足りるはずもなく、あたしはアルバイトをしなければならなかった。
最初は普通にファミレスなんかでバイトをしていたけれど、もっと多くの稼ぎを求めて、あたしは次第に夜のバイトをする様になった。そう、キャバクラね。
キャバクラでの仕事は時間のわりに給料も良くて、他の女の子からメイクやファッションの情報ももらえる。さらにあたしの働いていた店には芸能関係の人もよく出入りしていたから、そこはまさに一石二鳥の場所だった。
バイトを始めてしばらくしてから、テレビ局の番組プロデューサーさんに指名をもらう事が出来た。あたしはそれを千載一遇のチャンスと見て、プロデューサーさんに目一杯のアピールをしたの。
プロデューサーさんはあたしがタレント志望と知り、またゆっくり話がしたいと言ってくれて、あたしはプロデューサーさんから名刺をもらった。
後日あたしは高鳴る胸を抑えて、プロデューサーさんに電話をかけた。
早速その晩に食事をしながらお話出来る事になったんだ。
駅前で待っていると、真っ白のレクサスがあたしの前で停まったの。
「お待たせ。さ、乗って。」とプロデューサーさんはあたしを乗せてホテルのレストランに連れて行ってくれた。
そこで食事をしながら、業界の話や、今企画している番組の事、ちょうど元気な女の子を探していたと言う様な話をいろいろとしてくれた。
あたしは本当にこれはチャンスだと思った。
都会の大学に出て、しばらくはお金に困ったりもしたけど、最近は少し余裕も出来て来たし、仲のいいグループも出来たし、そしてこの話。自分に運が向いて来たと感じた。
それから何度かプロデューサーさんとは食事をした。
レクサスなんて高級セダンで迎えに来てくれて、ホテルのレストランで食事して、時には料亭なんかに連れて行ってくれたり、大人のデートってこんな感じかなと想像してたのが、まさに現実のものとなっていた。
プロデューサーさんにはそんなデートでも無理が無かった。大人の余裕って言うのかな。
あたしを誘ってくれる男の子は変に背伸びして、自分の身の丈に合わないデートプランを立てて来るの。始めの何回かはいいんだけど、すぐにボロが出るのよね。別にそんな無理しなくてもいいのに。
特にあたしはプロデューサーさんとの大人のデートを知ってるから、彼らが安いメッキでごまかしているのがすぐ分かる。
結局最後まで続かなくて、あの女は金がかかるなんていい始める。あたしはそんなの望んでないじゃない。
だから、工学部の彼みたいに、日帰りで温泉行こうよって素朴に誘ってくれる方が、よっぽどいいじゃないと思うのよね。
今日もプロデューサーさんとデートの約束。
いつもの駅前で待っていると、電話がかかってきた。
田舎の彼からだった。
「久しぶりだな。元気にしてるか?」地元の訛りで彼は言う。
「うん、元気よ。そっちは?」都会の言葉で、あたしは答える。
「今年も豊作だったんだ。お前あれ好きだろ?また送るからな。」彼は嬉しそうにあたしにそう言ってくる。でもあたしは訛りがまた出てしまいそうで、彼との電話がホントに嫌だった。
「ゴメン、用事あるから、またかけるね。」あたしは一方的に電話を切った。
少しして、プロデューサーさんのレクサスが現れる。あたしは訛りが出てしまうのではないか心配で、あまり喋る事ができなかった。
「どうした?つまんないかな?」
「いえ、そんなこと無いです!」と言うあたしのイントネーションは大丈夫かどうか、少し不安だった。
食事の後、ホテルのバーでプロデューサーさんとあたしは夜景を眺めながらお酒を飲んだ。
「今日はね、君にいい話を持って来たんだ。」とプロデューサーさんはニヤリと笑う。
何とあたしに、ドラマの役をやらせてくれると言うのだ。
深夜枠のドラマの、ほんのちょい役だったけど、あたしにとっては喉から手が出そうな話だった。
「ホントですか?!ありがとうございます!あたし、やらせて欲しいです!」
静かなカウンターで、あたしは思わず大きな声を出して喜んだ。
それを見て、プロデューサーさんは、ふっと笑う。
「代わりと言っては何だが、これ、分かるよな。」そう言うながらプロデューサーさんは、内ポケットから鍵を取り出した。それは、ホテルの部屋の鍵。
「君も子供じゃないんだ。大人の付き合い方、分かってるだろ?」
そう言ってプロデューサーさんは、飲みかけのグラスを置いて、あたしをバーから連れだした・・・。
ドラマの仕事は本当にやらせてもらえた。
ショップ店員の役で、セリフは「ありがとうございましたぁ。」だけ。
それでもあたしは大きなチャンスを得られた様な気がしていた。
友達からもテレビを観たとチヤホヤされ、あたしはスターの仲間入りが出来ると、期待に心を震わせた。
その時はあたし、有頂天になって本当にお高く止まっていたと思う。
学部の女の子なんて、みんなイモっぽく思えたし、男の子達の視線を独り占めしていた様に感じていた。
だから工学部の彼が、仲間の女の子の調子が悪そうだから、温泉はまたにしよう、なんて言って来たのには、正直頭にきた。
あたしが一緒に温泉に行ってあげるのよ?それを断るなんて。
埋め合わせするとかって、次が有るとは思わないでよね!
「あたし、君とはそういう関係じゃないけど。」と言って、こっちから電話を切った。
でも言ってから、言うんじゃなかったかなと、少しだけ後悔した。
プロデューサーさんとのデートは、その後も続いた。
プロデューサーさんは、またあたしを求めてきたんだ。
あの時は、ドラマの話ももらえたし、急な展開で、さらにお酒も入っていたから訳が分からずで流されてしまったけど、やっぱり好きでもない人に触れられるのは、身の毛もよだつ気分だった。
あたしは、何とか丁重にお断りしようとした。
「君は、分かってないな、自分の立場が。これが何だか、分かるよな?」
プロデューサーさんが出したのは一枚の写真。それは、あたしの悶える写真だった。
何で?!何でこんなものが?!あたしは動揺して、手が震え、顔が熱くなった。
「写真だけだと思わない方がいい。そんなものがインターネットに出回ったり、アダルトビデオになったりしたら、君の人生は、一体どうなってしまうかな?」
はめられた。あたしはとんでもない人に関わってしまった。
愕然とするあたしにあの男は、顎で店を出る様促してきた。
あたしは、それに従わざるを得なかった。
それからはあの男に呼び出されても、食事やバーなんて一切無し。いつもホテルに直行だった。
体の芯まで汚される気分。あたしは食事も喉を通らなくなり、街であの男と同じ色のレクサスを見掛けると、足がすくみ、その場から動けなくなった。
時には、あの男はあたしにピンク色の錠剤を、飲めと渡してきた。
「最高の気分になれるぞ。早く飲め。」それがドラッグだとすぐに分かった。
あたしは、このままでは本当に殺されると恐怖を感じた。ドラッグは飲んだふりして、枕の下に隠した。
クスリが効いておかしな表情になっているあの男は、この世のものとは思えないほど最悪で、本当に醜く見えた。
あたしは本当に苦しくて、誰かに助けてもらいたくて、でも誰にも助けを求められなくて、気が狂いそうだった。
人との接し方もおかしくなってしまい、学校の友達もあたしの傍から離れて行った。
誰か、誰かあたしを助けて。
学食に、あたしを温泉に誘ってくれた工学部の彼が居る。彼の隣には、同じ学部のあの子。
助けて。あたしに気付いて。
「そう言えばさ、あの時の埋め合わせ、してもらってないよね。」
あたしは彼に歩み寄り、そう言った。ほんの少しだけでいい。あたしの電波を、感じとって。
でも彼は、「俺、君とはそう言う関係じゃないけど?」と、彼女の手を握り、あたしに冷たい視線を投げかけてきた。
あたしは自分の行いを心底悔やんだ。有頂天になっていた自分を呪った。
あたしは今にも泣き崩れてしまいそうな気持ちを隠そうと、彼らのテーブルを蹴飛ばして、学食から足早に立ち去った。
あたしは部屋で毛布を被って泣きわめいた。誰か助けて。こんな事になるなら、田舎で暮らして居ればよかった。田舎で、田舎で。
田舎・・・。
田舎の彼の顔が浮かんだ。あたしは彼に電話する。
「留守番電話サービスセンターに、接続します。」
駄目だ。あたしは、・・・孤独だ。
あたしはメッセージを残さず、電話を切る。
程なくして、あたしの電話にメールが来る。彼?!
「21時、駅前」
あの男からの呼び出しだった。
助けて。誰か助けて!
あたしは携帯を投げ、毛布にくるまり大声で叫んだ。
そうだ。もう、終わりにすればいいんだ。
あたしは震える手で、キッチンの小さなナイフをハンカチに包んで、バッグの底にそっと忍ばせた。
あたしがベッドルームに戻ると、あの男は目を覚ましてタバコに火を点けていた。
「どうした。便所か?」そう言うあの男に、あたしはナイフを向けた。
「おい!何を考えてる。冷静になれ。それを置くんだ!」
突然の事に、あの男は慌てふためく。
情けない。さっきまであんなに偉そうに図々しくあたしを責め立ててたくせに。アソコと同じ。小さい男。
でもそんなことはもういいの。もう、全ては終わるんだから。
あたしはナイフを振りかざし、刃を滑らせた。
指にざっくりと肉の切れる感触が伝わり、ホテルのカーペットに血が激しく滴り落ちる。
「ひゃあぁ、やめろぉ!」あの男の情けない声が部屋に響く。
これで、これで全てが終わる。あたしは解放されるんだ。
あたしはナイフを持つ力を緩めた。
すると、あたしの手首に食い込んだナイフは、大量の血に滑って床に転げ落ちた。
「うわ!うわぁあ!」男は裸のまま服を抱えて部屋を飛び出して行った。
サヨナラ、プロデューサーさん。
サヨナラ、みんな。
サヨナラ、あたし。
サヨナラ・・・・・・。
遠くに、田舎の彼の声が聞こえる。これは夢?ここはどこ?あたしは、どうしたんだっけ。
目を開けると、そこには田舎の彼と、お父さんとお母さんと、知らないオジサンがあたしの顔を覗いていた。
「よかった!この馬鹿たれが〜!!」
彼がボロボロと涙を流してあたしの手を握る。そのすぐ後ろで、お父さんとお母さんもボロボロと涙を流して、よかった!よかったって、叫んでいた。
訳分かんない。どうしたんだっけ?
「あなたがね、血まみれになって倒れて居るところを、ホテルの従業員の方が見付けてくれたんですよ。」
知らないオジサンがあたしに話しかけてくる。
そうか。あの男とホテルに行って、あたしはナイフで・・・。あたし、助かったんだ。
オジサンは、刑事さんだった。
刑事さんは事の顛末を頭の冴えないあたしにゆっくりと説明してくれた。
あの男が、半分裸で部屋を飛び出して行ってしまった後、ホテルの従業員が不審に思って部屋を確認したら、あたしが倒れていて警察に通報したらしい。
あの男は重要参考人として任意同行を受け、今は取り調べを受けているそうだ。
「辛いだろうけど、私に話してくれないかね。」刑事さんの優しい表情と、あたしの手を握る彼の温もりに、あたしは大きな声を上げて泣いた。
刑事さんはあたしの話をじっくりと聞き、メモをとり、鋭い眼光でこう言ってきた。
「これだけ情報があれば、あの男を立件できるよ。あと、申し訳ないが、君の髪の毛を少々いただけないか?」
あたしの居た部屋の枕の下から、合成麻薬が見付かったからだと言う。
あれ、やっぱり麻薬だったんだ。
あたしは刑事さんに応じる。「あたし、飲んでません。」と告げると刑事さんは「分かっとるさ。」と微笑み、髪の毛を少し切った。
その後あたしは順調に回復していった。お父さんとお母さんが地元に戻った後も、彼は何度も見舞いに来てくれた。
そして彼は、あたしの手をとり、こう言ったんだ。
「田舎に帰って来い。一緒に、果物作ろう。俺と、結婚してくれ。」
そして彼は、あたしの指に指輪を着けてくれた。それは本当に幸せを感じる瞬間だった。
退院間際になって、中年の女性と中年のオジサンがあたしの見舞いにきた。
知らない顔。誰?
「ふぅん。あの男が入れ込むのも不思議じゃないわね。あ、ごめんなさい。あたしこういう者。」
ちょっと失礼なオバサンは、そう言ってあたしに名刺を差し出した。そこには、あの男が勤めていたテレビ局の社名。彼女の肩書きは、社長だった。
もうひとりのオジサンは「そうですね。もう少し太って、体と心の傷が癒えれば、申し分ないですな。」とまた失礼に言い、彼もあたしに名刺を差し出してきた。
彼は、あの有名モデルやタレントが所属する、芸能プロダクションの社長だった。
何が何だか分からず呆けているあたしに、女社長が口を開く。
「あなたに大変な迷惑をかけたあの男、送検されたわ。麻薬に恐喝に暴行。勿論会社は懲戒解雇。あたしも三行半を突きつけてやったわ。そう、あれはね、あたしの夫だったのよ。」
あたしのベッドの横の丸椅子に腰掛けて、女社長は更に続ける。
「あの男、人間としては最低だったけれども、人を見る目は一流だった。だからあなたを見つけ出したんだろうと思うわ。でも結果は、こんな事になってしまったけれどもね。」
彼女は寂しそうに、足元に視線を落とした。
「こんな事があって何だがね、君にその気があれば、うちで面倒を見させてもらいたいと思ってね。不躾だとは思ったけれど、挨拶に伺ったと言う次第なんだ。」オジサンは静かな病室にそぐわない声で、女社長の後ろからあたしにそう言った。
それって・・・。あたしは少しずつ理解する。
それを感じ取ったのか、女社長は「罪滅ぼしって訳じゃないけどね。結論は急がないわ。じっくり、考えて。」と言い、病室を後にした。
オジサン社長も「期待してるよ。」と言い、その社長さんところのモデルが出ているファッション雑誌の最新号を置いて、女社長の後に付いて行った。
それは、少しだけ過去の話。
街で、あの男が乗っていたのと同じ白いレクサスを見かけると、手首の傷がうずいて思い出す、本当に忌まわしい記憶。
でもあの時以来、あたしは後悔しないように生きていく事を心に誓った。
あんな事があったからこそ、そう心に刻む事が出来たのだと思う。
今のあたし?それはね・・・。
バシャ!という音と共に、目の眩む閃光があたしを包む。「あと二枚ね!」と向こう側の男が叫ぶ。あたしはその声に、また笑顔を作る。流行のメイクとファッションを着こなして。
「お疲れ様でしたぁ。」マネージャーの子がジャケットを持って駆け寄ってきた。
あたしは彼女から受け取ったジャケットを羽織りながら、指輪をはめた。左の薬指に。
「旦那さんから伝言ありましたよ。収穫が間に合わないから、早く帰ってきてくれ!って。」
「この時期、ホント暑っついから大変なのよ。ねぇ、手伝いに来ない?」
「えー。お給料でますぅ?」
あたしは、もう後悔しないから。これが、あたしの生き方。
マネージャーの子と笑って話しながらも、消えそうにうっすらと残る手首の傷をさすって、あたしは旦那が待つ田舎に向かった。
本作はCAR LOVE LETTER「Forgotten word」、「Necessary」の姉妹作品です。そちらもご覧いただければ、よりいっそうお楽しみいただけると存じます。




