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 百合姫の一行は問題なく予定通り出発した。今回の主な公務は三つで、1つ目は養護施設の慰問、2つ目は新しく開港した港での記念碑の除幕式、3つ目は辺境伯領を訪問して夜会に出席する予定だ。

 百合姫の馬車には百合姫、女官二名、オリヴィアが乗っており、その後ろにはアレン含めた文官三名の乗った馬車が続いている。馬車の前後を騎士が馬で護衛しながら一行は進んでいた。

 前の馬車からは楽しそうな声が漏れており、なんだか大いに盛り上がっているようだった。途中、川のそばで休憩のため一行は止まった。アレンたちが馬車から降りると、オリヴィアが菓子を差し出してきた。


「…ありがとう、頂くが…、遠足ではないんだ。殿下への防御魔法は抜かりなく頼むぞ」

「大丈夫ですよ。しかし確かに遠足みたいですね!」


 遠足、遠足と歌うように言いながらオリヴィアは馬車に戻って行った。



 1つ目の公務である養護施設へは時間通り到着した。施設の周りには百合姫を一目見ようと多くの人が集まっており、百合姫は彼らににこやかに手を振りながら施設へ入った。

 百合姫は施設長と面談し、施設の運営状況や入所している子どもたちの生活について話を聞いた。その後、施設内を見学し、子どもたちと交流を持った。百合姫は王都近郊の養護施設の慰問をこれまでもよく行ってきているため、スムーズに進んだ。

 王族が慰問したという事実は養護施設側からは非常に重要である。今後、領地から分配される予算に影響するからだ。


 一通り施設見学が終了し、子どもたちに別れを告げて馬車に向かおうと施設を出た時のことだ。見物人の中から少年が飛び出してきて何かを投げた。それは百合姫の背中に当たり、ドレスを汚した。生卵だ。

 その場にいた全員に緊張が走った。

 少年は何か大きな声を上げていたが、すぐに騎士たちに取り押さえられた。きつく腕を抑えられ、少年の顔が歪む。


「待ちなさい、乱暴しないで」


 百合姫は少年をまっすぐ見つめると、ゆっくりと近寄った。


「言いたいことがあるなら王都に直接言いに来なさい。一方的に物を投げつけるのではなくね」


 百合姫は騎士たちに少年を離すよう指示すると、少年は人混みをすり抜けて走り去った。人々はざわざわと心配そうに百合姫を見つめている。騎士の一人が百合姫のドレスの肩に上着をかけ、馬車へと向かった。


 アレンは百合姫の隣で立っているオリヴィアを見つめた。終始、百合姫の隣に立っていたというのに全く動揺が見られない。

 防御魔法がかかっていれば生卵は弾かれたはずだ。しかし当たった。防御魔法は大丈夫と言っていたが、かけていなかったのだろうか?


 あんなに平然としていられるのはなぜだ?



 その夜、宿泊した宿でアレンは騎士数名がオリヴィアを問い詰めているところに遭遇した。どうやら、オリヴィアの防御魔法がまともじゃなかったから生卵が当たった、いまからでも魔術師を交代すべきだと詰め寄り、彼女に罵声を浴びせているようだ。

 アレンは両者の間に入り、声をかけた。


「なにをもめている、殿下が事を収めてくださったのだからもうよせ」


 騎士の1人が顔を赤くしてまくしたてる。


「しかし、この女のせいで殿下の命の危機でした。もしあの子供が投げたのがナイフだったら…。この変人女、まともに仕事もできやしない」

「殿下に危害が加えられて責任を問われるのはまずは君たちだぞ。少年一人止められなかったことは恥ずかしくないのか?」


 騎士たちはハッとしてお互いを見合わせた。

 アレンは声を落として続けた。


「それによく考えろ。もしあの卵を防御魔法で弾いて少年を無視して通り過ぎていたら、周りの市民からどう見られたと思う?高飛車な姫という印象にならないか?殿下はこれが初めての地方公務だ。なにか意図して卵を弾かなかったかもしれない」


 騎士たちはアレンの言葉に少し考え込み、オリヴィアに謝罪して立ち去った。


「庇ってくださってありがとうございます」

「客観的事実を述べただけだ」

「いえ、アレン様のご想像の通りです。殿下からは怪我をするようなものが来たら弾き、それ以外は防御しないような魔法の指示を受けていました」

「そうか…しっかり役目を果たしてくれて感謝する」



 次の日の朝、アレンは一日の予定を伝えるため百合姫の宿泊している部屋を訪れた。


「昨日の件、オリヴィアから聞いたそうね。彼女を責めないでね。私の指示だったのよ」

「オリヴィア殿から聞きました。…それにしても、飛んでくる危害に対して防御するかどうか魔法で選別ができるものなのですね」


「私はできないわ」


 百合姫はにっこりと笑った。


「オリヴィアだから出来るのよ」

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