それぞれの進路
そう思うと、早く任地に向かいたくて、着替えをさっさと済ませてファーレン宇宙港に急いだ。
あの時点で2時間後と言われたが、本来ならあまり時間が無かった筈なのだが、楽しみが先に立ち急ぎ足でここまで来たので、出発まで1時間半もある。
ファーレン宇宙港に着いたが、ここではやる事が無い。
時間も1時間以上あるし、どうしようかと周りを見渡した。
軍専用の宇宙港とは聞いていたが、流石に首都にある宇宙港だ。
民間利用の港と見紛うばかりの設備が充実している。
食事を取るにしても、ジャンルの違う食堂だけでもいくつあるのか分からない。
まあ、首都宙域にある他の二つの星系だけでなく、他の星系に行く定期便の数も相当数ここから出ている。
また、軍使用とはいえ、民間人も軍からの仕事を受けての利用も多く、宇宙港のロビーには軍人だけでなく、民間人も多数いた。
中には軍人の恋人を送り出すために来たのか民間人のかわいらしい女性もゲート前に多数佇んでいたのが印象的だった。
くそ~~、リア充は爆ぜろ!
俺は心の中で叫んでいた。
そんな俺を後ろから声を掛けて来た者がいた。
「あれ、ナオか」
「え?」
俺は驚いて振り返るとそこには宇宙軍の准尉の制服を着たマークが、大きなカバンをもって俺に近づいてきた。
「あれ、マークか。
もう、出撃なのか」
「出撃か……
ただの訓練航海だよ。
昨日辞令を貰って、あ、俺な第一艦隊司令部付きの所属になった」
「それは凄いな」
「凄いものか。
だいたい、エリート士官養成校を卒業すれば、ほとんどが第一艦隊もしくは第二艦隊の司令部付きになると聞いたぞ。
ナオだけが異常なんだよ。
お前の成績がぶっ飛んでいたのが原因だろうがな」
「成績がぶっ飛ぶなんてひどいな。
まあ、俺はさっき辞令を貰ったばかりだ」
「ナオの制服からは、コーストガードか。
あそこにはあまり良いうわさは聞かないが……」
「ああ、でも、俺にとってはどこも同じだ。
そもそも士官と云うだけで贅沢だと思うよ」
「それにしてもいきなり少尉か。
どこに行くんだ?」
「これからルチラリアにある第三巡回戦隊の事務所だ。
俺は、第三巡回戦隊所属、航宙フリゲート艦『アッケシ』の第2臨検小隊の隊長を命じられたよ」
「いきなり小隊長か。
あ、それよりナオには時間はあるのか」
「ああ、出発まで1時間以上はあるので、どうしようかと困っていたんだ」
「それは良かった、俺も集合まで2時間あるんだ。
どこかでお茶でもしようか」
俺はマークについて一番近い喫茶室に入った。
ここも割と混んではいたが、士官二人づれなので、直ぐに席に案内された。
色々な場面で上下の差をつけられる社会だが、より厳しい上下社会の軍隊内の社会において、士官は何かにつけ優遇される。
学校出たての俺らに対しても、それは同じで、ここではほとんど待たされることなく席に着けお茶できた。
マークとは昨日もあっているのだが、こんなにゆっくりと話すのは久しぶりだ。
そのマークだが、彼の話によると、エリート士官養成校を卒業した者の初年度なんかほとんど決まったようなコースをたどるらしい。
マークも第一艦隊司令部付きとなっているが、これは、艦隊内の余裕のある船に乗せ訓練をさせるための方便だとか。
その証拠に、この後2時間後にここに集合した准尉たちは第一艦隊内の補給艦護衛戦隊のフリゲート艦に乗って訓練航行だそうだ。
なぜ補給艦護衛戦隊かと云うと、当分の間補給護衛艦を動かす予定が無いとかで、護衛艦のスケジュールに空きがある。
だいたい毎年、約半年は、この補給艦護衛戦隊内のフリゲート艦に分かれて乗艦して、航行から機関、通信、武器管制などの各部署について実際に先輩たちから業務を学ぶそうだ。
その後、戦艦などに移動して、一人一人に先輩士官が付いて実際の士官業務をこなして適性を見て、少尉に昇進後にそれぞれのコースに分かれるというのがお決まりらしい。
ナオの場合にはその極端な成績のためにこのコースに乗せられることなくコーストガードに出向になったわけだ。
「俺は、まだまだ勉強なんだな。
ほとんど養成校時代の訓練と変わらないらしい。
その点ナオは凄いな。
いきなり小隊長か。
でも務まるのか」
「分からない。
俺もびっくりしているが、嫌とも言えないしな。
成るように成れだ」
「なんだい何だい。
ナオはそればかりだな。
だいたい養成校にだって希望じゃなかったんだろう。
本当にすごいと思うよ。
でもそれって運が良いのかな」
「また運の話か。
確かにそうだな。
今は運が良かったと思うことにするよ。
あ、そろそろ時間だ。
悪いが、俺は行くよ。
元気でな」
「ナオこそ。
がんばれ」
「ああ、ありがとう」
俺はマークと別れ、定期便に乗って、ルチラリアに向かった。
惑星ルチラリアは首都宙域にある恒星系ルチアを回る主惑星で、主に首都宙域にある星々に鉱物資源を供給する資源惑星として有名である。
そのために早くから産出する資源の精製や加工などの重化学分野での発達も目覚ましく、首都宙域の工場とも呼ばれる惑星である。
実際工場も多く、実用本位での開発がされているために、風光明媚とは言えないどころか人々の心を癒す木々などの緑も無い星でもある。
それでも、多くの人間が暮らすために、都市部はかなり発展しており、この星一番の宇宙港はかなりの規模を誇る。
流石に首都星ダイヤモンドとは違い、官民共同で利用される宇宙港でもあり、第三巡回戦隊の事務所もここに構えている。
ナオは定期便の連絡船から降りるとその足で直接第三巡回戦隊の事務所に向かった。
この事務所は宇宙港管理棟内にある。
航宙フリゲート艦2隻の運航管理をするだけのもので、コーストガード本部のようには大きくも立派でもない。
それでも2隻の運航管理を行う部署とそれぞれの艦長たちの地上執務室もある。
事務所に入ると、事務所内はかなり忙しそうにしていた。
本部とはまた違った雰囲気だ。
俺は受付を訪ね、訪問の趣旨を伝えた。
受付で対応してくれた人から俺は戦隊長室に連れて行かれた。
「戦隊長殿、新任のブルース少尉をお連れしました」
「構わない、入れ」
「本日付けを持ちましてこちらに配属されました、ナオ・ブルースです」
俺は敬礼の後、辞令を戦隊長に手渡した。
「君があの噂の少尉か。
まあ、こっちに座って待っていてくれないか」
そう司令から言われ、指示に従い指令室にあるソファーに座って待った。
今事務所内が少々慌ただしい。
司令も電話をかけ忙しくしている。
暫く待つと、一人の少佐が司令室に入ってきた。
「ポットー司令、お呼びですか」
「ああ、待っていたぞ、ダスティー少佐」
「彼が例の少尉だ。
第2臨検小隊の隊長だそうだ。
あとは任せていいかな」
「は、分かりました。
すぐにでも仕事につけます。
まあ、今回の出撃には使わないでしょうし、問題は有りません」
「ああ、そうだな。
今回は久しぶりに大捕り物だしな。
ちまちま臨検なんかしないだろうしな。
第三機動艦隊や第二巡回戦隊も加わると聞いている。
俺たちには仕事らしい仕事はないかもしれないが一応準備だけはしておかないとな。
悪いが俺は手が離せないので、後を頼む」
「は、分かりました。
では、少尉。
私は航宙フリゲート艦『アッケシ』の艦長ダスティー少佐だ。
よろしく。
あまり時間が無いので、早速で悪いが俺に付いて来てくれ。
すぐに君の部下を紹介する」
ナオは慌ただしく上司となる艦長のダスティー少佐の紹介を受け、これまた慌ただしく新たな俺の職場に連れて行かれた。