入試失敗の原因
「マーク、何も知らない俺に教えてほしい。
この船に乗る者たちは全員……」
「ああ、あの難しい選抜に受かって晴れて首都星ダイヤモンドにあるエリート士官養成校に入学が許された者達だ。
養成校に通う候補生は下士官待遇だとは聞いていたが、まさかこんな豪華な船で首都に連れて行ってもらえるとは思ってもみなかったので驚いたよ。
ナオもだろう」
全員が…俺を含む10名全員が士官候補生だと。
俺は手にしている書類を初めて良く見直した。
そこには明日宇宙港から候補生になる者たちを専用機で運ぶので、時間に遅れないようにとある。
『候補生たちを』とあるのだ。
その時に違和感の有ったことに気が付いた。
俺は何故だか知らないが士官候補生として首都星ダイヤモンドに送られるらしい。
運が良かったのか……いや、運の問題か?
それよりもマークも運の話をしていたけどどういうことだ。
俺はこの時マークに正直に話して、数々の疑問に答えてもらった。
まあ、俺が彼女に振られたことで自殺を考えたことなどは適当にごまかして説明しておいた。
ケイリン大学に落ちたけど孤児の俺には浪人が許されないので、大学に通う費用を稼ごうとして軍志願したとだけ説明したのだ。
その時に王立第一大学のキャリア官僚養成コースに特待生として推薦されたことだけは話した。
「ほ~~、ナオは凄いんだね。
俺には考えられないよ。
でもそれも正解かもしれないね」
「それでケイリンを落ちれば世話無いよ」
「ああ、それは運が無かったんだよ」
「また運の話か……」
「運の話???
まあ聞けよ。
多分、君のような環境にいると伝わってこない話だからさ。
先の運の話になるけど、今年はあのケイリン大学には異常に財閥関係の子弟の受験が多かったようだよ。
なので、君のような一般での特待生の合格は0だと聞いた」
「俺のような一般って???
それじゃあ一般でない人の受験ってなんだ」
そこからマークはきちんと説明してくれた。
そもそも普通の私学が授業料免除だけでも経営的にかなりに負担になるがなぜ特待生を受け入れうるかと云うと、優秀な学生を一人でも確保したい思惑がある。
しかしこれだけでは経営が成り立たない。
そこでいわゆる金持ちと言われる階級の子弟からは寄付を受け付ける。
受け付けると言えば聞こえが良いが、いわば競りのようなことをするようだ。
当然ある程度のレベルは要求するが、それでも一般受験の人よりかは2ランクくらいは下がると聞かされた。
その代わり特待生として受ける恩恵、授業料免除と寮費の負担、まあ4年間の総額で大体2000万Gくらいかかる筈なのだが、その金額の50倍から100倍程度の寄付金を払わされるようだ。
しかし、今年ばかりはこの金額の寄付では足りないそうだ。
なにせ財閥系に属する子弟の数が多かったので、更にその倍はかかると聞いた。
マークの家もかなり裕福なのだが、この金額は無理だったそうだ。
まあ、そんな話が彼の家にはそれとは無く漏れ聞こえてきたようで、マークは事前にあちこちとかなりの数の大学を受けていた。
「うちの商売上、かなりの数の軍人さんとはお付き合いがあるのだけれど、今年のようなときには軍人の子弟の数は少ないことが多いとも聞いたので、父からダメもとでエリート士官養成校も受けておけと言われた。
ステータス的には断然こっちの方が高いし、何より将来俺のいとこにこき使われるよりは断然いいからね。
受かった時には本当にうれしかったよ」
「そ、そうなんだ。
でも俺は受験すらしていないぞ。」
「え~、そうなのか。
あ、多分、多分なんだけど、国の管理システムが優れていたからじゃないかな」
「管理システム。」
「ああ、ナオはあの王立第一大学に特待で推薦を貰ったんだよな。
当然優秀な成績は管理されているから、ナオが軍に志願した時にIDから出されたデータで急遽決まったんじゃないかな。
優秀な士官はそれこそ喉から手の出るほど必要だとも聞いたしな」
その説明を聞いた俺には心当たりがあった。
軍に志願した時に見せたあの受付嬢の驚いた顔。
あの時に俺のデータを見て何か指示でもされていたのだろう。
しかし、それにしても、この国のデータ管理は凄いものだ。
それと同じくらいに、出自の差による格差にも驚いた。
マークの話を聞いてやっとジャイーンの言った運の話や、俺よりも周りが大学の合否を知っていたことにも納得がいった。
上流階級には事前にきちんと情報が流れていたらしい。
でも、どうしても納得できないのは、俺の不合格が受験前に確定していたのなら、受ける前に知らせろよと言いたい。
いくら建前があるとはいえ、俺の人生がかかっているんだぞ、そう言いたいが、所詮孤児だ。
俺の扱いなんてこんなものだろう。
やはりこんな世界には長く生きていたいとは思わない。
まあ、卒業後の扱いは今とそう変わらないだろう。
俺のような人間は、早々に最前線に回されるはずだ。
学校を卒業する時間は取られるが、まあそんな長い時間でもないし、待つとしよう。
マークは本当に気持ちの良い男だ。
宇宙船での座席が隣とあって、すっかり仲良くなり色々と話し込んでいた。
どうしても俺には希望が持てないので、後ろめたさはあるのだが、それでも話を合わせて、最近にない楽しい時間を過ごすことができた。
流石に王国が誇る高速宇宙艇だ。
俺の住んでいた惑星ニホニウムは首都星域にあるとはいえ、首都星であるダイヤモンドのあるダイン星系の隣にあるイットリウム星系だ。
その隣の恒星系からの移動でも十数時間で着くことができた。
首都のある恒星ダインの2番惑星の惑星ダイヤモンドにある第一艦隊が母港を置くフラーレン宇宙港に無事に着いた。
この宇宙港は軍だけが使用する宇宙港なので、その周りは全て基地に囲まれている。
その基地の一角にこれから通うことになるエリート士官養成校がある。
軍の士官の養成はここだけで行われている訳では無い。
各軍区にある主惑星には必ずと言ってよいほどの士官学校はあるが、ここだけは特別だ。
ここは軍の士官でもいわばキャリアを養成するために作られた特別な学校であり、ここの卒業生は将来の提督候補でもある。
卒業生でその提督に上がれる年齢まで生き残る者の内約半数は提督まで上り詰めるといった軍でのエリート養成校なのである。
要は、生きて軍に残ってさえいれば確率50%で、提督に成れる者を養成する学校だ。
そのために、毎年ここに入学が許可される者の数は王国全土から厳選されたわずか100名くらいの人数だ。
全恒星系からと言っても、ここダイヤモンド王国は5つの恒星系からなり、首都星域及びボラゾン星域だけが複数の恒星からなる連星だ。
俺らは首都の連星の一つイットリウム星系の主惑星であるニホニウムから来た。
その各星系からここに高速艇が続々集まり、俺らの乗った船がどうやら最後の到着だったようだ。
到着後に養成校が使用するエリアに整列させられ、最初の集会が行われた。
一応翌日に正式な入学式があるのだが、今はこれから一緒に生活する候補生の連帯感を確認するためのもののようだ。
学生部主任と言われる大佐が壇上に上がり訓示を述べ始めた。