犯罪者の扱い
そんな事を話し合っていると、殿下の執務室の扉が開きマーガレットさんが入ってきた。
……だが、その彼女の後ろにいる人達がありえない。
そういえば前にもこんな事があったけど、今回は流石に帝国からの客がいるので少々不味くないかな。
「マリー。
緊急だ。
済まないが、少し話を聞かせてくれ」
「陛下。
すみませんが接客中ですので」
「これは、済まなかった……、で、すみませんが……」
「国王陛下。
この場での挨拶を御免ください」
「ああ、許す」
そこから自己紹介されたが、そうなると今度は陛下たちのほうが固まった。
フェノール王国の件はすでに報告済みだったが、まさかそこに帝国からの客が直接同行しているとは思わなかったのだろう。
まあ、そりゃそうだよな。
外国からの客ならば、普通は外交関係者の元に向かうはずだし、そもそも入国の時点で何らかの連絡があるはずだ。
しかし、今回は先程まで一緒になって作戦行動中だった者たちだったこともあり、外交関係者など通るはずがなかった。
本来ありえないルートで、外交交渉に持っていこうとしていたので、これから外交官たちと接触を計画する段階で、詳細を確認しに陛下がやってきたのだ。
ある意味、これはかなり交渉ごとの途中をスキップできる。
そこから、陛下に今回の計画の最終的な結果と、現在進行中の状況が説明される。
この場にいる陛下たちを除くと全員が関係者で、当事者でもあるので、帝国の官吏も一緒に説明に加わる。
「先ほどの報告にもあったが、帝国としてはフェノールの国王の扱いについて、改めて我が国に引き渡したいという意向なのか?」
「いえ、帝国の意志はわかりません。
私どもはあくまでコクーンの乗員でしかありませんので、交渉事について何ら権限を持っておりません」
「では……」
「ですが、犯罪者の身柄についての引き渡し、もしくは代理処罰についての取り決めが両国間にありません。
身柄を拘束した事実は先ほどお伝えした通りですが、この後必ず外交上の懸案事項になりますので、事前に帝国の法律についてご説明に上がりました」
すでに「フェノール国王拘束」という結論を知っている陛下だったが、コクーンからわざわざ来てもらった外交担当者の専門的な話には、流石に眉を顰める。
実務的な問題が山積みだと気づいたのだろう、隣に控えていた宰相からも、改めて殿下に質問が入る。
「第三王女殿下。
話の概要はかねてより伺っておりますが、あまりに展開が速すぎて詳細な詰めが追いついておりません。
今一度、現状の整理をお願いできますか」
その質問に、王女殿下は先の外交担当者に一言断ってから説明していく。
俺達がフェノール王国の首都まで出向き、王宮を一旦占拠した後に、陛下より命じられた『菱山一家』に類する者たちの拘束を完了した経緯を、改めて時系列に沿って補足していく。
王女殿下の説明が進むに連れ、陛下や宰相の表情がどんどん険しくなっていく。
事実は知っていても、その生々しい「現場のスピード感」を突きつけられると、流石に圧倒されるらしい。
ここが謁見の場だったり議会だったりしたら、今頃は「手続きを無視しすぎだ」と罵詈雑言が飛び交っていただろう。
それだけこの一件は、首都星にいる人たちにとっては文字通りの青天の霹靂――いや、それを通り越した暴挙に近い快挙だったのだ。
それでも、話を進めないうちにはこのあとの処理に支障をきたす。 宰相は、とにかく自身の事務処理能力を最大限に振り絞るかのように、帝国の面々に問いかけた。
「それで、改めて確認しますが、こちらの方々は?」
「はい、私どもと一緒に王宮まで出向き、犯罪者を一緒に拘束していただきましたグラファイト帝国のコクーンの乗員の方です」
「はい、グラファイト帝国 宇宙防衛軍所属……」
自身の所属をきちんと正式に名乗り、この場に同行した理由の説明に入った。
「帝国としても、作戦開始前に取り交わしました約束により、現在拘束中の犯罪者のうちで、コクーン強奪に関与した者たちの身柄は帝国側にそのまま連行してまいります。
しかし、先ほど殿下より報告がありました通り、彼らは貴国の犯罪者でもあります。
身柄の扱いに齟齬が出る恐れがありましたので、本国の正式な外交ルートが動く前に、現場判断としての事情を説明に参りました」
「するとフェノールの国王については我々には……」
「いいえ、先に説明しました通り、あくまで私どもコクーン内に限りますが、ただの犯罪者としてしか」
そこまで説明が入ると、その続きを王女殿下が引き取った。
「事前に陛下にお伝えしていた通り、フェノールの国王や宰相の身柄は、一旦帝国が押さえる形を取っています。
しかし、現在、我が国と帝国との間に犯罪者引き渡しに関する取り決めがなされておりませんので、法的根拠が薄いまま宙に浮いている状態です。
そこで、どう処理するのが最も効率的か、コクーンの司令が相談のために彼らを遣わしたのです」
「宰相、できれば一度フェノールの国王と話し合う必要があるな。
一度コクーンに出向いてはくれまいか。
担当者殿、宰相がコクーンに出向いてフェノールの国王と面会はできますか」
「ええ、問題ありません。
すでに、王女殿下のところの捜査員たちが事情聴取もされておりますので」
「……、マリー!
なんという……
これが他の貴族にでも知れ渡れば……。
フェノールからのクレームなんぞ問題にもならないが、国内の連中がな~」
「陛下、でしたらすぐにでも私が参ります。
王女殿下、よろしいですな」
「わかりました、彼らを返さないといけませんし、王子殿下のご配慮にもお礼を申さねばなりませんし。
私もご一緒しましょう。
司令、お願いしますね」




