死んでやる
そんなところに、話に出ていた寝取り男のジャイーンが近づいて来る。
このジャイーンって男は、この星じゃかなりの有名人だ。
俺やてっちゃんと同じ学校で学んだ仲なので俺も知らない訳じゃない。
そもそもこの男はこの星一番の財閥であるアーム家の三男で、名をジャイーン・ストロング・アームという御曹司だ。
このストロング・アームと云う家はこの星一番の財閥であり、この王国の中でも十指に入る非常に大きな財閥の三男で、大学を卒業すれば財閥を率いていく血族の一人になる男だ。
こいつがものすごく嫌な奴なら、こいつを恨んだり憎んだりすることで、どうにか俺の気持ちもどうにかなりそうなのだが、しかし、そういうやつじゃなかった。
まあ、寝取られたので、多分に憎んでいるのだろうとは思うが、良く分からない。
ジャイーンの特徴としては、同性の男なら非常に気に入らないのだが、いわゆるイケメンというやつで、モデルかよと言いたいくらいの整った顔立ちだ。
おまけにスポーツ万能であることから体の方もがっしりとしている。
まあ、こいつが声を掛ければ大抵の女は落ちるとまで言われている。
その恵まれたものをいっぱい持っているためなのか、派手とまでは言えないが、まあプレーボーイと言えるだろう。
てっちゃんがこいつに落とされたのもうなずける話だ。
それでいて、御曹司にありがちと思われる選民思想には全くと言って興味を示さない、気持ちの良い男でもある。
だから気にせずに孤児であるてっちゃんも愛人にしたのだろう。
おまけに俺とも割と気軽に会話のできる数少ない人間の一人だった。
てっちゃんの事が無ければ十分に友人となれる存在だった。
こいつは非常に気に入らないが、十分に物語の主人公にでもなるような奴だ。
そのジャイーンが俺に近づいて来る。
「あ、ジャイーンさん♡」
てっちゃんは恋人が迎えに来たかのような、表情を浮かべてジャイーンを迎える。
俺をどん底に突き落としてその表情ができるって、本当に女ってすごいと思う。
「ナオか。
お前、運が無かったな」
学生時代では、俺は運動こそジャイーンには全くかなわなかったが、勉強になれば一度も負けたことのない成績を取ってきた。
その俺に向かって、ジャイーンが俺の大学に落ちたことについてバカにしに来たかと思ったのだが、違った。
ただ単に俺に運が無かったとだけ言ってきた。
ますます訳が分からない。
このジャイーンは割といつも愛人の類を連れて歩いていることが多く、今も彼の後ろから4人もの美人が歩いてきた。
今この星で人気のあるモデルのワーンさんを始め、通っていた学校の美人講師で有名なミドリ先生や学校で一、二を争うミス学校にでもなるくらい人気のあったヒルト先輩や後輩のヤナだ。
その美人の全員が皆ジャイーンの愛人だと云うのだから恐れ入る。
この見せびらかすように愛人と一緒にいる中にてっちゃんも入っていくなんて、正直彼女の気持ちが分からない。
しかし、この美人ばかりの中にあって、浮くことも無く十分に溶け込めているてっちゃんも充分に美人の類だったことをこの時に初めて気が付いたくらいだ。
その彼女たちもジャイーンの傍まで来た。
その時に俺は後輩のヤナが手にしている携帯端末に目が行った。
ちょうど何かの映像を見ているようで気になりチラ見をしたら驚いた。
なんと彼女たちの全裸姿が映っているのだ。
よくよく見ると、横で寝ているジャイーンの周りに全裸姿の彼女たちの姿があった。
そして何より驚いたのが、その寝ているジャイーンを跨ぐようにこれまた全裸のてっちゃんの姿だ。
彼女は今まで見せたことのない色っぽい顔をして、何より激しくジャイーンの上で踊っている。
また、音は小さめなのだが、あえいでいるてっちゃんの声まで聞こえた。
その声を聴いた時には俺はもう何だかわからなくなり、走り出していた。
そんな俺を見たのかヤナがテツリーヌに声を掛ける。
「テツリーヌ先輩、彼大丈夫なの」
ヒルト先輩も声を掛けたようだ。
「彼、あなたの元カレでしょ。
自殺したりしないかな」
「大丈夫よ。
ナオ君にはそんな度胸はないわよ。
それよりも何それ。
あ、昨日のじゃないの。
恥ずかしいから消してよ。
何で外でなんか見ているのかな。
もお止めてよ。
あなたたちも裸でしょ。
ジャイーンさん以外に見られても平気なの」
そんな女同志の会話も聞こえてくるが、俺は走り出していた。
俺はやみくもに走り出した。
目からは涙があふれ出てきた。
泣いてなんかいないぞ、そう思いたいのだが、もう顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
ほとんど大泣きで、世の中を、俺自身の呪われた環境を恨んで悪態を大声で怒鳴りながら泣いていた。
「し、死んでやる。
こんな、こんな腐った世界なら糞くらえだ。
滅んでしまえ~~~」
多分、この時俺は自殺を考えていたのだろう。
無意識に割とある方面で有名な場所まで来ていた。
ここは切り立った断崖の海岸にあるひっそりとした公園だ。
そう、ここは自殺の名所と言われている場所で、年に数人の割合で、身を投げる者たちが後を絶たない場所だ。
俺はその岸壁に向かって歩いている。
あと50歩、5歩では無いのが情けないのだが、あと50歩だ。
あと50歩歩けばこの世とおさらばだ。
そう思ったのだが、もうここからもう足が進まない。
俺はこの世には未練はない……未練は無い筈なのだが、死にたい筈なのだが、情けない。
俺は自殺すらできないのか。
俺はさらに大声をあげて泣いた。
情けない。
「俺は、自殺すらできない屑だったのか。
神はこの世に居ないのか。
居たとしたら俺にどうしろというのだ。
どこまで俺を苦しめればいいんだ。
いっそのこと俺ごと全部滅んでしまえ~~」
思いつくまま神すら恨む言葉を発していた。
どれくらい泣いていたのだろうか。
いい加減泣きつかれて、俺は少しばかり落ち着けた。
死にたいことには変わりはないが、俺が自殺できないことを受け入れることができるようにはなった。
もう辺りはかなり薄暗くなってきた。
このまま事故でも起こって死ねればどんなに良いかとも思いながら、この後のことについて考え始めた。
いつまでもここにいても埒が明かない。
ふと周りを見渡せば、自殺防止のためかやたらと危険防止の看板が多数設置されている。
ここに来るまでは全く気が付かなかった。
看板の中にはしゃれたものも多く、中には思いとどまることを期待しているのだろう。
「ちょっと待て、
今の考えを見直せ」
なんてものもある。
しかし、これは考えようだな。
俺がここに来るでは全く目に入らなかったのに、自殺を諦めたらこの看板が目に入る。
まるで自殺を諦めたら、その考えを見直せとでも云うのかと思うような看板だ。
これでは自殺しろとでもいうのか。
そんなことができるようならとっくに自殺していると、一人突っ込みを入れていたら軍の募集広告が目に入った。
今やたらに人気のあるアイドルグループが短めのスカートの軍服を着こみ笑顔でイケメンの軍人に寄りかかり訴えてくるやつだ。
『私たちを守れるのはあなたの勇気だけなの。
お願い、私と一緒の宇宙軍に入って仲間を守って。
貴方の勇気をお待ちしてま~す』
というやつだ。
かなりミーハーな広告とは思うが、これは割と人気のあるポスターの一つだ。
ちなみに軍の募集ポスターには別のバージョンもある。
俺が知る限りのもう一つは、軍艦の提督席にミニスカートを履いたアイドルが足を組んで同じようなセリフを言うものがあるが、こちらは見えそうで見えないのが話題になった作品で俺はそちらの方が好きだ。
今は関係ないか。
しかし、こんなポスターでつられて軍に入る奴なんかいるのかな。
もしいたとしても碌な奴には出会えないだろうと思いながら、しみじみとポスターを眺めている。
すると、その時に閃いた。
俺自身で死ねないのなら、敵国に殺してもらえば良くね?
そうだよ、俺のような奴が軍に志願すればまず確実に辺境の一番危ないと言われる戦場に送られると聞いたことがある。
まず確実に俺なら5年以内に死ねるな。
そうと決まれば、善は急げだ。
まだ3話しかUPしていないのにもかかわらず、多くの方の呼んでいただき大変感謝しております。
ジャンル別ですがSFのジャンルで日間で1位となっており、4作品目で初めての経験です。
ひとえに読者の方からの応援のたまものと感謝しております。
この作品は作者自身のエタり防止のため章単位で更新していきますので、第一章17話分までは毎日更新します。
次章につきましては鋭意創作中ですのでご期待ください。
今後も応援くださいますようよろしくお願いします。
感想や評価、レビューなどお待ちしております。




