第二艦隊特別派遣軍
駐機場では既に儀仗兵により殿下を出迎える準備がされていた。
殿下を先頭に俺たちは儀仗兵に連れられて基地の中に入っていく。
流石に殿下と一緒だと、俺たちへのヘイトも感じないですぐに会議室に通された。
そこには、この基地の長であるコロニー長と第二艦隊からのお偉いさんたちがすでに待っていた。
この基地は宰相預かりとなっているので、基地のトップは宰相配下のお役人になっている。
岩石でできた小惑星ではあるが、そこに作られた基地についても文官のトップはコロニー長と呼ばれ、他のコロニーと同様の扱いを受けるが、この基地は成り立ちから異質で、ほとんど第二艦隊が仕切っているようなものだ。
それでも何かするたびにコロニー長への許可は必要で、今回の様に俺たちを出迎えるのもホストはコロニー長となる。
だが今回の目的は俺たちと第二艦隊の派遣軍との会合が全てだ。
だから、派遣軍からすぐに挨拶を受けるが、驚いたことに以前挨拶をした時には戦隊の司令がトップだったのに対して、今回はさらに上がいた。
「第二艦隊特別派遣軍司令長官を務める……」
挨拶はこの基地に駐留している第二艦隊のトップからされた。
なんでも戦隊二つを派遣している関係上、戦隊司令の先任順での命令系統だと問題が出るとかで、早々と特別派遣軍なる臨時の艦隊を編成し、その艦隊司令長官に中将を任命してきたというのだ。
さらに、その中将閣下の下には幕僚として第二艦隊司令部から参謀を数人連れてきている。
第二艦隊も、この地では必死だ。
これ以上の失点を出す訳にもいかず、さらには第一艦隊が皇太子殿下の件で後れを取っている現状ではチャンスとばかりに功績を稼ぎに来ている。
すでに第二艦隊の重要人事からは第二王子の影響力を排除することに成功している関係で、俺たちに対するヘイトはなさそうだ。
そのあたりについても簡単に雑談ベースで教えてもらえた。
現在は、国境付近を超えてほとんど越境をしながら海賊の討伐をしているらしく、そのあたりの情報を詳しく教えてもらえた。
これからは心配しているような情報の出し惜しみが少なくなりそうだ。
この場には第二艦隊の司令部機能の幕僚たちの他は現在待機している戦隊からのお偉いさんはいなかった。
覚悟の違いか、すぐに出撃できるように待機状態を維持しているとか。
疲れないかなとは思ったが、この地に駐留している戦隊は第二艦隊所属の各戦隊からローテーションで回されてくるそうで、俺が先にちょっとと思うような扱いを受けた戦隊は既に別の戦隊と入れ替わっているとか。
顔合わせ以上の意味の無い話し合いになると思ったのだが、この先の戦隊配備についての相談ができた。
俺たちに対して当然第二艦隊は命令権を持たない。
依頼はできるが、流石に王女殿下もしばらくこの地に滞在すると聞いては無理強いもできないだろう。
尤も今日の所、艦隊司令長官の中将からはそんな感じは受けなかったが、それでも海賊討伐に関して要望は出された。
『俺たちにも功績を譲ってほしい』とな。
早い話が、海賊討伐の専門家がそばで仕事をされるとやりずらいらしい。
だから、この辺りでの海賊討伐に関しては遠慮してほしいと言ってきた。
第二艦隊がこの付近の治安を守ってくれるならば、別に俺たちがここで海賊討伐をする必要が無い。
俺たちが海賊討伐をするのは、俺個人としては色々とあるが、組織としては治安の向上が目的だ。
それを第二艦隊が受け持ってくれるならば俺たちがここにこだわる必要は無い訳だ。
それに、俺たちには陛下より命令が出されている。
フェノール王国の首都星まで出向いても良いが、菱山一家を討伐してこいというやつだ。
まだ、はっきり情報を得たわけではないのだが、どうも菱山一家はフェノール王国の庇護下にありそうだ。
これは俺だけでなくトムソンさんも同意見で、でなければ海賊風情が正規の半個艦隊もの武力を持つことなどありえないというのだ。
俺も同意見で、軍隊を作るのも相当難しい話だが、それを維持するのは、特に規模が大きくなればなるほど難しくなる。
あのシシリーファミリーも王国貴族の庇護下に合って臓器売買や違法薬物などのしのぎで維持してきたと、トムソンさんから聞いている。
王国内でも活動があったとは言うが、それでも半個艦隊もの軍隊を維持できるようなしのぎはないだろう。
ましてや、帝国から秘匿の決戦兵器であったLCGをかっぱらうような大それたことなどできないはずだというのだ。
確かにその通りで、あの時に帝国からLCGを盗んだのは菱山組だったという見方が優勢だ。
王国内では既に最大の勢力を誇っていたシシリーファミリーはほとんど壊滅した後だし、たとえ勢力がつぶされる前に盗んだとしても維持などできないはずだというのがあの件にかかわった者たちの一致した考え方だ。
俺たちには、その後に王女殿下の功績で結ばれた帝国との秘密条約に従って陛下より命じられている菱山一家討伐の件がある。
俺たちには異存が無いので第二艦隊からの申し出を素直に受け入れた。
ただ、王女殿下がここに残るとなると俺たちからももしものために艦を一隻残そうかと話したら、待機中の戦隊から一隻氷惑星の基地に派遣するので大丈夫だと言われた。
早い話が、俺たちにここにいてほしくなさそうなのだ。
まあ、海賊討伐で明らかに後れを取っている宇宙軍としては専門家が傍に居るだけでもプレッシャーを感じるらしく、最大限の配慮するからできりだけ早い段階でここから立ち去ってほしいということなのだろう。
王女殿下も、そのあたり既に計算に入れていたのか第二艦隊からの申し出をすぐに受け入れた。
ということで、俺たちは預かっている物資を下ろしたらすぐに出発する運びとなる。
王女殿下と一緒に氷惑星に戻り残っていたマリアたちにそのあたりを話すと案の定ブー垂れられた。
「え~、司令はここで作業していいって言ったじゃない」だって。
「ああ、確かに言ったが、いつまでもしていいはずないだろう」
「それにしたって、すぐにって酷くない」
「酷くないよ。
俺たちはここに遊びに来ているんじゃないからな」
俺とマリアの漫才のような掛け合いをメーリカ姉さんが止めた。
パンパン。
彼女は大きく手をたたき注意を引いたのちに「出発は明日になるから、今日中にめどをつけるように、いいな」
「は~い」
流石メーリカ姉さんから言われると素直に聞くな。




