陛下からのご下問
例のごとく『シュンミン』は王室専用の駐機スポットに案内されている。
もうここのスポットは俺たち専用かと軽口も出ようというものだが、そこからチューブで繋がれた先のゲート外には、にこやかな顔で俺たちを待つ殿下の姿があった。
「で、殿下。
ドードン閣下の出迎えですか」
「ええ、あなたとおじさまの出迎えに来ました。
報告があるのでしょう。
おじさまが陛下のお時間を抑えてくれたおかげで待たされることなく陛下に報告ができますからね。
外に車を待たせてありますから。
後は頼みますね、メーリカ艦長」
「はい、殿下。
後のことはお任せください」
裏切られた。
まあ、わかっていたけどメーリカ姉さんに俺は売られて、殿下に引きずられるように車に放り込まれた。
当然俺の秘書であるはずのイレーヌさんは殿下の手先として働いているので、最後まで我儘息子のように抵抗をしていた俺を車に放り込む際には大いに役立っていた。
俺は死にたがりな筈なのだが最後まで往生際が悪いと来ている。
皮肉なものだな……て、自分で言うなってか。
ただの現実逃避でした。
俺たちを乗せた車は王宮の正面玄関にある車寄せを通り過ぎてさらに奥に入る。
殿下の車だからできることなのだが、王族に連なる人の私人として使用している玄関口まで車は入る。
そこで降ろされて前にも一度連れられてきたことのある陛下の執務室に向かった。
部屋には当然陛下がすでに待っており、その傍らにニュースなどでおなじみの宰相と、前に一度会ったことのある宇宙軍長官が俺たちを笑顔で出迎えてくれた。
もう、これ以上にない拷問だ。
俺くらいの底辺階級からの出だと上流階級の属する権威に対しては割と無頓着になりやすい。
そのあたりについては中産階級や貴族階級の出の方が今ある権威には恐れおののくだろうが、それでも俺ですらわかる。
前に陛下にお会いしたこともあり得ないくらいに栄誉あることなのだと理解はしていたが、いくら正式な場でなくとも目の前の状況はありえないだろう。
宰相に軍長官、それに何より陛下が一堂に会しているのだ。
もうここだけで国の行く末を決められるというものだ。
あ、そうか、戦争中だったっけ。
今まで実質停戦中だったフェノール王国との戦端が開かれたんだ。
国の大事だからなのだろうが、その場で報告させるなんて正直勘弁してほしい。
俺がブルっていると殿下が陛下に此度の件についての趣旨を伝えている。
「陛下、先のフェノール王国との戦闘について報告に上がりました」
「ああ、そこのドードン少将より無線で聞いている。
まずは報告を聞こうか」
陛下に代わり宇宙軍の長官が声をかけてくる。
「ナオ司令。
先の戦闘について陛下にご報告を」
ちょっと待とうか、王女殿下。
何言っちゃってくれてんのかな。
しょ、庶民の俺が直接なんか、本来こういうのは直答が許されるはずないんだが、それに何より……
「陛下、直答をお許しください」
「うむ、少将からの報告を先にするが、良いな」
「はい、陛下」
俺への助け船かな。
正直助かった。
とにかくドードン閣下から陛下には、おおよその概略を自分が調べた範囲だけの報告だったので、どうしても俺からも報告しないとまずそうだ。
「うむ、先の戦闘の概略はわかったが、まずは、なぜというところからだな。
そのあたりについて広域刑事警察機構軍から報告を聞かせてくれ」
陛下からの下問があった以上報告しないわけにはいかない。
「では、ご下問のあった件をご報告させていただきます。
ことの起こりは戦隊所属の僚艦から緊急救助要請の自動信号を受け取りましたことから説明させていただきます」
そこから俺はできるだけわかりやすくかつ簡略に報告していく。
それでも戦闘までは俺の報告範囲に入るから、どうしても避けられず、かなりの時間を使ってしまった。
「そこまでやるか、フェノール王国は」
「いよいよ本格的に攻めてくる決断をしたのでしょうかね」
「陛下、これはこちらも急がねばなりませんね」
「ああ、そうだな」
「陛下、宇宙軍には広域刑事警察機構軍からの応援要請を受けた時点で第一艦隊に出動の命令を出しておりますが、その……」
「ああ、知っている。
それはそこの……」
「ええ、私どもが原因でしょうね。
ですがそれはこの国が抱えた闇が顕在化しただけですから」
「ですが……」
「言うな、宰相。
わかっておる。
息子たちも一緒になって騒いでおるのだ。
朕にも責任がある。
それより、そちらの戦隊は無事か。
先の報告では被害はなかったようだが」
「はい、状況が状況でしたので罠を疑ってはおりました」
「それでも戦闘になったというのか」
「はい長官。
罠を疑うには十分すぎる状況でしたが、どういう罠かまではわかりませんでした。
一応、戦隊を分け囲まれるのだけは警戒しましたが、まさか正規軍がそのまま一個戦隊で来るとまでは警戒しておりませんでした」
そこから一応宇宙軍長官たちに言い訳を始めた。
でないと俺だけの責任で済まなくなりそうな空気だった。
一応の言い訳の後宰相から質問が入る。
「そこまで怪しげならば一旦応援を呼んでからとは考えなかったのかな。
現に戦闘後ではあるが、応援を呼んだではないか」
「はい、ですが私たちは陛下より賜った軍を預かっております。
どんなに不利な状況でも陛下の臣民からの救助要請は全力を以て当たらねばなりません。
確か法律上でもそのように記載されていたはず」
「いや、確かに宇宙軍やコーストガードなどは法的に絶対救助に当たらねばならない状況ではあるが、広域刑事警察機構軍には、その条項はないはずだ」
「ええ、存じております。
ですがわれらは陛下より第三の軍として扱われております。
どんな状況でも逃げることは許されることはないと考えておりました」
そうなのだ。
確かに軍や警察など官憲には臣民を第一に扱うことがしっかりとこの国の法律に明記されている。
俺が『シュンミン』を預かるきっかけになったあの事件はその法律を無視して逃げたことが大ごとになったためだ。
だが、我々はできたばかりの組織ということもあって法律の改定がされていないために、あの場合逃げても法的には処罰はされない。
それに何より、怪しげな状況で庶民など助けずともそんなことはこの国では日常茶飯事なことだ。
要はばれなければ問題ないという空気が大勢を占めている。
だからこそ宰相は怪しげならば藪をつつくことなく放っておけば大事にならなかったと言っておられるのだ。
だが、俺はそんなことを許すつもりもない。
状況に限らずできる限り自分のできることをする。
それで自分が危なくなっても、部下だけを助けられればそれこそ本望だ。




