怪しげな宇宙船
とにかく疑問も解けたので、未確認の飛翔体に向かっていく。
せっかく殿下が手配した艦載機もまだ配備前なので、どうするか思案していると乗り込んでいた機動隊の分隊長から提案があった。
「できたら我々に臨検させてくれ」と。
確かに、それしかないか。
まあ、まだレーダーに映る影程度なので、どうするか決められないが、相手がある程度判明したら臨検をしていく方向で検討を始めた。
前に、殿下から国境なんか無視しても良いとお言葉を頂いているが、俺にはまだ国境を越えて作戦行動をするだけの決断ができない。
せめて三番艦も含め艦隊がそろったら考えるが、今回は国境内での処理を考えている。
「メーリカ艦長。
位置取りだけは常に気を付けてくれ。
今は国境を越えたくはない。
たとえギリギリであっても国境内で処理したい」
俺たちが行動を開始してから30分後、目標艦を普通にレーダーでとらえる距離まで近づいた。
「もうこれならば相手からも見つかっているだろう。
果たして逃げるのかな」
「どうですかね。
こちらの艦隊はみな小型艦に分類されるものですからよほど優秀なレーダー操作員が十分に気を付けないと発見されるかどうか。
で、この後どうしますか」
「こちらから相手の艦種だけでもわからないかな。
もっと詳細なデータが欲しい」
「それならば、今計測中です。
………少なくとも相手は単独ではありませんね。
こちらと同程度の小型艦に類する船で2隻ですね。
艦載機などは出ていないようですが、相手側が所有しているかどうかまではさすがにわかりません」
「データベース上に問い合わせても種別までは分からないか。
となると軍関係か……な?」
「そうですね。
私たちに公開されているデータが軍の持つ最新のものかはわかりませんが、少なくとも商船の類ではありません。
改造船でもないでしょう」
「え?
なんで改造船かどうかまでわかるんだ?」
「改造船ならば少なくとも改造前の船で検索されます。
『シュンミン』ならば『ブルドック』型の航宙駆逐艦と判別されるはずです。
今では全く違う船なんですがね」
「そういうことか。
となると、実際に映像が見たいな。
光学探査で探れないか」
「そうですね。
暗黒宙域では大活躍のあれも、ここなら使う必要が無いかと思っておりましたが、そういう使い方もありますね。
ですがあと5分は近づかないと探れません」
「メーリカ艦長。
『バクミン』にレーザー通信で連絡だ。
もう少し近づいてから判断するとな
それに、今はこちらから余計な電波は出したくはない」
「了解しました司令」
バクミンも使ったあの望遠鏡を二つ使う手法でやっと映像を得ることができた。
「なんだこれ?」
軍艦おたくのカスミがすぐさま食いついた。
「これ、航宙駆逐艦よりも小型のコルベット艦に類するものかと。
内宇宙では活躍するでしょうが、広い外宇宙では航続距離、速度ともに貧弱で、とても使い勝手の良いものではないとどの国でも今では見向きもされていないと聞いておりますが、あれ見た目では最新ですね」
「軍艦か……少なくとも商船ではないな。
ならば法律に基づき臨検だな」
「久しぶりですね。
暇している捜査員や機動隊も喜びますね」
「ああ、でも相手は軍人だ。
手練れも多数乗船しているはずだから臨検に際して十分に身の安全を考えて行動をさせないとな」
「え?
海賊相手でも同じでは」
「むしろ何でもありの海賊の方が行儀が良い軍人よりも厄介なのでは」
「その海賊の可能性もあるからな。
そういうことだ」
「作戦開始は30分後に、二隻同時に突入ということで」
「ならなら、あれ使ってみませんか?」
「あれ???」
俺がマリアに聞くと、艦橋内にいたほかの乗員たちは頭をしかめた。
またかって感じだ。
「司令。
今マリアがお熱の大型内火艇です」
「あれならたくさんの人をいっぺんに突入できるから簡単に制圧できるよ。
本当ならば、あの『ラージ・コクーン』のような大型艦の時を想定しているけど、別に小さな艦でも問題ないから」
「わかった。
それなら俺もいこう。
機動隊の他、特別突入隊を編成して乗り込もう。
悪いがすぐに調整してくれ」
「え?
何も司令が行く必要が無いのでは」
「たまには暴れたいんだ。
さすがにストレスマックスだったのでな」
「しかし……」
「秘書官。
司令の警護に十分に人を出せますから問題ないのでは。
ケイトに、マリアも行かせますから」
え?
ケイトにマリアを出す方が問題ではないのかな。
「わかりました、メーリカ艦長。
人選をお任せします」
そこから、作戦開始ポイントまでの30分の移動中『シュンミン』と『バクミン』との間ではレーザーを使った通信だけでなく、内火艇の行き来も頻繁に行い、俺もあの大型の内火艇に乗り込んで『バクミン』自慢の全通甲板まで来ている。
「何も司令自らいらっしゃらなくとも……」
俺をカリン先輩自ら全通甲板で出迎えてくれたが、どうも出迎えというよりも文句が言いたかったようだ。
「なに、作戦行動については、全て現場指揮官に任せるし、その指示にも従うつもりだが、ここで待機なんてさせるなよ、カリン艦長」
「ええ、存じております。
しかし……」
まだ何か言いたそうにしているが、時間も迫ってきているし、俺と漫談をする暇もなくなるだろう。
「艦長、カリン艦長。
時間です」
カリン先輩のそばにいた下士官の一人がカリン先輩に声をかけてきた。
副官なのだろう。
艦長のスケジュール管理でもしているのかな。
俺がそんなことを考えていると、カリン先輩が艦内無線機を取り出して艦橋を呼び出している。
「艦橋。
現在地確認」
「艦長。
指定作戦ポイントです。
旗艦にも確認済です」
「わかった。
これより作戦を開始する。
艦載機、全機の発進を急げ」
艦載機って言ったって、まだ5機しか配備していない。
殿下が集めてくださったパイロットと艦載機は、俺たちが戻る頃にはニホニウムの本部に来ているだろうが、それだってすぐには使えないしな。




