きな臭い話
俺たちはその1時間を使って、この後についての相談を始めた。
「この艦はニホニウムに持って帰ることで良いのですか、司令」
「カリン艦長。
それしかないだろう」
「カリン艦長。
ジンク星を始め、この星系の上層部は、この艦を見つけた段階で、灰色などはとうに通り越しており、限りなく黒ですから、そんなところに証拠を持ち込めませんよ」
「それは理解しておりますが、流石に大物ですから、応援などを頼む手もあるかと」
「隣の第二艦隊に応援依頼を出すか。
しかし、あそことは相性が良くないんだよね、俺は。
何せ、一度捕まったし」
「アハハハ、そうでしたね」
「しかし、ニーム星系の方が近いか。
そっちに運ぶ手もあるかな」
「いえ、ここからですと、それほど時間的に差はありません。
むしろ、その後他の部署の捜査が入るのでしたら、首都星系の方が良いのでは」
「そうだな、メーリカ艦長。
では、落ち着いたら、あれを連れてニホニウムに帰還する。
そろそろ時間か。
では作業に掛かろうか」
「アイス隊長。
捕虜の管理を任せてもよろしいでしょうか」
「ああ、『バクミン』の格納庫の一つを借りて、そこに集めておいたから、そのまま機動隊が管理しよう、旗艦艦長。
それでよろしいでしょうか、カリン艦長」
「ええ、問題ありません」
「メーリカ艦長。
マリアとケイトに、部下を付けて、あれを動かさせてくれ。
もうあいつらだけでも大丈夫だろう。
あ、付ける部下は常識人の枠から選んでくれ。
移動中に何か仕出かされたらたまらない」
「確かにそうですね。
分かりました、司令」
その後すぐに、鹵獲した航宙フリゲート艦『シラカバ』を『バクミン』が曳航してニホニウムに向かった。
『シュンミン』はトムソンさんを乗せ、ジンク星にひとまず戻り、トムソンさんを降ろして、先行している『バクミン』を追いかけて行く。
トムソンさんには、このジンク星で、さらなる捜査をお願いしてある。
あの場所での鹵獲になったわけだから、あそこまでこのジンク星から誰かが、情報を持って向かうことになっているはずだし、また、襲った商船の現金化なども行うためにこのジンク星とのやり取りがある筈だ。
それを海賊がするには悪目立ちするから、絶対に一般人を装った連中が関与していることになる。
下手をすると、会社組織であったり、役所の一部部署である可能性すらあるのだ。
そんな大掛かりな組織だから、外部の専門家から見れば絶対にどこかにほころびを見つけられると俺は思っている。
ニホニウムでは先に連絡を入れていただけあって、殿下と王室から監査室のメンバーが出迎えてくれた。
軍の警察本部からも人が出ており、捕まえている海賊たちを引き取ってくれた。
地元警察にでも頼もうかとも思っていたが、宇宙空間での犯罪、しかも、首都星系以外であったために、法的にも瑕疵を作らないように軍警察に殿下が依頼していた。
あちらもまだ忙しいだろうに、申し訳ない。
問題の『シラカバ』の件だが、これは俺らの予測通りに軍から地元治安部隊に払い下げされる時に海賊の手に渡ったそうだ。
何せ、払い下げ担当の軍人も、それを受け取るデライト星系の役人も共にグルであることが判明したのだ。
件の軍人は既に別件で捕まえた後であったために、余罪の捜査は行うが、俺たちはもっぱらデライト星系の役人の方の捜査に軸足を置いている。
海賊の尋問の方ではちらほらと嫌な情報も出てきている。
直接の配下では無いらしいが、どうもあの菱山一家に連なる者らしいことまでは分かった。
菱山一家の3次構成組織である航道会のメンバーであるようで、その武力は今回鹵獲した航宙フリゲート艦を含め3隻からなる、かなり大きな海賊のようだ。
しかも、更にきな臭い話ではあるが、他の軍艦は外国製らしい。
どうも隣国も関わっていそうな話で、この件は陛下も交えて対処していかないとまずいらしい。
下手をすると、その海賊の背後に隣国の影がちらほら見えて来た。
しかも、その隣国なのだが、今関係がよろしくないときているから、さあ大変だ。
まあ、俺にとっては人ごとなので、後はお任せだが、この後はトムソンさんや、それこそ王室監査室の人たちの活躍に期待しよう。
俺は今まで通りで構わないという話で、王宮との関係については地上勤務の殿下やマキ姉ちゃんたちが当たるらしい。
外国との戦争だけは俺としても避けてほしいとは思うが、その外国との国境を接するデライト星系の役人が繋がっているとなると、国としても穏やかな話ではない。
俺としては、まずは、あいつらの拠点制圧だ。
デライト星系の役人についてはトムソンさんや国の監査室の仕事になるので、捕まえた連中の尋問を通して拠点の一つを探る話になったが、結論から言うと、いくら尋問してもあいつらには分からないという話だった。
元々からして、まともに教育された連中でないので、日常していること以外には全く理解できていないことが判明したのだ。
それに、海賊上層部は相当に頭が切れるので、自分たちの拠点が分からないように工夫を凝らしている。
尋問の結果、あいつらがあの辺りをうろついていたように、あそこで待っていると、拠点の方から接触があり、拠点に連れて行ってもらえるのだとか。
まあ、あの辺りではレーダー類が全く役に立たないので、天測による位置測定をしないと現在地すら分からなくなる。
最悪暗黒宙域での迷子だってあり得るのだ。
星は見えているので、最悪迷子になっても、その星に向け進んでから、暗黒宙域を脱して、元に戻ることは可能だし、現に捕まえた連中の審問から一度や二度では無い位に、それをしていたとか。
本当にあいつらは宇宙を荒らしまわるプロの海賊かと言いたくなるていたらくだ。
俺たちは鹵獲船の航行ログをあさり、できるだけ情報を探っているが、本当にどうしようもない連中で、航行ログも、ほとんど役に立たない。
レーダー類が使えないことから自動記録が全く役に立っていなかった。
航宙図の記録は全くのでたらめか、記録すら付けていないとか。
良く今まで生きて来られたかと、俺たちはある意味感心すらしたが、今度ばかりは前の時のようには簡単にはいかないらしい。
だが、重要な情報を一つ掴んだ。
鹵獲したポイントの近くに奴らの拠点があるということだ。
あいつらはあの辺りをうろついて、拠点からの人を待ち、それからさほど時間を掛けずに拠点に入っていることまでは分かっている。
俺たちは、ニホニウムで補給と簡単な整備を行うために、1週間ばかりの時間を要する。
その間に、乗員たちは久しぶりの休暇を出してある。
英気を養わないと、いい仕事はできない。
いい仕事はできないんですよ。
ねえ、聞いていますか。
そうなのだ。
休暇を楽しんでいるのは部下たちだけだ。
艦長の2人ですら2日ばかりの休暇は出ているのだというのに、俺は、地上基地内にある俺の事務所に軟禁されている。
各種の報告書の処理の他、来客の対応に時間を取られて、俺の休暇は次回のお楽しみにだと。
仕事は嫌いではない。
まあ、慣れないことをしているとは感じているが、不満は……少しだけだ。
しかし、俺への来客って、本当に面倒でしかない。
だが、一軍の長の仕事の大半は大抵がこのような感じらしい。
そもそも、そう言う立場の人間はそう簡単に宇宙には出て行かないのだとか。
そう言えば宇宙軍やコーストガードのトップも大抵は地上事務所に居る。
本当に稀に軍艦に乗ってそれこそほとんどセレモニー的な仕事だけをしている感じだ。
それを俺にやれと、いや、無理でしょ。
それに俺の使命は、海賊の撲滅だ。
隠れ使命として殉職もあるが、まずは、海賊をとにかく根絶やしにして、あの子たちの御霊の供養をしないと、俺の犯した罪は消えない。
だが、今の感じが続くと、殉職はできそうだが、この地上事務所の机の上で、過労死という名の殉職になりそうだ。
同じ殉職だとしても、それだけは俺自身が受け入れることはできそうにない。
今のところ、俺の宇宙に行くことに関してどこからも止めに入らないのが救いだ。
次の獲物をしとめに宇宙に行くか。
「司令、次のお客様です。
隣の星系の治安部門を監督をしております伯爵様です」
え~~、まだ来客があるの。
本当に次の出発に俺を連れて行ってもらえるんだよね。
置いて行かれる事なんか無いよね。
この話で、この章は終わりです。
次の章は、しばらくお時間を頂くことになりますが、変わらずの応援を頂けますようお願いします。