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悪人顔

 

 翌日、全員が起床後に、『シュンミン』と2番艦の『バクミン』が並んで停泊している駐機エリア前に作られた特設の会場にて、広域刑事警察機構軍の発足式が取り行われた。


 王国三番目の新たな軍ということもあって、かなり盛大に式典が執り行われた。

 王国からも宰相が招待されてやってきている。


 尤も招待したのはもっと多くの方だが、これは来ないことを前提での招待だ。

 なにせこの時期はどこも忙しい。

 宇宙軍やコーストガードにも組織の長宛てに招待しているが、皆代理を出してお茶を濁されている。


 こちらとしても、それが前提で準備しているから、正直宰相本人がやってきたのには驚いた。

 それと、少々迷惑とも感じている。

 こちらで招待しておいて、やってきたら迷惑だと感じるのは如何なものかと言われかねないが、元々来ないこと前提で招待していたのだ。

 はっきり言って、こいつ空気を読めと。


 式典は順調に進み、宰相や、宇宙軍の参謀からの挨拶も終わり、ひと段落した。


 コーストガードからもお客様を招待していたが、ニホニウムに拠点を置いている第二機動艦隊の事務方のトップが参加していたので、挨拶も無し。


 最後に俺が壇上で、2人の艦長に命令書を交付して、彼女たち2人が整列中の部下たちを連れてそれぞれの艦に向かって行進していく。


 それで、式典が終了した。


 俺は参加してくれたお客様にひな壇からお礼を述べて、旗艦に乗り込み、初の仕事として付近のパトロールに出発した。


 ニホニウムでは、残った殿下やマキ姉ちゃんが本部内の特設会場で立食形式のパーティーを開き、地元有力者や招待客をもてなしている。


 パーティーの話を聞いた時に、俺にもお誘いが来たが、初の任務だから俺も部下たちと行動を共にしたいと言って辞退した。


 マキ姉ちゃんは俺の意図を正確に掴んでいるので、苦笑いでそれを許してくれた。


 殿下の方はよくわからないが、まず問題は無いだろう。


 3日くらい宇宙にいればほとぼりも冷めるだろうということで、とにかく首都星域の外縁を中心にパトロールする計画を作っている。


「司令、間もなくニホニウムの管制圏を離脱します」


「艦長、計画通りに」


 俺は、艦橋に入るが、今まで使っていた艦長席を新艦長のメーリカ姉さんに譲っているので、艦長席の直ぐ傍で立っていた。


 飛行機の離陸とは違い、座席についてシートベルトをしないといけないと言う訳では無い。

 尤もお客様を招待している時には、もしもに備えてシートベルト着用をお願いしているが、別に座席に座っていなければ危険とまでは言えない。


 まあ、軍に限らず宇宙船では、離陸時に着席を推奨しているが、まだこの艦には俺の席が用意されていない。


 ちなみに司令官室は俺が今まで使っていた艦長室があてがわれて、メーリカ姉さんは俺の隣に自身が今まで使っていた部屋を移設して艦長室としている。


「通常航行モードに切り替え」


 副長となったばかりのケイトがメーリカ姉さんの指示を受け、艦内モードを切り替えていく。


「司令。

 我々としては初めての艦隊行動になりますから、事前に計画されていない進路変更などの訓練をどこかで入れないといけませんね」


「ああ、それはしないとまずいな。

 後は、隊列の変更訓練か。

 まあ2隻しかないから単縦陣が基本になるが横陣もできるようにはしておきたいな。

 どちらにしても、まずは基本訓練からだ」


「そうですね。

 我々も初めは酷い物でしたからね。

 流石にあちらに配属されている者たちは皆優秀であると聞いておりますから、我らのようにはならないでしょうが、それでも慣れと云うのがありますから。

 この後、計画通り訓練航海を続けます。

 司令はどうなさりますか。

 艦橋に残るようなら席を用意しますが」


「いや、艦橋にいても仕事が無いし、一度訓練中の『バクミン』を訪ねようかと思っていたし、向こうも問題がなければこれから向かおうかと考えているのだが、どう思う」


「それは良いかもしれませんね。

 こんな何もない空間で、しかも進路変更をしばらくはする予定がありませんし、いくら慣れていないクルーだと云っても若干の余裕くらいはあるでしょうから。

 今の時期を逃すとかえって行く機会をなくすことにも成り兼ねませんね」


「私もそう思うよ。

 艦長、悪いが『バクミン』に許可を取ってくれないか」


「え、許可ですか。

 それはできません」


「なんで??」


「命令ならできますが、上官である司令からの命令には背けません。

 これはいくら規律が緩いコーストガードでも許される事ではありませんし、流石に第三の軍隊と言われている以上、我らもそれに従わないといけませんから」


「どういうことなの?」


「ですから、司令が行くと言えば向こうは受け入れざるを得ないのですよ。

 こちらから、これから向かうと通達を出しておきます。

 一応、私信で司令が行っても問題ないかくらいは聞いておきますから、安心してください」


「ありがとう、すまないね」


「いえいえ、それよりも移動はどうしますか」


「そうだな。

 久しぶりにパーソナルムーバーでもと考えたけど、距離がぎりぎりなんだよね」


「は~~~。

 流石にそれは……」


「そうだよね。

 ムーバーが届かなくて迷子なんて笑えないし、いきなり初仕事が迷子の捜索なんて記録に残したら、殿下じゃなくてもマキ姉ちゃんから何を言われるか……考えただけでも恐ろしい」


「陣形を横陣に変えてチューブでも渡しますか」


「まだ陣形の変更は無理でしょ。

 ………

 うん、内火艇を借りるよ。

 それで向かうわ。

 こっちで使うようなら連絡してね、直ぐに返すから

 それで良いよね。

 問題がなければ向こうに連絡しておいてね」


「分かりましたけど、誰を連れて行くのですか」


「流石に秘書官は連れて行かないとまずいかな。

 後で知らない行動をとっていたって報告されたらたまったもんじゃないよ」


「そうでなくて、誰に操縦させますか。

 こちらの艦載機は全て『バクミン』に移した関係で、艦載機パイロットも全員『バクミン』にいますしね」


「それなら大丈夫だよ。

 内火艇なら俺でも操縦ができるし。

 俺の初仕事も内火艇の操縦だったしね。

 『アッケシ』時代だけどもね」


 メーリカ艦長と掛け合い漫才のような会話をしていたら、先方から受け入れの準備ができたと無線が入る。


「司令、向こうは大丈夫の様ですね」


「ああ、これから行ってくるわ。

 後は任せたよ」


 俺はそう言うと一旦事務所に寄り、イレーヌさんを連れて後部格納庫に向かう。


 後部格納庫では既にマリアによって内火艇の準備ができていた。


 ああ、そうか。

 まだ新たな艦載機などの配属が済んでいない為、とりあえずカリン先輩の部下だった艦載機クルーとその整備員たちは艦載機共々配属を『バクミン』に所属を代えてある。


 となると当然、この艦には整備員は誰も居ない。

 まあ、そう言う意味では無駄に優秀なマリアを残しているので、内火艇の整備くらいはどうとでもなる。

 実際に、出発準備をしてもらったわけだが、しかし……


「あ、司令。

 内火艇の準備ができているよ。

 こいつの調子は絶好調。

 で、だれが運転するの。

 私がしましょうか、司令」


「いや、大丈夫だ。

 俺がするから。

 ところでマリア、機関室の方はお前が居なくて大丈夫か」


「問題ないよ。

 当分の間、この艦の出力を変えずに巡行で移動するってメーリカ姉さん、いや違った、もう姉さんは艦長様だったっけ、そのメーリカ艦長が言っていたから」


「しかし、今機関部には慣れていない乗員と就学隊員しかいないんだろう。

 不安になっていないかな」


「分かってないな~、司令は。

 それが良いんだよ。

 私の師匠が言っていたよ。

 私の師匠に司令は前に会ったことあるでしょ」


「誰だっけか??」


「ほら、『アッケシ』の機関長だよ。

 師匠が言うには、安全を見越した状態で、彼らだけにする方がみんな必死になるから、すぐにスキルが身につくんだって。

 本当は時々わざとトラブルなんか混ぜるとよりいいんだって言っていたよ。

『アッケシ』はそこ行くと最高だって。

 何もしないでもすぐにトラブルから、俺が居ない時にそれが起こると、本当に良く働くようになるって。

 だから、私も姉さん艦長に聞いてからだけど、ちょっといたずらしようかなって」

 そう言うマリアの顔はまさに悪人顔。

 こいつ、いたずらするときに見せる顔って絶対に他人に見せたらダメな奴だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 皇国の宰相が訪れると言うことは、ナオ君の王家の扱いが英雄という事です。艦隊運用が難儀することは予想されますが、2番艦の性能が通常の駆逐艦では無く、米軍の「WASP」のような運用が出来る万能空…
[一言] この162話、「儀礼的な式典を行ったら宰相が来て驚いた。船を移動するために内火艇に乗ることを決めた。」という2行で片付きそうな内容なんですが、それをしっかり描写してくれるこの作品がツボです。…
[良い点] 宰相閣下本人が来るって事は宰相閣下は期待にしろ警戒にしろ本気って事では…… 来ない事前提なのに来るとか迷惑なんて思ってる場合では無い
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