大捕り物に向け出発
「隊長、お帰りなさい。
今日はありがとうございました」
格納庫に戻るとマリアの部下たちからお礼を言われた。
「へ?
お礼を言うのは俺じゃないかな。
出航の準備も手伝えずに済まなかった」
「いえ、隊長は最大の功労者です。
マリアがいなかったので、仕事がはかどり、無事に準備が終わりましたから」
「メーリカ姉さん、それは酷い」
「酷いも何も無いよ。
あんたがいるとなんでも積み込もうとするじゃないの。
それに余計なところをいじり出すし。
それが無いだけで、どんだけ仕事がはかどるか分からない訳じゃ無いよね」
「メーリカ姉さん、酷いです。
でも、でも、でも、さっき隊長から許可貰いましたから『ひまわり3号』は積みますよ」
「え?
隊長、マリアに許可出したの」
「ああ、さっきお願いされたからね。
でも、ペイロードも問題ないと言ったし、かさばらないとも聞いたぞ」
「確かにあれは大丈夫か」
「でしょ、でしょ。
それにあれは絶対に役に立つよ。
レーザーの使えないところでも問題なく使えるから」
「確かに。
まあ、今回の作戦宙域がこの辺りのようだから、案外使えるかもしれないな。
尤もうちに出番があればの話だ。
分かった。
マリア、邪魔にならないようにきちんと積み込んでおけよ。
明日にはいじれなくなると思って今日中に作業を終わらせろよ。
分かったか」
「分かりました、でもあの子たちに手伝ってもらってもいいよね。」
「ああ、それくらいなら、構わない。
どうせ同じ穴の狢だし。
あいつらだって実戦で使いたくてしょうがないのだろう。
すぐに作業にかかってくれ」
「みんな~。
自分のものは自分できちんと積み込んでね。
補給の弾も忘れずにね。
沢山積んでおくんだよ。
分かった~」
「「「ハイ」」」
マリアの掛け声で、先ほどまでメーリカ姉さんの元で行儀良くしていた娘っ子たちは一斉に倉庫脇にあるロッカーに飛んでいった。
全員が開いたロッカーから何やら自分のものを持ち出して内火艇に積み込んでいく。
やたら細長いもので、どう見ても武器に見えない。
間違ってもレーザー兵器の類ではないし、どこからどう見てもバトルアックスには見えない。
強いてそれに近い武器はと考えると、思い当たるのは、はるか昔の主流だったと言われる銃と呼ばれた物にも似ている。
以前学校の資料室で実物を見せて貰い、一応の原理も教わったのだが、あれは無いだろう。
真空の宇宙では全く使い物にならない物だった筈だ。
あれの原理は確か火薬という酸化物を急速燃焼して、その膨張する空気で固形物を飛ばすというものだったはず。
空気のない宇宙では全く使い物にはならない。
艦内においても、無理やり使っては船の隔壁などを壊す恐れがあるので、流石にないわ。
マリアもお守りと言っていたし、心の支えと云うのは大事だ。
邪魔にならなさそうなので、いまさら止められない。
そのうち、マリアに用途などを聞いておこう。
この時は、そのように思っていたが、まさかこの後にあのような結果になるとは、マリアたちからしたら怪我の功名?しかし俺からしたらね~。
あの時この後の顛末を知っていたら絶対に許可しなかったのに。
配属二日目は問題なく、船も隅々まで案内され、充実して終わった。
この日から俺の食事は、部下の連中と後部格納庫脇の控室で取るようになった。
幸いと云うか、俺は嫌われていなさそうなので、居心地もそう悪くはない。
翌日、作戦計画に則って第三巡回戦隊の旗艦『マシュウ』から母港である宇宙港を出航していった。
日頃からのきちんとした整備のたまものか、この古い『アッケシ』も何事もなく無事に惑星の重力圏を離れ、最初の目的地であるスペースコロニー『ビスマス』に向かった。
このビスマスは第三機動艦隊が母港を置いているスペースコロニーである。
このビスマスの付近に今回作戦に参加する艦艇を集める計画だ。
ちなみにこのスペースコロニー『ビスマス』はルチル恒星系の政治経済の中心地でもある。
なぜ主惑星のルチラリアではなく、人工的に作られたスペースコロニーが政治経済の中心地かと云うと、一つには主惑星も資源採掘以外に風光明媚な場所がない事は先に説明してあるが、それ以上に問題になるのが、通信の問題だ。
恒星ルチルとダイヤモンド王国に災いをもたらす超新星ウルツァイトとの関係でとにかく周りに困った物質を巻き散らかすのだ。
また、巻き散らかされる成分が問題で、頻繁に惑星の外と連絡が取れなくなる。
定期的に訪れる宇宙船がもたらす手紙などによって情報のやり取りは行われているが、やはり無線などの手段が取れないことは致命的だ。
恒星から離れた場所にこのスペースコロニーがあることでそういった影響をほとんど受けていないので、この付近の主力である第三機動艦隊の母港としては申し分ない。
また、初めから宇宙空間にあるので、緊急時の出撃にも時間をさしてかけずに出航できる利点もあるのだ。
さらに、今回のような作戦行動をとる際に、艦隊を集結させるのに都合の良いスペースもたくさんある。
などの理由が挙げられるが、最大の理由は主惑星ルチラリアよりも人が生活しやすいのがその理由だと言われている。
どちらも人工的な物しかなければ、初めから人が快適に暮らせるように作られた場所の方がはるかに過ごしやすい。
上下関係の激しい社会においてはより上位者の方がより良い場所に居るという自然の摂理が働いた結果だといえよう。
母港のあるルチラリアを出航した第三巡回戦隊は、作戦参加艦隊の集結地となるビスマスに約1週間かけて向かった。
直接向かえば数時間で着ける場所だが、通常の巡回業務もあり、巡回にいつも通りの時間をかけての移動だ。
その間、俺は船内のシミュレーターを使って、武装内火艇の操縦の訓練などをしながら時間を潰した。
今までボッチ気質の俺だったが、この1週間で後部格納庫内においては割と打ち解けたのではないかと思っている。
艦隊は計画通りに巡回を終え、集結地に到着した。
集結地には既に第三機動艦隊が待機しており、出撃を今か今かと待ち構えているようだった。
流石に機動艦隊だ。
機動艦隊に所属している船は明らかに俺らの船よりは新しくもあり、装備も充実していそうだ。
でも、宇宙軍からのおさがりには変わりなく、どうしても現有機からは1世代以上古いものだが、やむを得ないのだろう。
俺はここに集まり次第すぐにでも出撃かと思ったのだが、ここでも3日ばかり足止めを食らった。
今回の作戦ではこの付近をテリトリーとしている第三機動艦隊や第三巡回戦隊だけでなく、お隣から第二巡回戦隊も参加する。
今はその第二巡回戦隊を待っているようだ。
ここで一つの疑問が生じる。
いくらお荷物のようだと揶揄される組織とはいえ、そこは組織だ。
当然あるべきものはある。
そう縄張り、セクト色々な名前で言われるが、組織の持つテリトリーだ。
コーストガードでは成文化されたテリトリーは存在しない。
存在しないが暗黙の了解というものがある。
コーストガードは機動艦隊も巡回戦隊も同じ数存在する。
それぞれ3つずつある。
そして首都宙域には、3つの星系がある。
誰が考えても同じ結論に達するが、それぞれの星域を縄張りのように考えている。
第一機動艦隊及び第一巡回艦隊は首都星ダイヤモンドを有する恒星ダイン星域で、ダイヤモンド星にあるファーレン宇宙港にその母港を置く。
まあ、宇宙軍第一艦隊も母港としているので、肩身は狭いが、それでも他よりは断然条件が良い。
何より本部を置く合同庁舎に近いのが文句の出ないくらいに最適の環境だ。
力関係では当然コーストガード全体の旗艦を有する第一機動艦隊よりは劣るが、第二機動艦隊及び第二巡回戦隊のテリトリーは隣の星系であるイットリウム星系だ。
当然母港もイットリウム星系の主惑星である惑星ニホニウムにある。
ここは官民共同の宇宙港となるので、機動艦隊が中心地に近い場所に置いているが、巡回戦隊の方は別の惑星にある。
そして第三機動艦隊は先に説明したように、母港は諸条件によりスペースコロニーにあるが、テリトリーとしては他の艦隊同様にルチル星系を持っているとみなされている。
ほとんど無いが大物海賊の取り締まりなどで共同して作戦に当たることもあり、また、緊急時には手の空いている艦隊が向かうこともあるので、厳密なテリトリーではないが、状況の許される限り他のテリトリーは荒らさないというマナーだけはある。
今回は第三機動艦隊が中心となる取り締まりなので、普通なら隣の第二巡回戦隊が出張ることはないのだが、今回だけは特別だ。
なにせ、海賊の情報を持ってきたのがその第二巡回戦隊であるからだ。
その情報をもたらされたコーストガードの本部は、軍の情報部や警察本部などの諜報機関に情報の精査を依頼して情報の収集を図り、敵海賊の規模を割り出した。