殿下からの嫌がらせ?
「ようこそ、お待ちしておりましたブルース戦隊司令殿」
するとこういった席に慣れていない俺に代わりカリン先輩が答えてくれる。
「広域刑事警察機構準備室所属艦、航宙駆逐艦戦隊司令ナオ・ブルース以下2名、招待により参りました。
乗艦の許可を求めます」
「お話は伺っております、カリン少尉。
皆様の乗艦を許可します。
戦隊司令他艦長たちがお待ちですので案内させて頂きます。
こちらにどうぞ」
俺たちは出迎えてくれた儀仗兵の責任者のような方に連れられて『鳳凰』の中央付近にある特別区画に案内された。
この特別区画とは陛下や殿下などの王室の方たちが座上する際に使われる区画で、かなり余裕をもって作られている。
いわば移動する宮殿の一部のようなものだ。
その中で一番広い部屋に案内された。
かなり広い部屋には大きな会議机が準備されており、錚々たるメンバーが俺たちを出迎えてくれた。
真正面のいわゆるお誕生日席、いや、この場合上座と表現する方が良いのだろうがそのような場所中央に我らの殿下、第三王女殿下が座っており、その左右に数人偉そうな人たちが座っている。
同様に右手にも左手にも偉そうな人たちが座っており、その偉そうな人たちが一斉に俺を睨んでくる。
え、俺今回は何もしていないぞ。
決して怒られるようなことはしていない。
俺はその場でおびえて何もできない。
そうこうしているうちに、先の俺たちを案内してくれた人が集まった人たちに俺のことを紹介している。
「航宙駆逐艦から、広域刑事警察機構設立準備室のナオ・ブルース戦隊司令とその部下のお二人をお連れしました」
彼がそういうと、カリン先輩が一歩前に出て自己紹介を始める。
「広域刑事警察機構設立準備所属艦『シュンミン』からブルース戦隊司令、『シュンミン』の副長であるメーリカ少尉、そして艦内第三席である私カリン少尉の3名、招聘により参上しました」
「今回君たちを呼んだのは君たちの上司である殿下になっているが、そんな細かい事はどうでも良いか。
私は第一艦隊司令長官を務めるボルドー上級大将だ。
あ、堅苦しい挨拶は良いか。
今回の集まりは私的なことになっているので、形式は問わない。
まあ、とりあえず座ってくれ。
あ、君たちも隣に席を用意したので座って欲しい。
ゆっくりと話さないといけない事があるからな」
殿下の右隣、殿下から見たら左手になるか、そこにいた年配のお偉いさんは、本当に偉い人だった。
宇宙軍で多分2番目か3番目に偉い人だ。
なのにかなり気さくな性格のようだ。
彼の後ろに控えている人が顔をしかめたのを俺は見た。
俺たちに席を勧めて来たので座ろうとしたら、給仕のような人が来て椅子を引いてくれる。
そんなことされたことが無いからかなり慌てたが、どうにか恥をかかずに座ることができた。
椅子に座るのにもスキルが居るのかと俺は驚いたが、隣のカリン先輩も驚いている。
その給仕役は若い士官だが、俺も顔を見たことがある人だ。
あ、カリン先輩と同期に当たるあのエリート士官養成校の先輩の人だ。
他にも幾人かの若い士官がこの部屋で給仕役をしており、
座っているお偉いさんたちに飲み物を運んでいたりする。
カリン先輩は動揺しているようだ。
そりゃそうだな。
同期が給仕する側とされる側に分かれていれば誰だって驚くだろう。
流石にカリン先輩もこれには驚いたようだった。
それにしてはする側の方には動揺は見られない。
これは事前に俺たちの情報が彼らに渡っているという証だ。
まあ正直、今回の集まりでは関係のない事だ。
飲み物を頂いて落ち着いてから会議は始まった。
最初に集まったお偉いさんたちの紹介が簡単に行われた。
殿下はともかく俺には全く面識のない上流階級に属する人達ばかり、正直紹介されても覚えられなかったが、今回右側と左側で席が分かれているので彼らの役割が何となくわかるのが助かった。
まず、俺から見て右手正面に第一艦隊司令長官、その隣に第一艦隊参謀長、左正面には無線で最初に報告のあった宇宙軍本部付き主席参謀、その隣に第四席の参謀が座っていた。
また、左手側に並んで座っていたのが宇宙軍本部からの事務方の様で、その逆側に座っているのが第一艦隊の役職を持った高級士官たちだ。
何が話されるのかと戦々恐々で待っていると、主席参謀から紹介された第四席の参謀が俺に詫びを入れて来た。
まあ、組織を代表する偉い人から軍が仕出かしたあのことに対しみそぎのための詫びを入れて来た。
とっくに殿下に対しての謝罪は済んでいるのだろうが、直接被害者である俺に対しての詫びのためにこの席が用意されたらしい。
だから非公式会合なのだろう。
しかも、本当のお偉いさんは俺のようなペーペーに詫びなどしたくは無かったのだろう。
お偉いさんの範疇で一番の下っ端?になる第四席の参謀が俺に詫びた。
これには正直俺の方が困った。
これって完全に俺に対するいじめだよな。
後で聞いた話では、殿下への謝罪の条件に軍から俺に直接謝罪することがあったとのことだ。
ひょっとして、殿下はあの件相当怒っていたのか。
それとも俺は殿下に嫌われている。
そう勘繰りたくなることだった。
これって俺にとってトラウマにならないと良いけど。
まあ謝罪が済んでから、これからのことを聞いたがとにかく教育機関としての補給艦護衛艦隊の扱いについて、それぞれの艦隊から軍本部直属にすることが急遽決まり、今回このエリアに展開中の護衛艦隊の引き取りのために軍本部から人が派遣されたとのことだ。
それ以外にも大々的に改革が進行中だが、これ以上はすぐにどうこうなるようなことは無いそうだ。
そんなために派遣されてきたのだが、今回の大捕物の報告を殿下から聞いた関係者は一様に驚きその対応についての協力を申し出て来たとのことで、俺が呼ばれたという。
これ程の成果に対して軍がのけ者になるのはまずいとのことだ。
どうしても共同作戦の体は取りたいとのこと。
既に殿下とも話がある程度まとまっているそうなので、俺はその案にただ同意するだけだった。
今回殿下の案ではデブリの片づけに協力してもらい、共同しての成果として発表することになっていたが、敵拠点が判明したとの情報を俺から聞いたことで、急遽話し合いの場が持たれた。
そうこうしているうちに、第二機動艦隊がこのエリアに到着したので、第二機動艦隊の司令もまた、『鳳凰』に呼ばれ、今後について話し合いが持たれた。
殿下の強い要望もあり、拠点制圧に関しては指揮を第二機動艦隊の司令が取り、軍から3隻応援として派遣される。
また、現在第一巡回戦隊が奮闘中のデブリについても軍から3隻が応援として派遣され、ここも軍が残りを引き受けることで話がまとまった。
本当に一部の人が原因で宇宙軍が海賊相手に関して面目を完全に失った格好だが、元々軍も海賊相手ではそれほどやる気があった訳では無いので構わないのではと思っていたが、実はそうでもないらしい。
特に先の臓器売買に関して、かなりの貴族とそれに通じる高級軍人が海賊と関与していることが判明してからは、やっきになって軍は海賊を取り締まっている。
宇宙海賊は辺境に居ればいるほど、最大の脅威で、その対応については、国民の最大の関心事だ。
そんな海賊と通じて悪さをしていたのだから、今の宇宙軍と貴族連中は国民からの信用を失いかけている。
ある意味王国の死活問題になっているのだ。
それだけに今回の件ではどうしても軍も活躍することが求められている。
王国最大の海賊の一つであるシシリーファミリーの壊滅作戦になりうる今作戦に、不参加は絶対にありえないのだ。
同様にコーストガードも民間船を犠牲にした作戦を実行したことが一部ではあるが国民に知られている。
どこも今は余裕がない。
それだけに今回の殿下のような無茶な要求もすんなりと受け入れられたという訳だ。
軍を作戦に参加させることなら別に構わないのだが、殿下がわざわざ政治力を使ってまで俺に軍のお偉いさんからの謝罪をさせることなど、必要なかった。
これはきっと殿下の俺に対する懲罰なのだろう。
あのスペースコロニーの時には俺のことを優しく支えてくれたのに、何があったのか。




