船内探検
え?
ここならさすがに俺でもわかるよ。
と心の中で訴えると、彼女はさも得意げに言い放った。
「隊長、まずここから説明します。
とっておきですよ。
まず普通は来ない場所に案内します」
そう言われて連れて行かれたのは、この格納庫から船の両舷にあるカタパルトに向かうルートだった。
「ここはですね、艦長でもまず来ない場所で、収納されたファイターが発進するときに通る場所です。
ここから専用のクレーンで運ばれ、あの扉にあるカタパルトに乗せられます。
その後発進直前にあそこのハッチが開き、電磁カタパルトで外に出されます。
でですね、ここから後部甲板にある第三砲塔管制室に行くのに近道になります」
そう言って、どんどん狭い階段を上っていく。
非常口のような小さな扉をノックして中に入っていく。
「こんにちは~」
「おお、嬢ちゃんか。
今日は何だ」
「えへへへ、今日は私たちの隊長を連れて来たの。
紹介するね。
隊長」
「あ、ああ。
仕事中悪いな。
昨日付けで第2臨検小隊の隊長に赴任してきたナオ・ブルース少尉だ。
何かあるかは分からないがよろしく」
「あ、すみませんでした、少尉」
と言って中にいる兵士が敬礼をしてくる。
俺は訳も分からずに作業中の兵士の邪魔をしているのを気にしているが、マリアは全く気にもせずにどんどんほかの場所に向かう。
どこも同じような感じで紹介して回るが、なぜか、普通じゃ通らないルートで、まず、その分野で専門職でもなければ一生縁のない場所ばかり連れて行かれる。
やたらニッチな場所ばかりかと思ったら、やっとメジャーな部署にも連れて行ってくれた。
しかし、どこでも同じような感じで、少々肩身が狭くなる。
無線室やら航法室やら、艦橋ですら同じ対応だ。
流石に医務室を出たら終わりかと思ったのだが、やたらとテンションが上がっていく。
「隊長、最後に私の師匠を紹介しますね」
「どこに連れて行くのか。」
「機関室です。
あそこの機関長が私の師匠なのです」
やはり彼女は根っからのメカフェチだった。
彼女の師匠が同じ船に乗り合わせているようで、俺に紹介したいらしい。
医務室から、多分一番遠くにある機関室に向かう途中で、この船のスペックをしゃべりだした。
いったいどこのどいつがそんな詳しいスペックを知りたいのかと思ったが気持ちよくしゃべっているので、素直に聞き流していた。
「隊長。
この船は古いですけど、その艦暦は凄いんですよ。
この国最初のフリゲート艦という種類が採用された時の3番艦なんですよ。
今から60年近く前に建造され、44年前に軍ではお役御免となり、コーストガードに回された艦です。
古い艦ですが、あのブルース提督の護衛艦を務めたこともある由緒ある艦です。
この船は全長105m
全幅 10m
定員 155名ですが、どこも人手不足ですし、何よりこの船要らない子の集まりなので、定員数が揃ったこと無いですね。
今は、確か134名だった筈です。
あと、搭載艦載機は護衛ファイターが後部格納庫の有る2機で、あと武装内火艇は1挺
後々、ああ、そうだ、この船の最大船速は通常航行で時速2AUまで出せて、異次元航行ではレベル3まで出せます。
この船は古いですが、私の師匠が精魂込めて整備していますから、ひょっとしたらレベル3.5くらいは出るかもしれませんよ」
「オイオイ、無茶言うなよ。
そんなに出したら船がばらけるよ」
「え、え~~。
そんな悲しい事言わないでくださいよ、師匠~」
「で、今日はなんだ」
「あ、そうだ、隊長。
この人が私の師匠。
機関長のチーコフ少尉です」
「初めまして、この度あなたの弟子のマリア曹長の上司に赴任しましたナオ・ブルースです」
「ああ、昨日聞いたよ。
で、今日は何だ」
「はい、今日はマリアに船の案内を頼み、案内してもらいました」
「そうか」
「師匠、この船、本当にレベル3でないのですか」
「エンジンの出力だけで考えれば出せなくもないが、そんなに出したら船が持たない。
ばらけるぞ。
そもそもこの船のエンジンは今まで3回載せ替えていて、今のエンジンは15年前に作られた第3世代のフリゲート艦のエンジンを5年前に載せ替えたものだ。
それこそエンジンの性能からはレベル3.5くらいは出せても不思議はない。
だが、船体の基本構造はそのままだぞ。
無理に決まっているだろう」
「も、もし艦長が命令したらどうしますか」
「そん時は副長にお願いして命令を取り消してもらうわ」
「え~、あの艦長は聞かないよ、多分」
「ああ、その時はエンジンが故障してレベル1以上は出せなくなるかな」
「ああ、そうなんだ、でもちょっぴり残念ですね」
「まあ、若いものがスピードを求める気持ちは分かるが、だいたい異次元航行なんかレベル1でもレベル10でも船の中にいたら分からないだろう。
せいぜい航法室の座標が変わるだけだしな。
それに、このコーストガードには必要ないだろう。
いったいどこで出すというんだよ」
「それもそうですね。
でも、凄いでしょう、この師匠は」
「ああ、話を聞いていると、本当に凄いのが伝わって来るよ。
若輩ですが、よろしくご指導ください」
「俺に教えることなんかないよ。
それよりも若いな。
同じ階級なのにこんなに年が違うのなんか、ちょっと違和感があるかな、いや、そんなんじゃないな。
そもそもあんたのような若者がここに居て良い筈ない。
できるだけ早く軍に戻れよ。
それが国のためになる」
「ありがとうございます」
「これ以上師匠の仕事の邪魔していたら怒られそうだから、もう行くね」
「ああ、それよりもメーリカ姉さんにきちんと謝って仕事をさせてもらえよ」
「私、そんなんじゃないもん。
今仕事中だし」
「ああ、分かった、頑張れよ。
あんちゃんも初陣なんかで怪我などするなよ」
「ありがとうございます。
マリア、行こうか。
これ以上邪魔しても悪いしな」
「ハイ、ではまたね、師匠。」
俺らは、後部格納庫に向かった。
この巡回で、すっかりマリアの性格を掴むことができた。
この娘は間違えなくメカフェチだ。
重度のオタクと言い換えてもいい。
でも、俺は嫌いじゃないし、一緒に回ったことですっかり仲良くなった。
一緒に歩いていると、マリアが猫なで声でお願いしてきた。
仲良くなったのを良い事に何か無理難題を言ってくるのかと警戒をしながら聞いてみた。
「隊長、あの~、お願いがあるのですが」
「お願い?
なんだ。」
「あのですね、今度の作戦から内火艇に私物を積んでいきたいのですが。」
「私物?
何だ?」
「私物と云うかお守りみたいな物なんですが」
「お守り?
一々断らないといけない物か。」
「お守りと云うか携帯武器なんですが、公認武器じゃないんですよ。
私たちのお守り代わりということで、積んでいきたいのです。
積んでも構わないですよね」
「ペイロードは大丈夫か。
作戦に支障が無い限りかまわないが」
「大丈夫です。
携帯武器ですので、個々人が持ち運べますから。
邪魔にしません、大丈夫です」
「なら構わないよ。
何か書類でもいるのか」
「要りません。
要りませんがメーリカ姉さんに何か言われたらきちんと隊長も許可したことを言ってくださいよ」
「ああ、分かった」
そんなたわいもない話をしながら後部格納庫に戻った。