どうにか馴染めそう
そんないわくの有る船に乗りたい奴なんかいない。
と言う訳で、コーストガードではみ出した連中がここに集められる。
そんなわけでこの船は掃きだめとか要らない子だとかと言われる。
そんな説明を受けたのだが、俺から見たら、ここにいる連中だけはかなりできそうな者と見える。
まあ、切り込み隊と言われる臨検小隊の隊員が女性だけというのも今の説明から何となく理解できた。
特にメーリカ姉さんと呼ばれるくらいの女丈夫である准尉なんかある意味使い難かろうとは思う。
この後、この周りを見て回りながら雑談を通して、かなり詳しい話も聞けた。
結局この船の乗組員は一癖も二癖もある連中だが、決して要らない子ではなさそうであった。
要は艦長たち上層部にとって使い難い者たちの配属先になっているだけだ。
それも、どうも話を聞く限り、軍からの出向者にとってという話の様で、優秀な人も多そうだ。
少なくとも、ここにいるファイターのパイロットなんか宇宙軍でもエースを張れるかもしれないという話だ。
これは彼に心酔している整備士からの情報で、話半分で聞いているが、それでも凄い。
そんな雑談をして回ったので、思いのほか時間が潰せた。
准尉の計らいで、分隊長をしているマリアが船内の俺の部屋に案内してくれた。
後部ハッチに近い格納庫のわきにある、決して綺麗な部屋ではないが、それでも士官であることから割と広めの一人部屋を割り当てられている。
この部屋に入り、私物などを簡単に整理していたら、館内電話で艦長から呼び出された。
夕食のご招待だそうだ。
と言っても上下関係の厳しい軍隊内にあって、艦長からの招待はそのまま出頭命令でもある。
俺は殆ど何もすることも無いので、士官食堂に向かおうとしていた。
どこの船も構造はそう変わりはないので、士官食堂なるものがだいたいどこにあるかは見当が付くが、それでも少しは心配はある。
誰か近くで兵士でも捕まえてと思っていたらドアをノックされた。
先ほど世話になったメーリカ姉さんこと准尉が部屋の外にいた。
「隊長、この船初めてだろう。
士官食堂まで私が案内してあげるよ」
「それは助かった。
正直どうしようかと思っていたんだ。
ありがとう世話になるよ」
「なに、私も一応准尉という名の士官なもので、呼び出された口だ。
こんな事でもないと、あそこには近づかないよ。
できれば艦長なんかの顔を見たくも無いので」
「ああそうなんだ。
あ、でもそれなら普段はどうしているの」
「だいたい後部格納庫脇にある休憩スペースでみんなと食事しているね。
あそこはパイロットの待機場所でもあるので、食事もできるようになっているんだ。
士官食堂より断然居心地がいいよ」
「それは良いことを聞いた。
どうも俺もお荷物のようなので、できれば要らない摩擦は避けたいしね。
しかし、今はそうもいかないだろうしな」
「それもそうだね。
なら遅れないようにいくとしよう」
二人連れ立って、艦の中央付近にある、士官食堂に向かった。
俺らはかなり遅く着いたようで、俺らが着いてから5分と掛からずに艦長がやってきた。
「諸君、待たせたな。
乾杯の前に、紹介したい。
ブルース少尉、起立してくれ」
「は」
俺は艦長に指示されて、その場で気をつけの姿勢を取った。
「そう固くならずとも好い。
諸君に紹介しよう。
今日付けで第2臨検小隊の小隊長に配属されたナオ・ブルース少尉だ。
よろしく頼む」
艦長が俺のことをこの船にいる士官全員に紹介してくれた。
「少尉、自己紹介を。」
「はい、本日付けで第2臨検小隊の隊長に配属されましたナオ・ブルースです。
先日首都の士官養成校を卒業したばかりの若輩です。
諸先輩方のご指導よろしくお願いします」
すると、周りがざわつきだした。
「え、あれがそうか」
「彼が噂の少尉か、大丈夫か」
「かわいそうに、エリート養成校を出たんだろう。 何でこんなところに回されるのかな」
などなど、聞こえてくる話はあまり良い印象のないものばかりだ。
「まあ、彼のことは追々理解していけば良いだろう。
まずは彼の赴任を乾杯で祝おう」
「「「乾杯」」」
「それでは食事前に、報告がもう一つある。
既に噂等で知っているかと思うが、いよいよ明後日から、あの菱山一家相手の討伐作戦が始まる。
そこで、ただいまをもってこの船は作戦前待機に入る。
我らの行動については明後日出航後に作戦参加の艦隊がすべてそろった時に命令を貰うことになる。
皆の奮闘を期待する」
艦長の報告から会食は始まった。
俺はメーリカ准尉から、この船の副長を紹介された。
「隊長。
この船は実質副長が指揮しています」
そう言われて紹介されたが、かなり年配の苦労人と云った感じの大尉だった。
もうすぐ、定年を迎えるとかで、今回の作戦が最後になるかもとうわさされている人だった。
まあ、この後あまり接触のない部類の人でもあるので、これと言ってあまり話もしなかった。
まあとりあえず和やかな会食だったような気がする。
一応、一次会で俺はメーリカ准尉とこの場を離れたので、その後についてはあまり知らない。
ただ、今回の会食で一つ分かったことがあった。
正直軍からの出向組は評判が悪い。
なにせ、艦長が完全に一人浮いていたし、メーリカ准尉の説明にあったようにこの船はあの何とか云った副長で持っているのだろう。
しかし彼ももうじき船を降りることになりそうなので、この先に未来が見えないがどうしよう。
あ、関係ないか。
それまでに俺が殉職すれば関係がなくなる。
今度の作戦、実はひそかに期待している。
現場経験の無い俺がいきなり海賊相手だと、これはもう事故案件だよ。
メーリカ准尉たちを巻き込まないようにすればいいだけだ。
俺は自室に戻り、やる事もないので、今日は早々と寝ることにした。
翌日は、学生時代からの習慣もあり寝坊することなく割と早めに起きることができた。
部屋でのんびりとしていたら部屋の扉をノックされた。
誰かと思ったらメーリカ准尉の部下になる、いや、俺の部下か、分隊長のマリアがドアの前にいた。
「おはようマリア曹長。
何か用かな」
「おはようございます、隊長。
今日は私が隊長のお世話をいたします。
艦内を案内しますので、ご一緒してください」
昨日も世話になったマリアが部屋に来て、今日一日俺を案内してくれるというのだ。
これは正直助かった。
どこも軍艦の作りは同じだと思っていたのだが、流石にこれほど古い船は見たことも無かった。
一度じっくり船内を見て回りたいと思っていたのだ。
「ありがとう。
でも君の仕事は大丈夫か」
「あ、はい。
大丈夫です」
その後非常に小さな声で「お前は要らないことばかりするから、今日だけは近寄るなと言われた。」と言っているのが聞こえた。
やはり彼女はメカフェチのようだった。
時間があればとにかく何かいじっていないと気が済まない性格のようだ。
さしづめ彼女の部下がメーリカ准尉に頼んだのだろうことは容易に想像がつく。
「なら安心だ。
では今日一日案内を頼む」
「ハイ、任せてください」
と返事がきたのだが、最初に案内されたのが、後部格納庫であった。




