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初めて持つ部下たち


 俺は訳も解らず、言われたとおりにダスティー艦長の後に付いていった。

 管理棟を出ると、すぐに駐車してあるカートの一台に乗り込み、艦長自らの運転で、駐機場の最奥に向かった。


 官民共同の宇宙港だ。 

 とにかく広い。

 カートに乗って20分ばかり走った後にかなり年代物の航宙フリゲート艦が2隻見えてきた。

 前に見えるのが第三巡回戦隊の船だろう。


 艦長はそのまま2隻あるうちのより古いフリゲート艦の方に向かった。

 まあ、第三巡回戦隊と聞いたし、そもそも巡回戦隊は3つしかないので、一番下っ端の船なんだろうとは思っていたが、それにしてもかなり古い船だ。

 

 俺の気持なんかまったく気にすることなくカートはその船の中央部近くに止まった。


 航宙フリゲート艦『アッケシ』の周りでは忙しく積み荷の搬入などの作業が行われている。


 艦長の存在に気が付いた者たちが声を上げる。

 「艦長に敬礼」

 すると周りの者たちは一旦作業の手を止め敬礼をする。

 ダスティー艦長は返礼をした後に作業の続行を促す。


 みんなが作業に戻ったのを確認後艦長は歩いて、フリゲート艦後方にある格納庫に向かっていく。


 今、出航に向けとにかく大量の荷を船に搬入している。

 後方の格納庫ハッチは、その搬入作業の玄関口だ。

 色々な作業車が次から次にハッチに向け移動しているが、このハッチは、本来はナオの指揮する武装内火艇のための物で、今のように搬入時には内火艇は邪魔になるという理由で、格納庫から外に出されている。


 その外に出された内火艇の周りで女性ばかりが多数作業をしている。

 内火艇を整備している者、自身の武装の手入れをしている者、その他訓練をしている者とバラバラだ。

 艦長はそんな女性たちの方に向かっていた。


 「第二臨検小隊の諸君。

 悪いが作業を止めて集まってくれ」

 艦長の言葉を聞いて一人の女性が声を掛けた。


 「おい、集合だ。

 整列。

 艦長に向け敬礼」


 「ああ、そのまま楽にしてくれ」


 「休め」


 「ブルース少尉。

 こちらに」


 「はい、艦長」


 「みんなに紹介だ。

 長らく小隊長不在だった第二臨検小隊に小隊長が赴任してきた。

 彼がその隊長だ。

 少尉、自己紹介を」


 「軍より出向してきたナオ・ブルース少尉だ。

 経験は君たちより劣るが、私が君たちの隊長を務めることになる。

 よろしく頼む」


 俺の自己紹介で、周りが少々ざわついたのは何故だか分からないが、艦長の咳払いですぐに落ち着いた。


 「そう言う事だ。

 以後は少尉の指示に従ってくれ。

 ああ、明後日の出港が正式に決まった。

 なので明日までには準備を終わらせておけ。

 いいな。

 では解散」


 「では少尉、夜には他の士官たちを紹介するが、それまでは君の部下の監督をしていてくれ」


 「ハ、判りました」


 そこで初めて俺は一人で放り出された。

 しかし困った。この後どうすればいいんだ。

 俺はやることが分からないので、とにかく周りの観察に努めた。


 一旦船が宇宙に出れば、後部ハッチは内火艇の出入り口と同時に護衛ファイターの収納もする。 

 護衛ファイターはその任務上船より発進する時には両舷にあるカタパルトを使用するが、帰還時にはこの後部ハッチより収納する。

 そのために、臨検小隊とファイターパイロットやその整備員とは後部格納庫を共同で利用するために、比較的仲が良く、今は臨検小隊員たちの近くで2機のファイターを整備員とパイロットが整備している。

 先に艦長からは臨検小隊員に対してだけ紹介されたが、一応ご近所ということもあり、俺はそのファイター関係者たちに挨拶に向かった。


 近づいていった俺に気が付いた一人の整備兵が、いきなり作業の手を止め、敬礼をしてきた。

 「少尉、何か御用ですか」

 用はないな。

 どうしようかとしていたら、先ほど艦長に紹介された時に号令をかけていた女性が俺の傍までやってきて、声を掛けてきた。


 「やれやれ、そんなんじゃ埒も明かないだろう。

 お~い、悪いが集まってくれ」


 「「なんだなんだ」」


 「メーリカの姉さん。

 何か面白い事でもあったのか」


 「ああ、うちに小隊長が赴任してきた。

 ナオ・ブルース少尉だ。

 悪いがよろしくやってくれ。」

 

 どうも臨検小隊を今まで面倒を見ていたメーリカ准尉は後部格納庫の顔と云うかボス的存在だったようで、彼女が一声かければ皆嫌な顔をせずに集まってきた。


 どうもここ後部ハッチ付近では最高位でもあり、いや彼女の人望だろう、メーリカ准尉はみんなから人気がありそうだ。


 「ありがとう准尉。

 作業中申し訳ない。

 今、准尉から説明があった、第2臨検小隊の隊長に赴任してきたナオ・ブルースだ。

 階級は首都宙域警備隊少尉を拝命している。

 見ての通り、学校を出たばかりのずぶの素人だが、それなりに訓練だけはしてきているので、せいぜい足手まといにはならないようにするので、よろしく」


 初対面の面々に向かって上位者としては如何なものかとクレームの付きそうな挨拶をしてしまった。

 でも、事実だし、ここで格好をつけてもメッキがすぐにはがれるのなら、初めからメッキをしない方が良い。


 俺のあいさつの後、周りを見渡しても、それほど感触も悪くはない。


 「ひゅ~、隊長言うね。

 気に入った」

 

 「メーリカ姉さんの云う通りだ。

 軍から来たと聞いていたから偉そうな奴が来るものとばかり思っていたが、いい感じだね」


 「それよりあんたが噂の少尉というやつか」


 「噂?

 何だいそりゃ~?」


 「え?

 姉さん知らないのか。

 軍でも、ここコーストガードでも持て余したと言われるやつだよ」


 「え?

 あんた、いったい何をしたんだ。

 そんな大物なのか、隊長は」


 「全く身に覚えがないけど、どんな噂なのか」


 「いえ、あっしもそれ以上は知らないけど、赴任先を決めるのに相当に困った御仁だと聞いたよ」


 「なんであんたがそんなことを知っているんだ」


 「いとこが首都警察本部で事務員をしているんで、そこで聞いたんだ。

 コーストガードのお偉いさんも、『何で軍で持て余したやつをよこすんだ』とこぼしていたそうだよ。

 その後上層部総出で頭を抱えたとか」


 「それでなのか。

 安心したよ。

 ようこそコーストガードの要らない子の集まりへ」


 

 「准尉、何だその『要らない子』って」

 「へ?

 そうかい、知らないんだな。

 この船が皆から何と言われているかを。

 この船はコーストガードの掃きだめとか要らない子の集まりとか言われているんだ。」


 「まあ、この船の古さから見ればなんとなくわかるが、一応理由があれば聞いておこうか」


 「え?

 それをあたしらに聞くの」


 「言いにくい事なのか」


 「あまり大声では言えないけど、こっちに来てくれないか」


 そう言われて准尉について船の近くで目立たない場所に向かった。

 そこで聞いた話が、まあ予想通りと言うかなんというかという奴だった。


 これはこの国ではあまりに有名な話で先にもマークに良いうわさを聞かないと言われたのと同じで、軍から弾かれた連中の受け入れ先となっているコーストガードだが、その人数は割と少ない。

 上層部だけに限る話で、ほとんどの連中は地上勤務のお偉いさんに収まっている。

 僅か少数のみ現場部署である船に乗るが、ほとんどが戦隊司令以上の役職で、実務面ではほとんどお飾りとなるので、現場から見たら実害はない。


 しかし、どこにも例外は存在しており、俺が配属されるまでで最低位での出向となったのが、この船の艦長であるダスティー少佐だ。

 彼は3年ほど前に軍の内部である貴族が起こした事件で、ここコーストガードに出向させられた口だ。

それまでは軍の内部で割と幅を利かせていた貴族に連なる一族で、彼自身も軍の内部で割と好き勝手をしていたそうだ。

 3年前に起こった事件で貴族は失脚してダスティー少佐、当時は大尉であったが後ろ盾を失ったそうだ。

 それまでダスティー少佐の周りには黒いうわさも絶えなく、主に横領と収賄であったようだが、証拠が無くて処罰できなかったという話だ。

 そんな人をいくら掃きだめと言われるコーストガードでも、事務職には付けられないので、たたき上げからの艦長が多かったコーストガードでこの船だけが軍からの出向者を艦長として受け入れたと言う訳だ。


 俺から言わせればそんな危ない人を艦長にしても大丈夫かと言いたいが、そこはコーストガードも考えているようだ。

 3年前の事件でとばっちりを受けて同時に出向に出されたのが今の戦隊司令のポットー中佐だという話だ。

 そう言った経緯もあって、艦長と司令との仲は最悪だとか。

 かなり厳しく監視されているので、ここでは悪さはできないとも聞いた。



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