青春ってすっぱいんですね
「スライムさん! ごめん!」
おばあちゃんとスライムの距離が3メートル程に差し迫った時、俺は謝りながら両手で力強くスライムを突き飛ばした。
しかし接触した瞬間、俺の手はそのそのぷにゅぷにゅ体に吸い込まれるように衝撃が吸収され――
(あれ? これ気持ち良いかも!?)
とか今感じることじゃねえよな? とか思っていた瞬間、今度はその反動で俺の方がぶっ飛ばされた。飛んだ先がゴミ収集のゴミ袋が集積した場所だったから怪我はなかったものの、一歩間違えて車道に飛ばされていたらと思うとゾッとした。
「あら坊や、大丈夫かい? 」
おばあちゃんにも心配されてしまった。
しかし、まだ脅威は去っていない。
あろうことか、おばあちゃんは俺に手を差し伸べようと接近してくる。それは、スライムとの距離を縮めていくことになる。
どうする? おばあちゃんがぶつかったら俺の二の舞になる。なんか触っても跳ね返される。物理攻撃は効かないってことか?
…そうだ! 俺はあるラノベで読んだことを思い出した。
そして、早速実践してみることにした。
作戦は簡明。
おばあちゃんに貰った【猛烈すっぱレモン汁】のキャップを開けると、そのままスライム目掛けて投擲した。
「頼む! 効いてくれ」
直撃するや否や、スライムに命中した箇所から体が溶けだしていく。
やっぱりだ。ラノベではレモン汁に含まれるクエン酸がスライムを構成する分子結合を阻害するとか言っていた気がする。
「おやまあ。酸っぱいのは嫌いだったかのう?」
「あ、いえ、そのー」
スライムが見えていないおばあちゃんにとっては訳の分からない光景だっただろう。
いきなり目の前で盛大にすっ転んでゴミ収集所に突っ込み、起きたかと思えば上げた飲料水をぶち撒かれるという。
ともあれ、スライムはだんだん溶けていき、最後は地面に広がるようにして沈黙した。撃破した。でも、害のないスライムを一方的に葬った感が強く、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめんなさいスライムさん! ごめんなさいおばあちゃん!」
走った。俺は全力で走った。
今日は俺にとって猛烈すっぱレモン汁のように涙味のすっぱい青春の1ページになったのであった。