初アルバイト
げんむ生物ほにゃらら本部とか言っていた。
ふざけた会社名で不安しかない。
電話では
「じゃあ、6時に大観音に。受付に『入場券1億枚くれろ』って言えば通すようにしとくんで」
とだけ言われた。
色々質問しようとも思ったが、『まあ、そこは来てから話すんで』とすぐに電話を切られてしまった。
随分感じの悪い対応であった。
しかし、俺には選択の余地はない。アパートから追い出されない為にも、どんな困難だって立ち向かわなければならない。
大観音。家から歩いて20分程度にある、この街のシンボル的観光スポット。
この街で迷ったらまず大仏を見ろとはよく言ったもので、どこからでも見えるくらいでかい。
(なんかタッパのやべえの居るな)とは思っていたが、こうやって大仏の足元までくるのは初めてだった。
案内を見るにどうやら中は空洞で入れるらしく、観音様のお目目部分から見える眼下の景色は絶景だとか書かれてあった。
中に入ると早速受付の人に
「あのー。チケットそのー、あのーい、いち、いちお、いちおく?枚ください……みたいな? ははは」
自分で言ってて頭湧いてるなと思う。しかも、受付の女の子は20代前半の美人のお姉さんだ。
見てる。めっちゃ見てる。首を傾げだした。まだ見てる。なんか言って。なんか言ってよお姉さん。
「えっとー。そんなに売れません。えへ」
そりゃそうだーーーーーーーー!!!!!
「ですよねー? し、失礼しますーーー」
俺は顔面が真っ赤になるのを感じた。
やりやがった。あの脳筋ひだりみぎ野郎。
しょうもないイタズラしかけやがって。
この逼迫しているこの状況に、事情もよく知らないであの野郎。
絶対あとで焼肉奢ってもらう。許さん。
「ははははー。いやー冗談ですよ冗談。大観音ジョークっていうやつですから。あのーそのー。帰ります。出口どこですか?」
「出口はそこです。またのお越しをお待ちしてますね。えへ」
店員に促されるまま出口へ向かう。
絶対このあと裏口叩かれる。『さっきさ1億枚くださいとかめっちゃかましてくるガキいてさー』とか、陰で『1億君』とか呼ばれるに決まってる。
俺はやるせない気持ちになってドアを開けて外に出た。
いや。出ていなかった。ドアを抜けた先はまだ屋内だった。
薄暗い照明の元、一直線に廊下が伸びている。
錯乱して間違ってドアを開けたものと思い、引き返す。
しかし、入ってきたドアは開かなくなっていた。
まったく何の冗談だ? どこまで手の込んだイタズラだ?
前に進むしかないので、そのまま10mほど進むとエレベーターが開いた状態で待ち構えていた。
入れってか。進む道もないのでエレベーターに乗り込むと自動でドアは閉まり、ボタンを押してもないのに勝手にエレベーターが動き出した。
体感的に下がっていると思われた。
1分ほど経過するとエレベーターは止まり、ドアが開いた。
そこからまた薄暗い廊下が奥に続いていた。
行き止まりまで行くとドアが1枚。
開けて中に入った。