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ブレスロード 封印学園  作者: 真中砦
入学試験編
5/5

第4話 藍紗=ナイト

連続投稿4話目

 特装研から送られてきたレポートによれば、多少誤差はあるものの、装備者の能力の大小にかかわらず約5割まで力を抑え込むことができる仕様となっていた。

 だが、


「イヤ!」


 大方の予想通り、藍紗は見えない檻(エアケージ)の装備に難色を示した。

 今まで力を抑えることでストレスを溜めてきただけに当然の反応である。

 とりあえず効果を確かめたかった学園は藍紗と同等の力を持つ迅雷に装備させて反応をみた。


「負担は特に感じません。ただ、普段100出せる力を強制的に50にする事で意識とのズレというか、違和感が残りますね」


 昨日まで100mを10秒で走っていた者が全力を出しているのに20秒かかってしまい首をひねる。そんな感じだろうか。

 元々自身の力のコントロールに長けた迅雷であるので傍目には効果がよく見えない。


「慣れればその違和感もなくなるでしょう」


 実に前向きな意見だったのだが、それも藍紗が装備してくれなければ意味がない。

 そこで学園は迅雷に一切の説得を任せた。しかし、


「やだ!」


 頑なに藍紗は装備を拒んだ。

 一週間に及ぶ誠意(?)ある説得の末、ようやく装備する段取りになったのだが、


「可愛くない」


 と、いう理由から再び拒否され、急遽『装飾デザイン部』に協力を要請。流行(はやり)のデザインにすることでようやく藍紗に装備させることに成功した。

 それが1週間前の出来事である。

 装備による副作用はなく、耐久性にも問題はないとの報告であったが、学園の今後の平和を左右しかねない以上、藍紗=ナイト本人によるテストが必要と判断し協力を試みたのだが、


「面倒だし、面白くない」


 と、一蹴されてしまい頭を抱えることになった。

 そこで迅雷は学園長である虎徹に条件付きのある提案をした。

 その内容に虎徹は頷いて、次の会議で採決を取ることを約束した。


「1週間後の模擬戦に見えない檻(エアケージ)を装備した藍紗を出してみるのはどうだ?」


 前途ある受験生をある意味生贄にするという内容ではあったが、追い詰められていた息吹ヶ原総合戦術学園関係者(特に教師陣)は学園長からの提案を満場一致で承認することとなった。

 迅雷が出したもう1つの提案と共に。


 藍紗にとって迅雷以外との戦闘は実に半年振りであり、楽しみで仕方がないらしく模擬戦のリング上の藍紗は満面の笑みを浮かべている。

 学園関係者からは悪魔の微笑みにしか見えないのだが、何も知らない受験生にとっては天使の微笑みに見えたのだろう。

 理由はそれだけではない。

 藍紗の格好は学園指定の制服の下に白のワイシャツ。青地に紺のチェックのミニスカート。そこから伸びた健康的な脚線美もまぶしく、足元は白いソックス。何より驚くべきは履いている靴がローファーである。

 更に藍紗は手を後ろに組んだままで武器の類は見当たず、ただの女子高生がその場に立っているようにしか見えない。

 ゴツイ装備で身を包んだ他の在校生達と比べると、明らかに彼女の姿は周囲から浮いていた。

 やがて、多くの受験者達の視線を集めている彼女の前にやってきた受験者の彼は思わず、


「やったぜ!」


 と、喜びをあらわにした。

 軽い足取りでリングへ向かい、藍紗と正対するなり、


「いやぁ、どんだけゴツイ奴が相手になるかと思ったらこんなカワイイ娘が相手でラッキーだったよ。さっきアンタの弟って奴がいてさ、アンタが相手になったらさっさとギブアップしろだってさ。笑っちゃったけど、弟としてアンタが心配になったんだろうな。いきなり俺みたいな強い相手に当たっちゃったらそりゃ心配にもなるわな」


 焔の後ろにいた馴れ馴れしい少年だった。

 目の前の藍紗の姿に自分の勝利を確信でもしたのか、楽な相手だと思って緊張から解き放たれた反動なのか、元々の性格なのか、理由は分からないがペラペラと喋りまくる。

 焔の名前に一瞬ピクリと反応した藍紗だったが、その場は黙っていた。

 他のリングにも受験生が呼ばれていき、全員が配置されていよいよ模擬戦開始という直前。


「女の子をいたぶる趣味もないしさ、さっさとギブアップしてくれると助かるんだけどなぁ」


 少年は自分の犯した過ちの重大さに全く気が付いていなかった。


「それでは模擬戦開始!」


 審判の高らかな声が響き、得意の得物なのだろう、少し細めの片手剣を握り、少年は構えをとった。

 だが、何かがおかしいことに気がつく。

 すでに開始の合図が出されたはずなのに、どのリングでも戦闘が行われていなかったのだ。

 まるで藍紗のいるリングを取り囲むように配置された残り49のリング。そこにいる全ての在校生が少年の方をじっと見つめていたのである。

 その場の異様な空気に、他の受験生も動けず固まっていた。


「な、何だよ・・・」


 いきなり、訳の分からない状態に追い込まれ、少年の額から一滴の汗が落ちる。

 よく見ると、どの在校生も同じ表情をしていた。

 捨てられた子犬でも見る様な、憐みと同情を含んだ表情である。


「・・・いたぶる・・・?・・・・・あたしを・・・・?・・・・・・ギブアップしろだぁ?」


 小声だったのでよく聞き取れなかったのだが、少年は目の前の少女がブツブツと何か言っていることにようやく気付いた。

 そして、さっきまで可憐な笑顔を見せていた少女の顔が怒気に溢れていることにも。

 本能的に危険を感じて構えを取り直したのは褒めるべき所だが遅すぎた。


「誰に向かって言ってんだぁぁぁぁぁぁ!」


 藍紗が咆えた刹那、少年の足元が爆発した。

 正確には足元から10本の糸が地面を突き破って少年を襲ったのだ。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 いきなり視界の外から襲われた少年は空中へ投げ出される。

 それでも何とか体勢を整えて着地した少年は闇雲に剣を振り回す。


「!?」


 妙に軽い手応えに、少年は握っていた得物を確認した。

 さっきまであったはずの刃は根元から断ち切られて地面に転がっていた。

 知らないうちに武器を奪われ、少年はパニックに陥る。

 なりふり構わずその場から逃げようと後ずさりした時、背中に硬い感触。


「なっ!」


 驚いて少年が背後に目を向けると、あるはずのない壁が彼の行く手を遮っていた。


「逃がさないから♪」


 気が付けば、20メートル四方のリングを囲うように地面から突き出た柱が幾重にも連なっていた。

 生まれながら地の属性を持つ藍紗の得意とする竜言(ソング)地竜槍(アル・ソーン)』である。

 地竜槍(アル・ソーン)は地の竜言(ソング)の中でも基本的なレベルの低い術であるし、藍紗が他の属性だったとしても使うことに何の不思議もない。

 目の前の少女が詠唱さえしていれば・・・。

 いくら少年がパニックになっていたとはいえ詠唱の声を聞き逃すハズがない。

 聞き逃したのでないとすれば・・・・。


「サ、無詠唱竜言使い(サイレンサー)・・・・・・・・」


 竜言(ソング)は同じ術を唱えても術者の練度によって威力や詠唱時間が異なる。熟練した者ほど詠唱時間が短く、威力も高くなる。

 そして、突き詰めると詠唱なしで発動させることもできる。

 しかし、レベルの低い術とはいえ無詠唱の域に達するまでは常人であれば大体10年以上の練度を要する。

 かといって練度を上げたとしても、その域に達することができないまま生涯を終える者が圧倒的多数を占める。

 そのように少年は教えられていた。


「ははっ・・・」


 退路を断たれ、乾いた笑いと共に再び藍紗の方を向いた時、そこにはまた笑顔があった。


「バ、バケモノ・・・・・・」


 少年は目の前に立つ少女の恐ろしさをようやく理解した。

 その瞬間。少年は精神(こころ)が折れた。

 そして、1年前と全く同じ光景が同じ者の手で展開される。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 耳を覆いたくなる様な悲鳴が会場に響き渡る。

 だが、その声の主は柱に囲まれて周りからは見えず、その分周囲に与える恐怖は増大する。

 まるで、舞うかの様に藍紗は両手を動かし続け、その度に少年の悲鳴が上がった。

 やがて悲鳴が聞こえなくなり、少年を囲んでいた柱が崩れ落ちる。

 中から現れたのは糸に吊り上げられボロボロになった少年であった。

 少年は糸によって身に纏っていたモノを全て切り裂かれ、地面に叩きつけられた。

 素っ裸にされた少年は無残な姿で気を失っていた。

 開始の合図からわずか30秒弱の出来事である。


 模擬戦開始前。背後にあって見ていなかった藍紗の手を観察すると、左右のスラリと伸びた全ての指に銀色の指輪がはめられており、その外側中心部分から糸が伸びていた。

 それは斬糸と呼ばれる細く鍛え上げた糸状の刃を持つ武器で、鞭の様に叩きつけて切り裂いたり、やや太めにした先端をうまく操って針のように突き刺したりすることができる。

 藍紗の場合は両手の指から5メートルの糸が計10本。

 1本1本の糸に竜力(リーン)気力(オーラ)に変換して流し込むことで強度を増し、腕や指の動き、そして流した気力(オーラ)でそれぞれの糸を意のままに操ってあらゆる方向から攻撃することができる。

 普通、斬糸の長さは約50センチ。長くても1メートルとされる。数センチ伸びる度に習得するのにかかる時間が1年は伸びるとも言われる程扱いが難しく、しかもそれは片手での話である。

 今回は模擬戦という理由から殺傷力を抑えるために絹糸を使用していたが、これが実戦用の鋼糸であれば少年は今頃ミンチ肉になっていたかもしれない。

 ちなみに。中等部の頃に藍紗に斬糸を教えた斬糸一筋30年のベテラン教師は、指導から5分後に2メートルの糸を両手で操る藍紗を見た後に発狂して辞職した。


 藍紗の圧倒的な力を目の当たりにして会場は静まり返っていた。

 見慣れたはずの人間ですら言葉を失う位である。


「やり過ぎだ」


 傍らで審判をしていた男性教師が青い顔で冷や汗交じりに言葉を紡ぐ。


「ちゃんと手は抜いてるから大丈夫よん。水無月センセ♪」


 笑顔の藍紗を前にして若き教師、水無月=ファウレス(28歳:属性=風)はただ息を飲むことしかできなかった。

 そして藍紗の手首に光る腕輪を見て震えた。


(これで半分の力なのか・・・)と



「待たせたな。さぁ、始めようか」


 その中で我を取り戻した在校生の一人がそう言った。

 だが、目の前の受験生は青い顔をしたまま、


「ギ、ギブアップします」


 絞るような声でそう言った。

 他の受験生の結果も同様に散々なものであった。

 次に藍紗のいるリングに連れて来られた受験生も前の少年と同じく藍紗の見た目に油断し、同じ様な目にあって刹那のいる救護エリアに運ばれている。


「困った娘ねぇ」


 元気一杯に暴れまわる藍紗の姿に、刹那は深く溜息をついた。


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