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ブレスロード 封印学園  作者: 真中砦
入学試験編
2/5

第1話 息吹ヶ原総合戦術学園

プロット作るのに大分かかりました。

それでもまだ半分以下っていうね・・。

 大陸暦1998年 9月


 少年は、とある建物の前でたたずんでいた。

 その建物自体はどこにでもある校舎的な建物なのだが、周りを見ると明らかに普通の建物とは異なることが誰でも理解できる。

 魔方陣の描かれた校庭、奥には闘技場(コロシアム)風の建物、周りを囲む高い城壁に見張り台らしき物が等間隔で並び、校舎というよりは要塞に近い。

 しかし、校舎であるという確かな証拠として門柱に刻まれた言葉がある。

『私立息吹ヶ原総合戦術学園』と・・・。

 少年は意を決した表情で門をくぐり抜け、校舎へと進んでいった。


 日曜の午後。夕暮れに近い時間ということもあり校庭に人の気配は無く、静寂が支配する中で少年の足音はやけに大きく聞こえた。

 少し歩いた所で、目の前に『入学願書受付はこちら↓』と書かれた看板が立ててあった。

 少年はそれに従って進み、やがて受付らしき場所へとたどり着く。

 らしい。と言うのも、これといった表示があるわけでもなく、廊下にせり出した窓があるだけだからである。

 確信が持てないまま近くに寄ってみると、窓の向こうに誰かの背中が見えた。

 トレーニングウェアの上下を身に着けているところから当直の教師だと少年は推測した。

 小窓の脇には『入学願書はこちらへ』との張り紙がしてある。


「すみません」


 窓開けて声をかけると、中にいた人物は読んでいた雑誌を近くの机に置いて振り向いた。

 年の頃は40過ぎだろうか?鋭い視線で男は少年を見据える。

 いや、観察だろうなと少年は思った。

 学園の性質から、男も何かしらの技能を持ったスペシャリストであることは疑いようも無い。

 その証拠に動きの一つ一つに全く隙がなく、少年は見ているだけで威圧感を感じてしまう。

 震えそうになる手を抑えて、少年は『入学願書在中』と書かれた大きめの茶封筒を男へと差し出した。


「ほう、直接ここに願書を持ってくるとは珍しい。地元の子かい?」


 男は笑顔を浮かべて少年が差し出した願書を受け取った。だが、少年を見つめるその瞳には鋭い意図が込められたままである。

 少年の容姿は身長180㎝弱。幼さの残るその顔は彼がまだ中等部である以上仕方ないとして、赤みを帯びた赤竜神の加護を示す髪が実に印象的である。

 服装といえば黒のTシャツに下がジーンズ。その上からグレーのロングパーカーを着ていた。

 何よりも目を引くのは、肩越しに見え隠れしている漆黒の両手剣であった。

 男はそれを一瞥して願書へと目を通す。


「あ、これ名前書いてないよ」


 そう言って男は願書の一部分に指差しながら少年に手渡す。


「あ、はい。すみません」


 慌てて少年は願書を受け取り、借りたペンで名前を書き込むと再び男に渡した。


「はいはい、えーと・・・なんて読むの?名前」

「ホムラです。焔と書いてホムラ。焔=ナイトです」


 焔=ナイト(15歳:属性=火)その答えを聞いた瞬間、男は激しく動揺の色を見せた。


「ナイト?・・・まさか・・・・・!」


 さっきまでの威圧感はなくなり、顔色も青ざめている。

 それを見た少年は予測していた事態だったのだろう、一度深くため息をついて答えた。


「はい、お察しの通り、()()藍紗=ナイトの弟です」

「そ、そうか・・・。そう言えば弟がいるといっていたな・・・」


 姉と何があったのかはわからないが、ある程度の察しがついた焔はこう言うしかなかった。


「色々と話には聞いています。姉がいつもご迷惑をかけているようで・・・」


 深々と頭を下げる焔を見て男は冷静さを取り戻したのか、受け取った願書を封筒に戻し、焔へと視線を向ける。


「入学試験の日程は後日郵送される。その日まで精進を怠らないように頑張りなさい」


 そう言うと男は再び笑顔を見せ部屋の奥へと去っていった。

 その後ろ姿に誓いを立てる様に、焔は胸元で拳を握る。


(もちろんですよ)


 焔は踵をかえしてその場を後にする。

 その時、その様子を少し離れたところから見ていた人影があった。


「あれが藍紗の弟・・・。あの人の息子か・・・」


 そうつぶやいた後、人影の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 その声が聞こえた訳ではないが、何かを感じたのか焔は振り向く。

 だが、建物の影に潜み、気配を殺していた人影に気付くことはできなかった。

 やがて、焔の姿が見えなくなると同時に人影もその場から消えていた。


 息吹ヶ原。

 それは遙か昔、神話と言ってもいい程の時代に5人の勇者が魔王を封じたとの言い伝えが残る場所であった。

 その場所も年月が過ぎ、今では人口40万人を超える一都市として『息吹ヶ原市』の名で呼ばれていた。

 しかし、魔王が去り、人々が溢れたこの時代であっても怪物や魔物といった存在が全て消えたわけではない。

 今でも人の立ち入ることのできない場所は数多くあり、例外なく魔物達の住処でもある。

 そうと知って近づく者はいないが、魔物とて大人しくしている訳でもなく、時には近隣の村や町を襲い犠牲となる人も少なくない。

 100年程前までは各国の正規軍が常駐して警護を行っていた。

 ただし、それは中規模以上の都市であり、魔物に襲われるような辺境では有志による自警団しかいないのが現実であった。

 当然、特別な訓練を受けたわけでもない彼らの戦力はたいしたものでなく、犠牲者に名を連ねる者の大半が自警団の一員であったというのは皮肉な話である。 

 遥か昔に存在していた冒険者制度を復活してはどうか。という意見も一時期あがったが、自警団以上の効果があるのかは疑問が残るとの意見が大半を占め、結局立ち消えとなった。

 大きく変わることもなく、このままだと思われた状況が一変したのは今から50年前に起きたとある事件による。

 その事件により個人の戦力増強を目的とした訓練所が各国の援助を受けて数多く創設された。

 創設当時は男性のみが対象であったが、時代の移り変わりと共に男女問わず受け付けする様になり、やがて訓練所は総合戦術学園と名を変え、初等部、中等部、高等部、専門学部(大学)と年齢毎に細分化され、現在では幼いころからほぼ全ての者が訓練を受けることができる様になった。 

 その中でも、今から47年前に創設された息吹ヶ原総合戦術学園は、近年では5000人以上が受験する超名門校の1つである。


 その大きな要因は3つ、

 1つ目は国や一流と呼ばれる企業へ優秀な人材を数多く輩出していること。

 2つ目は竜の息吹(ブレス)を首都名にしている主要5国が運営資金を援助している為、卒業するまでにかかる学費が他に比べ格安であり、中には全額免除となる特別(エリート)クラスもあること。

 3つ目は教師陣の充実。長く平和が続いている大陸では実戦に長けた人物が少なく、各国の軍部から将校が実技教師として出向しているのは息吹ヶ原のみである。

 4つ目が、より多くの人に最高の訓練を受けてもらうことを基本理念(コンセプト)に創設された学園であるので可能な限りの受験生を受け入れている。

 一応上限として提示している人数は1000人であるが、あくまで目安であり、豊作と言われた年の合格者数が定数を超えた過去も何度かあるように、実際入学するだけならそこまでハードルは高くない。

 それにより、息吹ヶ原は超名門でありながら入学倍率が5倍程度に落ち着いているという点である。


 しかし、人の成長は早熟、晩成様々であり、実力がイマイチだった者がある日を境に急激に成長することも多々ある。

 過去に入学試験に漏れた者の中には、後に大成して名を残した者も少なくない。

 学園では、そういった人材を速やかに確保できるように各地へエージェントを派遣して、埋もれた才能を発掘する活動が近年行われるようになったため、編入する者も年に数名いる。


 そして入学試験なのだが、一部の学園を除き内容はほぼ同じで、

 第1試験:在校生との模擬戦闘。

 第2試験:基礎戦闘試験。

 第3試験:基礎体力試験。

 第4試験:基礎戦略(学力)試験

 第1から順に行い、その都度合否の判定をして、落ちた者が次の試験へと進む。

 もし、第2試験までは定数を越えても合格者数に制限を加えないが、それ以降の試験は行われない。

 第3試験は定数まで。第4試験は第3試験までの合格者が一定数に達しない場合のみ行われる。


 息吹ヶ原総合戦術学園の場合、第1試験で合格した者は前述にある学費全額免除の特別(エリート)クラスへ振り分けられる為、一般校より判定を厳しいものにしている。

 一般校では在校生でも2年生のみで対戦相手を務めるのに対し、息吹ヶ原は在校生の中から上位50名の精鋭に絞って行うのだ。


 一般校では1人当たり5~6人との戦闘で済むのだが、息吹ヶ原の受験者は桁が違う。

 第1試験は辞退者も多いので、最終的に1人当たりの人数は50人前後の相手をする。

 その受け持つ人数に、疲労の蓄積する後半に回った受験生程有利になるのではないか?という意見があがっても不思議ではない。


 過去に、模擬戦の初戦に当たって不合格となった受験生達がそれを理由に再試験を求めて訴えたことがあった。

 だが、訴えられた学園がそのことを担当した生徒達に伝えたところ彼等は呆れた顔を見せた。

 裁判で相手弁護士から


『実際に後半の疲労は相当なものでは?』


 と質問された在校生代表は証言台で


『冗談でしょう。こんなの普段の授業に比べたらぬる過ぎですよ(笑)』


 いい笑顔で言い放った。そして、


『不満があるなら今から俺が全員を相手に再試験してみせようか?条件は同じく1人5分。引き分け以上で合格。でいいでしょ?理事長』

『構わん。条件を満たせたら合格としよう』


 その後、原告の受験生107名は受験会場であった息吹ヶ原総合戦術学園の闘技場で再試験を行い、1人30秒とかからず全員不合格となった。

 後日。第1試験の合格率は前でも後ろでもそれほど差は無い事を示す詳細なデータを第3者機関が公表。

 むしろ気分屋が多いのか、前半より後半の方が合格者が多い結果となっていた。

 以降、第1試験の順番に口を出す者はいなくなった。

 ちなみに、今までの第1試験の合格率は1%以下。

 多い年で50人、合格者0の年もあったことも併せて発表された。

 

 その年の息吹ヶ原総合戦術学園入学試験の第1試験は例年にない程の語り草となる。


即時次話アップします。

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