序章
最後まで書き終えたい。そんな作品。
がんばるぞ!
状況は完全に手詰まりであった。
振り返ると多くの負傷者が横たわり、残された者が必死に治癒術を試みている。
正直な話、死者が出ていないのが不思議な位であった。
退却をするにも負傷者が増えすぎた今となっては動くに動けず、完全にタイミングを逸してしまったと言える。
援軍を呼ぶにしても、敵の位置も数も把握できていない現状では迂闊には動けない。
自分だけなら突破も可能かもしれない。だが、残された者に待つのは確実な死である以上、どうすることもできない。
本来、自分達を統率しているべき人は、仲間の一人をかばって一番の重傷者となっている。
唯一の味方であった太陽も沈みつつあり、時間と共に闇が景色を侵食していく。
思案に暮れる少年の背中に少女が声をかける。
「現在動けるのは42人中12人。でも、戦えるのはその内8人といったところね。」
「思ったよりも少ないな。」
少女の報告に、少年は苦渋の顔を浮かべる。
「治療の状況は?」
「治癒術を使えるのは私を含めて4人だけど、初歩的な術しか使えないから思った以上に回復には時間がかかりそう。1時間後に戦線復帰できそうなのは、甘く見積もって2、3人ってところかな。」
「先生の様子は?」
「意識は戻りました。でも、それだけ。移動はもちろん、動くのも暫くは無理みたい。」
「そっか・・・。」
それだけを言って、少年は少女の肩に手を乗せる。
「君も休んだ方がいい。治癒術で力を使い切っただろ?」
「ん~、まだ大丈夫。こう見えても体力あるのよ。」
そうは言うものの、明らかに疲労の色は濃く、無理をしているのが分かる。
「頼むよ。君まで倒れたら僕も困る。」
少し照れた表情で少年が懇願すると、少女は少し驚いた顔をする。
「そんな顔で頼まれたら断れないなぁ」
クスクスと微笑んで、少女は少年の傍らで眠りについた。
少女の寝顔に癒されながら、少年はふと思う。
今はじっと耐えて、負傷者の回復を待つのが最善の方法に違いない。だが、先程から妙な気配を感じていた。
何故かは分からないが、ひどく危険な存在であると彼の本能は訴えかけていた。