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敗北の朝

絶望と希望の歌。

 凪ぎの夕べ…………。


 忸怩。想いたる想いの錯綜は、濃い空気、おのずと海に通りゆく姿で、畝間に刻んでみせながら、海は何事もなくただ、鷹揚に飲み込んでいく。


 人のいない場所へ時流は流れはじめる頃だ。

 世界の営みには刹那。終焉を祝う幾度目のかりそめの宴が訪れる。

 ボクはそれが過ぎるのをじっと待っている。

 

 動揺なき厳格の海よ。 

 秩序の母……女供よ。営みは去り……ようやく時は満ちていく。

 世界の動揺が表層を洗う、幽かに、振動が伝う。

 静寂と沈黙が隣り合い、じりじりとそれらは混じり、子を産む。

 それらは世界へと循環して、数多の姫となりて美しく、変貌していった。

 ボクは、それを見ている。

 海を越え陸を越え、大気を越えて、宇宙ですべてが交わって世界はやはり大海となる。


 姫の変幻と定着が無差別に、進化と融合を繰り返して、増殖は宝と呼ばれた。

 極上の美と陶酔……。

 反面、世界を覆いつくすのは、果てのない理不尽と憂いの反復だった。ボクはほくそ笑み、風もまた、狂気を帯び、海面は休まずに、うねる。


 夢に向かう頃だ、ボクも一途にそこへ向かった。

 忘却の大海へ…………。沈み込んだボクはただ、明晰で、ただに闇は濃さを増していき。

 そこへ。真理が舞う、燃え上がり、世界の血潮を乗せ、世界にただ、蔓延して。やはり、止めどなき時流のうねりで、それは循環だ。

 そこに謳歌はある。ただに。ひとつの夢はあり、信念はあり、底の知れない絶頂は見えている、程なくそれらは消えていく……。

 世界に風が吹く。ボクは中空へ漂い、やはり生ぬるい寝床にてゆらゆら揺れている……甘い誘惑に痴れ。

 魅了されやはり、世界を知ってしまう。

 たましいは溶かされこのままに。欲望の海より逃れることはなく、やはり、夜は深い。

 寄せては返すイメージの織物もやがて、忘却へと変遷し、人々はしぜん、体勢を伸ばし、秩序への帰還に予感して耳を澄ます。

 今日もまた、ボクは敗れてしまった。

 憎き、愛すべきその、共鳴の美しい音色に屈することしかできずに。

 だが、敗北の苦さや誘惑的陶酔は、世界の醜悪に蔓延はびこった膠着こうちゃくを浄化して、そして呆気なく純白の世界へ、ごくありふれた忘却の彼方へ…………。


 醍醐味。

 それは天空からか? 一目に脚が見え、何もかも、諦めた。それは世界の、人生の象徴だと即座に解っていた。

 玲瓏れいろうなガラスのヒールを履いた、白く、桃色のたおやかな足だった。

 如何ほどまでに! 真理と思えるような女王に跪いていようとも。

 ボクは真理としかセックスすることのない、そんな連れない男だ。

 ベタの深海から…………世界を裏切る心積もりを、虎視眈々と重ねつづけているばかりなのさ。


 そして敗北が去り、また敗北が訪れる。

 頭上には幾層もの揺らめきを透かしていとも簡単に、新たな陽が、射しはじめるのが分かっていた。

 さあ、また殴りあおう。

 凪ぎのふたたび……人々の眠りを呼び覚ます風が、もうすぐ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敗北を積み重ねる過程が綺麗なのと、毎日繰り返すことの鬱屈と。
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