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03:陵辱系よりもイチャラブが好きなミノタウロス。

 校舎の屋上から1階まで、階段を段飛ばしで駆け下りていくオレ。

 ミノタウロスのパワーがこもっているのか、飛び降りて着地するごとにゴンゴンと派手な音が鳴る。廊下や踊り場でその音が響くたび、生徒に驚いたような目を向けられてしまう。ミノタウロスがものすごい勢いで学校の階段を駆け下りてきたら、そりゃまぁ怖いわな。うん。

 下駄箱に着き、上履きからミノタウロス仕様になった大きな靴に履き替えて、外に出る。屋上から見えた校舎の陰へと一目散に駆け出した。

 そこは広いスペースじゃない。ぶっちゃけ狭い。そんな校舎の陰になる隙間のような場所に、ゴブリンが密集していた。全員が、この学校の生徒だというのは制服を見れば分かる。

 ガタイの大きいミノタウロスがいきなり飛び込んできたせいで、ゴブリンたちが一斉にオレの方に目を向ける。

 10匹。

 もうちょっといるか。

 15匹くらいのゴブリンたちは、全員だらしのない格好をしている。ブレザーの制服を着崩していて、ネクタイなんて首に引っかけているだけ。見るからに不良、というか、チンピラだ。

 そんな奴らが群れている真ん中に、似つかわしくない女の子がひとり。

 いや、ある意味、似つかわしい格好なのかもしれない。集団で襲われている女子校生、という場面そのままなのだから。

 彼女の制服ははだけていて、ブレザーが破かれている。スカートはまくり上がり、腕と足を縛り上げられていた。おまけに口もふさがれている。

 途端に、キレた。

 ブレザーを脱いで、腕に力をこめる。ミシリと、ミノタウロスの剛腕がきしむ。


「ブヘッ!」


 力いっぱい振り抜いた拳が、手近にいたゴブリンの顔を打ち抜いた。

 ゴキャ、と、生き物の身体から鳴るには危険な音を立てて、そいつは吹き飛んでいく。校舎の壁に叩きつけられて、そのゴブリンは意識を失った。痙攣してるから、死んではいないだろう。

 仲間の1人、いやさ1匹がいきなりのされて、ゴブリンたちがざわつく。


「おい、なんのつもりだおめぇ」


 あ、ゴブリンがしゃべった。

 モンスター化したクラスメイトたちも普通にしゃべってたから、当然ではあるけれど。ケダモノ認定したゴブリンの方から声を掛けられて、少し面食らってしまった。

 とはいえ、こいつらのやろうとしていたことはオレ的にアウトだから。ぶっ飛ばすのに変わりはない。

 でもまぁ、念のために確認しとこう。


「一応聞いとくけど、お前ら、ここで何するつもりだった?」


 相変わらず、モンスター顔な人たちは見分けられないし、表情は読み取れない。でも、目の前のゴブリンたちがオレに対してムカついているのは伝わってくる。ゴブリンの集団が一斉にメンチを切ってくるのは、なかなかの迫力だ。


「見て分かんねぇのか」

「これから俺たちみんなでイイコトするに決まってんだろ」

「なんだ、おめぇも混ざりてぇのか」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ、後からきて分け前よこせとか」

「これだから図体ばっかの牛頭は」

「図々しいにも程があんだろ」

「あ、まさかコイツ混ざりたくて1人ぶっ飛ばしたんじゃねぇの」

「脳筋の考えそうなこったな」

「でもよ、こいつが1人ぶっ飛ばしたおかげで、順番が回ってくるのが早くなったぞ」

「やべぇ、お前天才じゃね?」

「んじゃあ、そこのミノ。俺たちが終わった後なら、この女、好きにしていいぜ」

「終わるまで、ずっと横で指くわえて待ってな」

「いつ終わるかは俺たちにも分からねぇけどよ」

「日が変わっても終わらねぇんじゃねぇの?」


 ゲッヘッヘッヘ、と、下卑た笑いが周囲に響く。

 こいつらの言う「お楽しみ」がどういうものか理解した。

 同時に、欲望優先の下衆な考え方に辟易する。相手のことを微塵にも考えない自分本位な在り方にも。

 外面だけならオレも他人のことは言えないが、お前らは中身までモンスターかよ。

 気に入らない。

 だから。


「ぶちのめす」

「ゴキュ!」

「ブキャ!」


 ぶっといミノタウロスの剛腕で、ワンツーをキメる。

 ぶっ飛ぶゴブリン2号と3号。パンチというよりもマサカリを振るっているようなそれは、ゴブリンをたった一発で意識と身体の両方を吹き飛ばしてみせた。

 想像したよりも強いな、ミノタウロスの腕力。

 怒りと嫌悪感で頭を茹だらせながら、自分の持つ剛力をそこそこ冷静に把握する。

 腰をひねって、勢いを殺すことなく、続けて振るう右腕と左腕。

 さらに、玉よ砕けろとばかりの蹴りがグオンと音を立てて。


「ブフォ……」

「クヒィ……」

「グェェ……」


 3匹のゴブリンをのしてみせた。計6匹の強姦ゴブリンが、倒れ伏してうずくまる。

 さすがに笑ってばかりではいられなくなったのか。残りのゴブリンたちが全員、オレの方を向く。しかも揃ってナイフや棍棒なんかの凶器を取り出して、だ。


「てめぇ、本当にどういうつもりだよ。俺たちがお前に何かしたか? こいつがお前の女だとでも言うのかよ」

「さすがに違うだろそれは。こいつ、ミノタウロスだし」

「むしろ俺たちと同じ襲う側だろ」

「ミノタウロスのはどいつもデカいからな。ミノの相手をした女に当たったりするとよ、ユルユルになってて今ひとつなんだよな」

「まぁそれでも子供は産ませられるからいいけどよ」

「むしろちゃんと子供が産めるように可愛がる俺たちの方が、馬鹿力で女を壊しちまうミノタウロスよりよっぽど紳士的だぜ」

「あ、もしかして目をつけてた女が先に手を出されたからキレてるんじゃねぇの?」

「なんだよ、それじゃあ単にコイツがヘタレなだけじゃんか」

「あれだよ、ボクの方が先に好きになったのにー、ってタイプのアホだ」

「そういう奴はクズだよな。何もしねぇくせに後で泣きわめくとか、情けねぇったら」

「むしろ俺たちの優秀さを見せつけちまったってか」


 ゲヒャヒャヒャヒャ、と、笑うゴブリンたち。

 制服を着ている以上、元はオレと同じ人間で、同じ学校の生徒。今日になってモンスター化、ゴブリンになっていたということだろう。でも、その変化に違和感を覚えているようには見えない。

 むしろ、ゴブリンの「集団行動を取る、粗野で醜くて女を襲う魔物」という悪いイメージが強調されて、それが当然だと思っているようだ。

 気に入らない。

 手を握り、腕に力をこめる。ミノタウロスの剛腕が、いら立つようにきしむ。


「レイプをするような奴はケダモノだ。世の中にあり得ざる害だ。ましてや集団で女の子を襲うような奴らは、種族が何であれ去勢してこの世から抹殺すべきだ」


 ミノタウロスの威容をもって、胸を張り、堂々と主張する。

 女性には優しくあれ。

 乱暴に扱い、無理やり言うことを聞かせようとするなんて言語道断だ。


「相手の人格を一顧だにしない、性的対象としてしか見ないお前たちには我慢ならん」


 オレが行ってることは簡単なことだ。

『レイプは犯罪』

『女の子には優しく接する』

 それだけ。

 加えて言うなら、個人的に、女1人に男が多人数で掛かるようなのが死ぬほど嫌。

 こちらの啖呵に、ゴブリンたちが静かになる。奴らの表情が少し変わったような気もするけど、それがどんな変化なのかは分からない。

 オレの言っていることは、普通の男なら大多数が同意することだと思う。

 でも。


 ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!


 返ってきたのは。ゴブリンたち全員の大爆笑。


「おもしれぇ!こんなおもしれぇ奴がミノタウロスにいたのか!」

「脳筋の上に恋愛脳なのかよ!」

「救えねぇほど頭がゆだってんな!」

「愛が大事とか、本当に言う奴初めて見た!」

「しかも人間のメスを大事に扱えってか!」

「子供も産める穴つき動物でしかねぇのによ!」

「といっても、愛玩動物って意味なら大事に扱ってるぜ?」

「壊れたらポイして次、だけどな!」


 ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!


 腹を抱えて、オレに指を差しながら、大声で嘲笑するゴブリンたち。

 思わず、溜め息がこぼれる。

 どうやらモンスターの頭の中には、慈愛とか思いやりとか、そういったものは露ほどもないらしい。むしろ人間に対する考え方が前提から違うみたいだ。


「あー、笑った笑った」

「これがギャグならすげぇ才能だぜ」

「本気だったらもっと笑えるけどよ」

「まぁどっちにしても、こいつが俺たちの邪魔してんのは変わらねぇ」

「そうだな」

「股間はギンギンなのに、すっげぇムカムカしてきたぜ」

「女をヤった後に、コイツもヤってやれよ」

「ふざけんな、男の趣味はねぇんだよ」

「ミノをヤルとか、ないわ。ないわー」


 笑いと、声のトーンが変わる。

 ゴブリンたちは凶器を握り直して、オレに向き直った。


「とりあえず。ムカつくな、てめぇは」

「だからよ」

「死ねやゴラァ!」


 示し合わせたかのように、ゴブリンたちが襲い掛かってくる。


「てめぇらこそ死ねよ」


 もう腕に力はこめている。

 迎え撃つように、叩き潰すつもりで腕を振るう。

 だが当たる直前。先頭のゴブリンが身をひるがえした。

 オレの剛腕を避け切る。威力があろうが当たらなければ意味がない。


「う、らぁ!」


 伸びきった腕が、ゴブリンの棍棒に打たれて。わずかに痺れが走る。

 呻く間もなく、続けて別のゴブリンがナイフを振るって切り掛かってきた。

 さらに続けて別の棍棒が腹を、足を、殴打してくる。


「ぐおっ」

「どうしたぁ、さっきの威勢はどうしたよぉ!」


 呻くオレ。わめくゴブリンども。

 1匹が煽ってくる間にも、次々と棍棒が、ナイフが、襲ってくる。

 正面だけじゃなく、横から、後ろから。ゴブリンたちが殴り掛かり、切り掛かる。

 入れ代わり立ち代わり、つかず離れずの距離で、まるでまとわりつくように。

 ミノタウロスの身体が頑丈なのか。ゴブリンたちの凶器がそれほど強くないのか。

 オレの身体に大きなダメージは通ってこない。

 人間の頃の感覚的には、定規で肌を切りつけられているような感じ。

 それでも傷みはもちろんある。

 肌も切れるし、裂傷も起こる。

 制服のワイシャツとズボンは切り刻まれて、血がにじみ出ていた。

 でも、傷みよりも煩わしさの方が大きい。


「うざっ、てぇんだよお前らぁっ!」

「グェッ!」


 1匹の頭をワシづかみにしてそのまま振り回す。

 力任せのそれはゴブリンの身体そのものを凶器にした。

 回転するミノタウロスの巨体。まとわりついていた奴らを引きはがしに掛かる。


「うおらっ!」

「ブギュ!」

「ギュゲ!」


 つかんだゴブリンの頭をハンドボールに見立てて、身体ごと思い切り投げ放る。

 ゴブリン1匹を巻き込んで、計2匹を校舎の壁に叩きつけてノックアウト。


「死ねコラァッ!」

「てめぇの方がな!」

「プギャ!」

「ついでだ!」

「グキョ!」


 背中からナイフを突き立ててきたゴブリンに肘打ちを見舞う。

 ナイフが刺さるよりも前に相手の頬を砕いてみせる。

 勢い余った駄賃とばかりに、別のもう1匹にも拳を叩き込んだ。

 当たらなければ意味がない。

 でも当たれば一発でゴブリンたちは動けなくなる。


「ミノタウロスのパワー、万々歳だ」


 痙攣して、倒れ伏し、動けなくなったゴブリンがさらに4匹追加。

 あと残ってるのは……。


「さすがにもうやべぇな」

「くっそ、お楽しみタイムを邪魔しやがって」

「仕方ねぇ、トンズラすんぞ」

「てめぇの顔、覚えたからな」


 残りのゴブリンたちは、一目散に逃げだした。雑魚そのものの捨てゼリフを残して。のびている仲間には目もくれずに。

 ……仲間っていう意識がないのかもしれないけど。

 さて。

 オレが殴る蹴るしてノックアウトしたゴブリンたちをどうするか。

 とりあえず、死んだふりからまた襲われないように、後ろ手にした上で腕をネクタイで縛っておこう。その上で、先生の誰かに報告しておけばいいか。

 正直なところ、どれだけ取り合ってくれるかは不安。でも放置するよりはマシだろう。

 ゴブリンどもの腕を縛ってから、放り出していたブレザーを拾って、汚れをはたく。そして、乱闘現場の隅っこでうずくまってた、縛られている女の子の前に立つ。

 目が合うと、びくり、と彼女が震える。

 無理はない。あんな目に遭った後で。しかもこっちは牛顔だし。

 でもなぁ。ちょっとショック。

 落ち着け、クールになれ、と自分に言い聞かせながら。

 オレのブレザーを彼女の肩に掛けた。

 彼女の制服は、ブレザーはビリビリになり、ブラウスのボタンは引きちぎられている。その上、泥だらけだ。ミノタウロス用の上着なら、人間の女の子であればかなり身体を隠すことが出来る。


「腕と足の拘束を解く。じっとしてろ」


 かがみこんで、彼女の足元を見る。しっかりとしたロープで縛られていた。

 つまり、あのゴブリンたちの目的は計画的で。用意周到だったわけだ。

 少し思案し、結び目を解きに掛かる。ミノタウロスの太い指のせいで難儀したけど、足のロープと、続けて腕を縛っていたのも続けて解いた。

 彼女の両手両足が自由になる。

 口をふさいでいた猿ぐつわも外そうとしたところで。

 目が合い。


「……!」


 彼女は、足をもつれさせながら脱兎のごとく逃げ出した。


「……あー。まぁ、分からんでもないんだが」


 大枠で見れば、オレもモンスターだからね。暴れていたのを間近に見ていたら、そりゃあ怖くもなるわ。強姦されかけたすぐ後だしな。

 でも。


「ちょっと、なー」


 へこむわ。

 少しばかり落ち込んでいるうちに。気がつくと、縛って転がしたままだったゴブリンたちも姿を消していた。

 いつの間に。

 足は自由にしたままだったからな。縛るものもなかったし。当然と言えば当然か。

 ぬかった。

 誰もいなくなり、オレを痛めつけた凶器の類も全部回収されていた。狡猾というか、抜け目がないというか、ゴブリンたちの手際の良さに呆れるやら感心するやら。

 残っているのは、ボロボロになったオレの身体だけ。


「帰るか」


 朝から今現在まで、想定外過ぎることばかりで精神的に参っていた。けれど、大暴れしたことで幾分スッキリしている。

 もちろん、ゴブリンたちに感謝するつもりなんてこれっぽっちもない。むしろ見つけたら今度こそ泣かしてやるとも思っている。


「でも、見分けがつかないんだよなぁ」


 校内だけでもたくさんいるゴブリンの生徒から、今日ぶん殴った奴を特定できる自信はない。せめて、ゴブリンの生徒があんな奴らばかりでないよう願うばかりだった。






 翌朝。

 目を覚ましてもオレはミノタウロスのままだった。

 朝一番から大きな溜め息を吐く。

 ごくごくほんのわずかに残していた望みが、本格的に潰えたことを知った。


「これからずっと、オレはミノタウロスのままなのか……」


 もうだめだ。本当にあきらめよう。

 そんな失意にまみれながら、落ち込んでる様子を隠さないオレ。ミノタウロスの父さんとニンフの母さんに心配されながら家を出て。足取り重く学校へと向かう。

 早々に教室に入って、自分の席でボケッとしていると。

 誰かに呼び出された。

 呼ばれるままに教室の外へ出てみれば。


「あのっ」


 見覚えのある、人間の女子生徒がひとり。


「昨日は逃げ出してしまってごめんなさい。それと、ありがとうございましたっ」


 ゴブリンたちに拉致されかけた、あの女の子だった。




 -続く-


「ノクターンノベルズ」から移動した第3話。

第9話までは毎日投稿します。

評価や感想などいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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