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異世界が来た。 ~ミノタウロス、世界(陵辱系エロ)に刃向かいハーレムを目指す~ R-15版  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ


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10/19

10:女の子と青春のひと時を堪能するミノタウロス。

 ミノタウロスのオレが、人間族の女の子に懐かれた。

 中身が人間の感覚のままなオレがどう感じているかはさておいて。周りから見れば、それはとても奇異なものらしい。

 まず何より、高槻さんのクラスメイトだという女の子3人がオレを警戒しまくっている。高槻さん本人に「この人はいいミノタウロスなんだよ」みたいな説得をされても、信じ切れていない様子。いや、彼女のこと自体は信頼しているんだと思うけど、オレのことが信用するに至らないと言うべきか。

 彼女たちにしても、いままでミノタウロスの振る舞いとかを見てきているだろうから、そう簡単には受け入れられないと思う。虐げられている人間族としては、むしろ警戒するのが普通のことみたいだから。

 だから、面と向かって怯えられて、睨まれて、怖がられても、仕方ないと割り切れる。

 見えない胸の内ではハートがボロボロだけどな。

 でもそれはオレの勝手であって。人間族だというだけで、これまで散々酷い目に遭ってきただろう彼女たちには、なんら関係がないし。知ったことかって感じだろう。

 種族じゃない、外見じゃない、中身を見てくれ、とか主張したって「無茶を言うな」というものだ。オレ自身が「ミノタウロスの女はちょっと」とかヌかしてるんだから。説得力なんてあるわけがない。

 だから、彼女たちに避けられても仕方ないと思う。

 でも高槻さんは、彼女の方から寄ってくる。

 しかも朝から。

 登校の途中、おどおどしながら周囲を見回し、たたずんでいる彼女を見掛ける。

 で。オレの姿を見つけると、途端にすっごく嬉しそうな笑顔に変わるんだ。


「おはようございます、厨子さん」

「おはよう、高槻さん」


 元気よく駆け寄ってくる高槻さんに、手を上げながらオレも挨拶を返す。たったそれだけで、彼女はもうニッコニコだ。

 挨拶を交わす。きちんと対話する。当たり前と言えば当たり前な、些細なこと。そんなことで微笑んでくれる。それだけで嬉しい。

 うん。細かいことはどうでもいいよね。朝から女の子と並んで登校とか、人間だった頃にも経験したことがなかったし。

 強いて難点を言えば、ミノタウロスのオレと、人間族で小柄な彼女では、歩幅やら向き合う距離やらがすっごく離れていることだけど。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでも」


 オレを見上げている高槻さんに、特に何かをいうでもなく。ついつい彼女の頭に手を置いて撫で回してしまう。頭がいい高さにあるので自然と手が伸びてしまう。もちろん、ミノタウロス的パワーが入らないように優しく、優しく。

 高槻さんの方は、それを嫌うような素振りは見せない。笑顔のまま目をつむり、撫でられる感触を堪能しているようなのは、オレの思い込みだろうか。とにかく、さほど気にしていないようなので良しとする。

 そんなスキンシップを経てから、彼女に合わせて並んで歩く。歩きながらおしゃべりをする。

 話している内容は、他愛のない世間話程度のもの。今日の授業が同だとか、人間族の友達がどうだとか、昨日見たテレビがどうだとか。

 そのほとんどは、高槻さんがしゃべって、オレが相槌を打つもの。時々オレがツッコミを入れて、話を膨らませることもある。みたいな感じ。

 本当に世間話。内容は彼女に任せっぱなしだ。

 通学路の途中から、校舎に入って教室の前まで。時間にして20分あるかどうか。どれだけマシンガントークをしたとしても、話せる量なんて高が知れてる。

 もちろんずっとしゃべりっ放しってわけでもない。何かを話すでもなく、ただ一緒に歩いているだけの時もある。そういう時は、彼女も無理に話題を探してしゃべるようなこともない。

 しゃべっていても、黙っていて、不思議と居づらさや気まずさは感じない。ごく普通のやり取り。朝からとても気分が良くなる。いいね、こういうの。


「また、お昼にね」

「はいっ」


 教室前で別れる際に声を掛ければ、嬉しそうに笑顔を見せてくれる。

 心が、ほんわかしてくる。

 ニヤけてはいないと思う。ミノタウロスのニヤけ顔なんて、相当気持ち悪い部類に入るだろう。人間族から見てどう感じるかまでは分からないけどな。


「……」

「あっ」

「ひゃっ」

「おはよう。琴原さん、相川さん、汐見さん」


 ここは教室前。誰と顔を合わせても不思議じゃない。知り合ったばかりの、人間族の女の子たちと会うのも普通のことだ。

 高槻さんのクラスメイトで、人間族の女の子たち。彼女らがオレを見る目は、一般的な人間族がミノタウロスに向けるものとさほど変わらない。

 つまり、敵意と、忌避感と、畏怖だ。

 それでも、オレが高槻さんに手を出していないことから、いくらか対応がマシなのかなと思う。マイナスのものとはいえ、直に感情を向けてくるわけだから。普通なら近づきもしないで逃げ出すだろう。

 で、だ。そんな態度の3人を見て、高槻さんが慌ててとりなそうとしたり、オレに謝ってきたりするのがデフォルトになりつつある。そのたびに、「気にしなくていいよ」と高槻さんをなだめるまでがセットで。

 オレとしては、女の子との接点ができるのは嬉しい。あまり好意的ではないにしても、彼女たちと絡むことで、襲い掛かるようなモンスターたちに対する牽制にならないかなという思いもある。モンスター的思考で、「オレのモノに手を出すな」みたいな感じで。

 見た目がモンスターな生徒や先生たちは、見た目を裏切ることなく思考も価値観もモンスターそのもの。「お前弱い。だから嬲る」みたいな。程度の差はあっても、弱肉強食。弱い奴は何をされても文句は言えない、っていう考え方だ。

 人間族は、個体としての力も能力も特に秀でていない、人種的に弱い存在だ。あらゆるモンスターな種族から虐げられているのが現状だ。

 ミノタウロスのオレは、虐げる側のモンスターに入ってしまうわけで。

 だから、彼女たちの態度に気を悪くしたりはしない。

 また後で、と、高槻さんに声を掛けつつ。クラスメイトの3人には挨拶に留めて。

 オレは自分の教室に戻っていった。






 クラスが違うから、授業中はもちろん顔を合わせない。

 授業の合間の休み時間まで教室に押し掛けるような真似はしない。それじゃあまるでストーカーだ。モンスターとは違った意味でヤバい奴になってしまう。

 午前中の授業が終わって、昼休み。高槻さんと話をしだしてから、屋上で一緒に昼食をとるようになった。

 女の子と、屋上で、一緒にお弁当をつつく。

 しかも、高槻さんがオレの分のお弁当まで作って来てくれるんだ。

 なんていう、青春のひとコマ。生きててよかった。

 これでオレの姿がミノタウロスじゃなかったらもっと……。

 オレの外見はさておいて。

 屋上のベンチに並んで座り。高槻さんは手にしたバッグからふたつの弁当箱を取り出す。ひとつはオレに作って来てくれたものだ。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、高槻さん」


 掲げるようにして、彼女の弁当箱を受け取る。毎日、きちんと、ミノタウロスの大きな頭を下げて、感謝を伝える。

 彼女はそのたびに大袈裟だと言う。でもオレからしたらそんなことはない。女の子がわざわざ作ってくれたお弁当だ。しかも毎日用意してくれる。嬉しくて涙が出そうになる。

 実際、母さんに「知り合った女の子が弁当を作ってくれることになった」と伝えたら、泣いて喜ばれた。ニンフの小さい身体でグルグル飛び回りながら。

 それもまぁ、さておいて。

 ミノタウロスの手で持つと小さく感じるけど、ごく普通のサイズの弁当箱。

 うきうきしながら、これまた大きくなった手で布の弁当包みを解く。蓋を開いて、今日のお昼ご飯とご対面だ。


「おぉ……」


 2層に重ねられた弁当箱は、片方がおかずで、もう片方がごはん。

 ご飯の方は白米が敷かれていて、ゴマがパラパラと。中央には梅干しが。

 おかずは、ふっくらとした玉子焼きに、ミニトマト、ほうれん草のおひたし。さらにメインのおかずとしてハンバークが多めに入っている。シンプルだけどさりげなくガッツリ系だ。


「冷凍ものとか、簡単なものなんですけど」

「いやいやいや、そんなことないよ。美味しそうじゃないか」


 お世辞とかそういうんじゃなくて、本気で美味しそうなんだよ。多めに入ったハンバーグが、男の子のハートを狙い撃ちにする。もっと言えば個人的に、ほうれん草のおひたしがポイント高い。これもきちんと作っているというんだから、すごい。これが女子力とものなのか。良く分からないまま言葉を使ってるけど。

 言葉よりも、実際に食べて反応を見せるべきだよね。


「では。いただきます」

「はい。召し上がれ」


 ミノタウロスの大きな手で箸を持ち、いただきますをする。

 まず、ひと口ごはんを頬張って。それからおかずに一品ずつ口に運んで、噛みしめる。午前中の授業をこなして、適度に空腹になったお腹が満たされていく。

 食べている間は、無言。もくもくと、ご飯とおかずを味わいながら、じっくりと食す。

 そんなオレの様子を見ながら、高槻さんはにこにこしている。もちろん、オレのものと中身が同じな自分の弁当を食べながら。

 ほとんどおしゃべりをして過ごす朝の時間と違って、腰を据えた昼休みはかなり静か。落ち着いた空気が流れる。ミノタウロスらしくないかもしれないけど、こういうのは心地いい。場を取り持とうとかしなくても息苦しくならない。彼女と過ごす、そんな空気が気に入っていた。

 とはいっても、場所は誰でも出入りができる屋上なので。オレたち以外の生徒もいて、思い思いに昼飯時を満喫しているわけだ。ほとんどがモンスターな生徒だけど。

 そんな中で数少ない人間族が、オレと高槻さんのランチタイムに同席している。


「なんなのその雰囲気……」

「やり取りがもう、恋人っぽいよね」

「むしろ夫婦なんじゃ、って空気よこれは」


 ひそひそ話のつもりかもしれないけど、聞こえてるぞー。

 高槻さんの耳にも届いているみたいで。オレの横に座ったまま、顔を赤くして、恥ずかしそうに下を向いている。可愛い。


「それにしても」


 感心するのは、彼女たちの行動。

 度胸と言った方がいいかもしれない。

 人間族から見たら、ミノタウロスっていうのは「腕力任せの凶暴な脳筋」だ。同族の友達が心配だからって、そんなモンスターの前に顔を出せるものだろうか。オレだったらちょっと遠慮したい。

 なんて話を振ってみたら。

 琴原さんいわく。


「あんなに人間以外のモノに怯えてた都子が、いい奴だって言うんだもの。あんたの言葉は信用しないけど、都子の言うことは信用するわ」


 続けて愛川さんが言うには。


「都子がいい人だって言うなら、信じてあげたいけど。やっぱり面と向かっては……」


 最後に汐見さんは。


「都子ちゃん、あなたと会ってから笑うことが多くなったんです。でも、ミノタウロスさんはやっぱり怖いし……」


 当然と言えば当然の答え。むしろ面と向かって話をしてくれるだけでも大したものだ。

 ゴブリンやらオークやら、もちろんミノタウロスなんかも、これまで散々人間族を襲ってきたんでしょ? 男女問わずいろんな意味で。そんな中の1匹が友好的に接してきたら、信用どころか警戒してくるのは仕方ないと思う。


「だから、オレへのみんなの当たり方は当然のことだよ」


 これで相手がテンプレ的モンスターだったらどうなってるか。この場でブチ切れて、彼女たちに襲い掛かったりぶん殴ったりしてる。

 幸い……、幸い? オレは人間的理性があるから。女の子に手を上げることは躊躇するし、女の子はできるだけ優しくしてあげたいと思う。

 でもミノタウロスの身じゃあ、そんなことをいくら口にしても信じてもらえないだろうから。せめて態度で示すくらいしかできない。高槻さんみたいに、分かってくれる相手がいるかもしれないというだけで御の字だ。せめて必要以上に悪感情を持たれないようにはしないとな。


「……」


 琴原さん、愛川さん、汐見さんの3人は、まるで「変な奴を見た」みたいな目をして互いの顔を見返す。その反応はちょっと傷つくぞ。

 人間族とモンスター。種族の常識と意識の壁は、高くて厚いと痛感した。

 そんなお昼時だった。




 -続く-


一緒に登校はともかく、お弁当を作ってくれるような女の子はどれだけ実在するのか。

ゆきむらです。御機嫌如何。



実際にどうかは知らないけどね、経験ないからさ!(逆ギレ)


ともあれ第10話であります。

前回の投稿から2週間も開くのは避けたかったので、

書けたところまでを投下して以下次回。

週末には投稿できるよう頑張ります。




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